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官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


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39/83

冷めない体温

廃ビルを後にし、夜風の中を帰路につく四人。

タクシーを二手に分けて乗ることになり、因幡と黒川、柚瑠と律がそれぞれ別方向へ向かう。


◆因幡×黒川


「……はぁ、やっと脱げた」

黒川が安堵の息を漏らしながら、シャツの第一ボタンを緩める。


いつもの地味な黒シャツに着替えたというのに、なぜか因幡は――少しだけ名残惜しいような気持ちで、それを眺めていた。


「……さっきの格好、案外似合ってたな」


「……急に何ですか。あんなの、もう二度とゴメンだっての」


「本当に?」

小さく笑って、因幡は夜の車窓に視線を向けた。


「……ま、強要はしないけど。もしまた機会があれば……見てみたい、かもな」


黒川が一瞬、目を丸くする。

そのあと、照れ隠しのように鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「……先生、からかってます?」


「いや、わりと本気」

そのまま笑いもせずに言われて、黒川の鼓動がまた早まった。


(なんなんだよ、もう……)


すでに因幡に対する想いは、自分でもはっきり自覚している。

なのにこうして距離を詰められると、嬉しいくせに、胸が騒いで仕方なかった。


そして因幡自身も――自分がどこまで「気付かないふり」を続けられるのか、少しずつ怪しくなっているのを感じていた。


(似合いすぎてて……一瞬、見惚れてた。そんなもん、気付かれたらアウトだよな)


夜のタクシーは静かに走る。

ふたりの距離は近くて、でも心の奥で何かがじんわりとほどけていくような、そんな夜だった。


---


◆柚瑠×律


律はベージュのワンピースを脱ぎ、いつものパーカーに着替えていたが、頬の赤みはまだ引いていなかった。


「なんか……柚瑠さん、じっと見てた気がするんですけど」


「……見てた」


はっきりと言われて、律がむぅっと唇を尖らせる。


「えっ、そんな堂々と……!?」


「だって、ほんとに可愛かったから」

柚瑠は、あくまで真面目な表情で答えた。


「最初は“守ってやらなきゃ”って思ってたけど……途中から、“うかつに見惚れて狙われそう”って、こっちが警戒する側になってた」


「そ、それ……褒めてます? 怖がってます?」


「どっちも。本能が混乱するくらい可愛いってこと」

さらっと言われて、律は完全に顔を真っ赤にしてうつむいた。


「……そんなこと言われたら……また着ちゃうかも……」


「……次があるなら、ちゃんと撮らせて。保存用に心の支えにするから」


「~~~っ!やっぱり冗談ですっ!」


けれど――律の内心では、ほんの少し、

“柚瑠のためなら、また着てみたいかも”という気持ちが芽生えていた。


一方の柚瑠もまた、

“あんな律をもう一度見たい”という気持ちが、胸の奥でしつこく灯っていた。


(困ったな……。普段の律と、あの姿の律、どっちも好きすぎて、選べない)


夜風は静かで、けれどふたりの胸の内は、まだ少し熱を持っていた。



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