これからも仲良くしよう会
「というわけで、ここが本日の戦場です!」
律が満面の笑顔で掲げたのは、駅前のカラオケボックスの看板だった。
「……なんだよ戦場って」
眉をひそめる柚瑠の腕を、律がうれしそうに取る。
「だって今日は“これからも仲良くしよう会”ですよ! 柚瑠さんにもお友達ができた記念!」
「お、お前……っ」
「律くん、それそれ。いいテーマだと思うよ」
黒川が苦笑しつつ律にグッジョブポーズを送れば、その横で因幡が口を開いた。
「……ところで、例のカラオケの霊、マジだったのか?」
「ええ、“高得点を出すと女の霊が出る”っていう噂、どうやら本当みたいです」
「なるほど。で、律の計画は“遊びながら仕事もしよう”ってわけね」
因幡はふっと笑いながら、「そういうの嫌いじゃない」と呟いた。
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ワイワイと選曲しながら、まずは因幡と柚瑠の点数対決。
因幡がバラードで92点、柚瑠が疾走系ロックで94点。
「うそだろ、負けた……」
「やった……!」柚瑠が密かにガッツポーズ。
だがその直後──
スピーカーからジジッとノイズ。
部屋の照明が明滅し、低く女の嗚咽が響く。
「……来たな」
因幡がふっと真顔に戻り、バッグの中から小冊子を取り出す。
律がぽんと手を打つ。「ここからは先生の出番ですね」
「え、今から朗読すんのか?」柚瑠が呆れ顔。
黒川が少しだけ頬を赤らめつつ、「……でも、効果があるのは確かだから」とフォロー。
女の霊の気配がスピーカーの奥から濃くなり、青白い手が覗く。
因幡はマイクを手に取り、声のトーンを落とす。
> 「“熱を帯びた指先が、ゆっくりと彼女の素肌をなぞる。息を呑むたび、ふたりの間の距離が──”」
スピーカーから溢れるように、女の霊が這い出してきた。
その頬に熱を宿し、怯えと渇望が混ざった表情。
> 「“愛している。そう囁いた声が、耳の奥を震わせる。逃げられない。もう、この手を離せない──”」
因幡の声が濃密な空気を作り出す。霊の姿はその甘やかな言葉に魅入られ、次第に形を崩していく。
> 「“たとえ許されぬ恋でも。報われぬ想いでも。私は、あなたを抱いて──”」
女の霊が微かに笑みを浮かべ、すっと空気に溶けるように消えた。
──静寂。
「……ふぅ。まさかまたカラオケルームで官能小説読むことになるとは思わなかった」
因幡が苦笑しつつマイクを置けば、柚瑠が絶句している。
「こ、これを冷静に読むってどうかしてる……」
「でもすごかったッスよ。あんな色っぽい声で読まれたら、霊も未練晴らすってもんです」
律が拍手しながら笑い、黒川は俯きつつ赤面していた。
「……あんなの、毎回聞いてるの、俺だけなんだよな……」
ぽつりと呟いたその言葉を誰かが聞いたかどうかは、定かではない。
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事件は無事解決。
4人は残り時間をカラオケとお菓子で過ごし、「これからも仲良くしよう会」は賑やかに幕を閉じた。




