表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/83

秘密とコーヒー

翌朝。

朝の光が障子の隙間から差し込む頃、こたつのある居間にはすでに柚瑠が湯気の立つコーヒーをテーブルに並べていた。


「ふたりとも、よく寝られたか?」


「……あ、はい。ありがとうございます、柚瑠さん」


律は一瞬だけ黒川の方を見かけて、すぐに目を逸らす。頬がじんわり赤くなっているのがわかる。

そしてその黒川はというと、湯呑みを持つ手を無駄に忙しそうに動かしながら、律にだけは決して顔を向けようとしなかった。


「別に、いつも通りですよ。寝起き悪いだけだっての……」


そう言いつつも、ぼそぼそ呟く声は明らかにどこか落ち着かない。

律と視線が合いそうになるたびに、黒川は目線を泳がせ、口元を引き結んでうつむく。

耳の先がうっすら赤い。


「……先生。昨日のこと、絶対、忘れさせてくださいね。マジで」


「ん?何のこと?」


因幡はそう言ってにやりと笑い、黒川の隣で優雅にコーヒーをすする。

恥ずかしさで床に沈みたい黒川の横で、彼はと言えば―――まったく微動だにせず。


「ほんと……マジで、どの神経してんですか。……俺の立場、考えてくださいよ……」


「考えたよ。……“可愛かった”って意味で」


「……っ、やっぱり先生、反省してないだろ……!」


黒川は顔をそむけながら、テーブルの上に突っ伏す。その髪越しに、ちらりと視線が律へ向きかけて――やはりすぐに逸らされた。


その律もまた、コップを持ったまま落ち着かず、コーヒーに口をつけてはすぐ戻すを繰り返している。


(……思い出しちゃだめなのに……)


あの、ふたりのキス。布団の上、重なっていた影。

律の頭の中には、昨夜の衝撃映像がフルカラーで再生され続けていた。

視界の端に黒川が入るたびに、顔がかっと熱くなる。

因幡の落ち着いた様子には、むしろ恐れすら感じてしまう。


そんな三人の微妙な空気に全く気づかないまま、柚瑠はトーストを焼きながら、マグカップを律の前に置いた。


「はい、ミルク多め。律、顔赤いぞ? 風邪か?」


「っ……ち、違います!なんでもないです……!」


「ふーん?……まぁ、そういうとこも律らしいけどな」


にやりと笑って柚瑠が肩をすくめる。

何気ない言葉が、律の心にさらに火をつける。


(……なんでみんな、普通なんですか!?)


内心で叫びながら、律はマグカップを両手でぎゅっと握った。


その向かいでは、黒川がいまだにうつむいたまま、コーヒーを飲むふりをして湯気の奥に隠れていた。

因幡だけが、まるで昨夜の出来事などなかったかのように、落ち着いた朝を楽しんでいた。


---


朝食が終わり、柚瑠が洗い物をしている間――

黒川はそわそわと落ち着かない様子で、こたつの向かいに座っていた律に向き直る。

そして、不器用に口を開いた。


「……昨日の夜、変なもん見せて、悪かった」


「……っ、あ、いえ、そんな……!」


律は箸を置きかけて、思わず姿勢を正す。

黒川は目を逸らしたまま、やや早口で続けた。


「……先生と、俺。付き合ってる。ちゃんと、そういう関係」


「……!」


律の目が驚きで大きく見開かれる。

その後ろから、絶妙なタイミングで柚瑠が現れた。


「え、マジで?黒川と因幡、そういう仲だったのか」


「……今さら!?」


律がびっくりして振り返ると、柚瑠は首をかしげて、あっけらかんとした表情。


「うん?仲良いなとは思ってたけど……まさか、そういう意味でとはなー」


「……柚瑠さん、呑気すぎです……」


律が呆れたように言うと、柚瑠は「えー、そうか?」と悪びれもなく笑う。


「俺、めちゃくちゃ驚いたのに……」


「律は真面目すぎるんだって。可愛いとこでもあるけどな」


「~~っ、もうっ!」


赤面しながら顔を伏せる律の横で、黒川は小さく肩をすくめた。


「……ま、そういうわけだから。変な空気になったら悪いと思って、言っときたかっただけ。これからもよろしく」


タメ口ながらも、不器用に誠意を込めた黒川の一言に、律は一瞬ぽかんとし、それからやわらかく微笑んだ。


「……はい。こちらこそ、よろしくお願いします。びっくりしたけど……嬉しかったです」


黒川が少しだけ目を丸くして、それからぶっきらぼうにそっぽを向く。


「……ったく、からかってんのかよ」


「からかってませんって……!」


わずかに顔を赤くして言い返す律と、それに照れながらもまんざらでもなさそうな黒川――

そんなふたりを見ていた柚瑠は、ニコニコしながらマグカップをすすった。


「なんか、いい空気じゃん。青春って感じでさ」


冬の朝。陽の差すこたつの中で、四人の空気は、ますますあたたかくなっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ