正統と異端
夕暮れの光が差し込む中、因幡歩人と黒川才斗は、除霊朗読を終えたばかりの現場でほっと一息ついていた。ほうじ茶の湯気がゆらゆらと揺れている。
そのとき――。
「あなたが、SNSでバズっていた“官能朗読で除霊する霊媒師”ですか?」
涼やかな声とともに、着物風の羽織をまとった青年が現れた。切れ長の瞳にきっちり整った前髪。どこか気品のある佇まい。
「……あ?誰だお前」
因幡が怪訝な顔で立ち上がると、青年は名刺を差し出した。
「高守柚瑠。代々、霊媒師の家系です。……あなたのような“破廉恥な除霊”が世に広まるのは、正直看過できません」
「破廉恥て……お前なぁ」
因幡が肩をすくめたその時、遅れて現れたのは柔らかい雰囲気の青年だった。灰色のパーカーにゆるい笑顔。手に飴玉を持っている。
「すみません、高守さん、ちょっと言い方が刺々しかったですね。無我律です。高守さんの見習いをしてます」
律は、にこっと笑いながら、黒川と因幡に一つずつ飴を差し出した。
「おつかれさまです、除霊。SNSで拝見しました。朗読、とても情熱的でしたよ」
「……あ、どうも……」
黒川が警戒しつつも受け取ると、律は目を細めて笑った。
「柚瑠さんはちょっと、古風で頑固なとこがあって。でも、あなたの力を認めてないわけじゃないんです」
「……律!」
高守が焦って睨むが、律はさらりとかわす。
「因幡さん、もしよかったら、うちの拠点にも一度いらっしゃいませんか?除霊のスタイルは違っても、霊と向き合う気持ちは同じですから」
「お、おいおい……俺、あんま宗派とか格とか気にしねぇけど、アイツがいればそれでいいっていうか」
「せ、先生……」
黒川が赤くなりながらうつむいた。
それを見た高守がぷいっと横を向きながらつぶやく。
「……バカみたい。霊媒師と、霊感体質者の距離感としてどうなんですかそれ……」
「気にしてるのかよ」
因幡がにやりと笑った。高守は不機嫌そうに視線をそらし、無我は苦笑いしながら再び飴を差し出した。
「これ、うちの家紋入りのミントです。お口直しにどうぞ」




