夕暮れショッピングトーク
夕方、商店街の一角にある中規模のスーパー。夕飯時が近づき、店内には買い物客がぽつぽつと集まっていた。
「……鶏もも、今日はこっちのほうが安いか」
冷蔵ケースの前で黒川才斗がメモを片手に、真剣な表情で吟味している。今夜も因幡歩人が帰ってくる。最近妙にハードな執筆モードに入っている彼のために、スタミナ系のメニューを考えていた。
そんなとき──
「……あっ、黒川さん?」
声をかけられ、振り返ると、マスク姿の無我律が買い物カゴを手に立っていた。ゆるくパーカーのフードをかぶったラフな装いで、いつもの丁寧な雰囲気を漂わせている。
「律くん……だよね。奇遇だな、こんなところで」
「はい。柚瑠さんが、今夜は鍋にするって言い出しまして。急遽、白菜と白滝を……」
「こっちは、因幡先生が『肉、肉が食いたい』ってうるさくてね。しょうが焼きか唐揚げで迷ってたところ」
律が「ふふっ」と微笑んだ。
「助手って、どこも大変なんですね」
「ほんとそれ。霊媒師の胃袋を掴まなきゃ信頼も掴めないっていうか……って、いや、そっちの柚瑠さんはそんなにうるさくないか?」
「いえ。うるさいですよ、地味に……好き嫌いが多くて。キノコ類は全部NG、あとこんにゃくの食感が許せないらしくて」
「あ、先生と同じだ。因幡先生もこんにゃく無理って言ってたな……」
二人は視線を合わせて、なんとなく共感の笑いを交わす。
「同じ立場だから、なんか分かり合えるっていうか……」
「はい。買い出し中に誰かと話せるの、嬉しいです」
「俺も。いつも無言で戦ってるからな……特売コーナーとか」
「わかります。あと、使い切れない食材はどう保存するか問題とか」
「うわ、それもめっちゃ分かる。あと冷凍庫がパンパンになるやつね」
律はこくこくと頷きながら、カゴの中の鍋セットをそっと見せる。
「今日は、あったまるように柚瑠さんの好きな白味噌仕立てにしようかと」
「気が利くなあ、律くん。うちも、味噌汁だけでも作っておくか……赤味噌だけど」
どこかで「鈍感な本体を支える、できた助手」同士の共鳴が生まれ、ふたりの間には奇妙な連帯感が流れた。
「……なんだかんだで、楽しいですよね」
律の言葉に、黒川も笑って応じた。
「うん。ちょっと面倒だけど……“この人のために”って思える相手がいるの、悪くない」
そう言いながら、ふたりは別々のカゴを手に、それぞれの家の“夜”に向けて歩き出す。
なんとなく心が軽くなる──そんな、冬の夕暮れだった。




