表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/83

鎮魂ノ読経


工場跡地・奥の空間/宵闇


足を踏み入れるたび、埃と霊気の混じった重い空気がまとわりつく。黒川の黒と黄色のオッドアイがわずかな光を捉え、辺りを警戒する。


「……ここだ。音が……聞こえる。心臓じゃねぇのに、ズンズン響いてくる」


因幡は静かに後ろに立ち、落ち着いた足取りで歩み寄る。長い黒髪を後ろにひとつに束ねた姿で、薄手の和服が夜の風に揺れる。


「鼓動に似た波動だ。未浄化の霊が、誰かに“思い出される”のを待ってるんだよ」


「……先生、その格好……地味に説得力あってムカつくんですけど」


「失礼な。これでも“供養読経”のつもりだよ。――ただ、俺なりの方法で」


因幡が懐から文庫本を取り出す。淡く擦れたページが闇の中で音を立てる。


「準備して。俺が呼ぶ。お前が“門を開ける”」


「……またアレやんのかよ」


「“アレ”じゃない。“神事”だ」


「神事にしちゃ、エロすぎだっての……」


因幡が静かに朗読を始める。

深い声、ゆっくりと、湿った空気に沁みこむような官能的な台詞。


> 「――ゆっくりと、指が喉元をなぞる。熱がそこに溜まっていく……彼女の吐息が耳朶を打ち、言葉はやがて甘い悲鳴へと――」


空間に変化。歪む空気。黒川のオッドアイが一瞬強く輝き、霊たちの気配がぐっと押し寄せる。


「くっ……また来やがった……!」


黒川が腕まくりし、それを自分の口元へ持っていく。


「――……っし、これでどうだ……“くちゅっ、ぴちゃっ……”」


彼の口元が音を鳴らすたび、空気が“鎮まる”。官能朗読と効果音の合わせ技により、霊たちは戸惑い、やがてその存在を露わにし始める。


「……見えたか?」


「ひとり……いや、三人……!……女、男、……あいつは、子どもか……!」


霊たちは声を持たず、しかし“熱”だけを発して漂っていた。その目は、憎しみでも怒りでもない。ただ、助けを求める“飢え”。


「……っ、先生。こいつら、実験で“閉じ込められた”まんま、死んだ……!」


「やっぱりか……この施設、霊的な媒介体を使った“意思誘導”の試験場だった。物理でも、精神でもなく――魂を、引きずり込むために」


「だからここ、空気がずっと“泣いてる”みてぇなんだな……」


因幡が朗読の調子を少し変える。官能の中に、優しさのある言葉が混ざる。


> 「――触れることはできない。けれど、想いは残る。望んだ明日が、誰かの中で繋がるなら……」


黒川も静かに呼吸を整え、眼鏡越しに霊たちを見つめながら語りかける。


「……痛かったんだろ。怖かったんだろ。――でも、終わったんだ。お前らがここにいた証拠は、ちゃんと残す。だから……もう、行け」


ふっと、霊たちの姿が薄れていく。誰かが「ありがとう」と言った気がした。


「……やっぱり君は、ちゃんと“扉”になってる」


「……あー……やってやったけどさ。腕、唾でベッタベタなんだけど。あと、ちょっと恥ずかしいわ」


「誇っていいよ。“エロと霊媒”をここまで融合できるのは、世界で俺らだけだ」


「誇れるかっ、そんな肩書!」


言いつつ、ふたりは崩れかけた外階段に座り込む。工場の空は、静かに澄んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ