秋風の残響
除霊も終わり、少しだけ遊んだ後。
4人は駅までの道を歩いていたが、律が柚瑠の手を取り、「コンビニ寄ってきます!」と言って強引に連れ出していった。
「あっ、おい律っ……!……ったく……」
残されたのは因幡と黒川のふたり。
夜の風は少し肌寒いが、賑やかな店の明かりと酔客の声に混じって、それぞれの足音が小さく響いていた。
「……なんか、今日は楽しかったな」
黒川がふと呟いた。
「そうだな。にぎやかなのも、悪くない」
因幡は手をポケットに入れたまま、いつもよりゆっくりと歩く。
その歩幅に自然と合わせていた黒川は、ぽつりと問いかけた。
「先生……ああいう霊を前にするとき、何考えてるんですか?」
「“ああいう霊”?」
「……たとえば今日の、心を残して成仏できなかった人たち。好きな人に伝えられなかった想い。……自分がああなったらどうするんだろうって、ちょっと考えちゃって」
因幡は少し立ち止まり、街灯の下で振り返る。
黒川の視線は、夜風に揺れる自分の袖を見つめていた。
──あの日、霊が消える間際に。
彼は、確かに因幡の袖の裾を掴んでいた。
「……お前は、“伝えたい”と思う相手がいるのか?」
「……先生だったら、どう思います?」
その問いは、答えになっていなかったが──
因幡の胸に、何かがじんわりと沈んでいく。
気付かないふりもできた。
けれど、今夜の黒川は少しだけ踏み込んできている。
「俺だったら……もし、誰かを本気で好きになったとして。どうしても叶わないってわかってても……」
一歩、因幡は近づいた。
黒川の黒目がちな瞳がわずかに見開く。
「伝えずに死ぬなんて、絶対イヤだと思う」
ほんの一瞬、沈黙。
「……そっか」
黒川ははにかむように笑った。
「俺も……そうかもしれないです」
──けれど、その“誰か”が誰なのか。
あえて因幡は聞かなかった。
夜の街に、かすかな秋の匂い。
歩き出したふたりの肩が、ほんの数センチ近づいた。




