朝から平常運転
「ただいま」
ひょいっとリビングの襖が開き、因幡が穏やかな表情で戻ってくる。手にはまだ顔を拭ったばかりのタオルが握られていた。
「ん、どうしたの、黒川。機嫌いい顔してるじゃないか」
「別に……してないですッ」
黒川はとっさにそっぽを向くが、その耳まで赤く染まっていてごまかしきれていない。
因幡はそんな黒川の隣に、すっと腰を下ろすと――遠慮なく肩に頭を預けてきた。
「んー……黒川、温かいなあ。やっぱり朝もいいな、こういうの」
「っ、な、何やってんだ、先生……!ここ、他人ん家っすよ!?マジやめろって!」
「だって、黒川がかっこよかったから。気分いいんだよ、今」
にこっと無邪気に笑う因幡の顔があまりにも自然体で、逆に破壊力が高い。
黒川はもはや押し返すこともできず、肩まで赤くなって口をパクパクさせるばかり。
そんなふたりの様子を見ていた柚瑠が、思わず声を上げた。
「ちょっと待て!人んちでイチャイチャしてんじゃねえ!!」
バシィッと手のひらでこたつの天板を軽く叩いてツッコミを入れると、因幡はケロッとした顔のまま。
「え、ダメだった?」
「ダメに決まってんだろ!空気読め!」
「じゃあ……もうちょっと静かにするよ」
「そういう問題じゃねえっての!」
そのやり取りを聞きながら、律はといえば――
顔を手で覆って、真っ赤になって縮こまっていた。
「~~~……なんで朝からこんな破壊力を……」
「律の反応が一番かわいいぞ。なあ、黒川」
「因幡さん、そういうの今はやめてくださいっ……!」
赤面しながらもどこか楽しげにツッコむ律の横で、黒川は「……マジでもう……」とぼやきながらも、因幡を追い払おうとする様子はない。
こたつの中であたたかい湯気と笑い声がゆるく混じり、冬の朝の空気はますますにぎやかに、そしてちょっとだけ甘くなっていった。




