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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第二章 お菓子で語る想い! 願いを届けるスイーツコンテスト
9/22

第九話 浜なしタルトの挑発

結局、納得のいく答えは、見つからなかった。

それでも、本選は待ってはくれない。僕たちは会場へ向かった。


会場は、華やかさと緊張が入り混じっていた。

ステージには『高校生ご当地スイーツコンテスト』と書かれた看板が掲げられている。

レシピ審査を通過した代表者たちは、それぞれの持ち場で、静かに手を動かしている。


その中の一人が、静かに準備を進める凛々子(りりこ)を、じっと見つめていた。

ひときわ派手なギャルメイクの少女──金髪にピンクのシャドウ、アクティブすぎるマスカラ。


──誰、この子? 凛々子の知り合い?


女の子は腰に手を当てながらツカツカと歩み寄ってくる。


「うちは、横浜精華高校スイーツ研究会の会長、香月こうづきシフォン」


その名を聞いた途端、銀平ぎんぺいが耳元に顔を寄せてきた。


「横浜精華……優勝常連校だ。毎年とんでもないスイーツで仕掛けてくる猛者。特にあのシフォン、見た目ギャルやけど、戦い方は容赦なしって噂だ」


香月シフォンと名乗った少女は、凛々子の顔を真正面から見据え、ふっと笑った。


「そっちが“絶対味覚保持者ミラクルテイスター”の凛々子さんな?

けど料理はサッパリ、ポンコツなんやって聞いてるで?」


――急に何、言いだすんだ?


「んで、こっちが……包丁さばきはまあまあでも、味覚音痴の残念くん? ポンコツと残念くんって……なに? 漫才コンビ? 超ウケるんだけど!」


不意打ちの言葉に、凛々子がカチンときたのがわかった。




***




「もしかして、あたしにケンカ売ってるんか?」


凛々子が凄む。


「なっ、何よ」


「ところで、そんな恰好で料理するつもりか? まっ、あたしは、どうでもええけど」


「そのときは、ちゃんと着替えるわよ。うちらは料理だけじゃなくビジュアルも大切しているのよ。あんたたちのような地味なパンピーとは違うのよ」


そう言って、凛々子の顔をじっと見る。


「……えっと、まあまあの……ビジュアルね」


シフォンが、弱々しく言う。

僕は、噴き出すのを必死でこらえた。凛々子に口げんかで勝ったやつを見たことがない。


「まあ、作る料理も派手なだけじゃないようにしーや」


シフォンは、凛々子には勝てないと思ったのか、急に僕の方を向く。


「まっ、いいわ。どうせ、あんたたちには無理よ。どんなに頑張っても、うちらには勝てない」


結果がもう見えているような口調で言い放った。


――えっ、今度は僕が標的?


「ラング・ド・シャなんて、完璧に焼けたとしてもせいぜい八十点レベル。繊細で上品だけど、印象に残らない。私たちの“浜なしのタルト”には及ばないの。レシピの段階で勝負はついてるのよ」


「……」


僕が言い返せないのを知ると、彼女は指を組んだまま、嬉しそうに言い放った。


「料理ってのはね、おいしいだけじゃ勝てないの。見た目も、物語性も含めて──響くかどうかがすべて。あなたたち、まだ、そこがわかってないのよ」


シフォンは、そう言うと、さっと背の向けて行ってしまった。




***




「なんや、あいつ? けったいなやつやな」


「シフォンのああいうのは、挑発して動揺させる手口だ。ライバルにはよく使うらしい」


銀平の忠告に、凛々子は唇を尖らせながら呟いた。


「ライバルって認められたっちゅうことなんかな」


僕は二人のやりとりを聞きながら、ふと胸の奥がざらついた。


「でもさ、あの子の言ってること……ちょっと、当たってる気もする。どうしよう……」


僕の言葉が気になったのか、凛々子はめずらしく無口になった。


緊張と不安の中、コンテストが始まり、出場チーム紹介が始まった。


「次の出場チーム、美味が丘学園・シルバーリリアンズ!」


照明が少し強くなり、視線が一斉に向けられる。


僕たちはステージ中央に向かって歩いた。

凛々子は、まだ、考えごとをしているようで、ただ軽く一礼だけした。


――あの登場ポーズを、やらされなくって良かった。


調理開始の合図が会場に響く。

回りのチームが、一斉に作業を始める。


凛々子が、何かを吹っ切ったように言った。


「しゃーない。奥の手、出すか」


「奥の手?」


凛々子が僕たち二人に顔を寄せて、小さく囁いた。


「まさか、ホントにそれ、やるつもり……?」


「銀平なら絶対できるって!」


「このままじゃ、どっちみち勝てない。なら……イチかバチか、やるしかないか」


銀平が真っ直ぐな目で答えた。


「よし、やろう!」


三人の声が揃った瞬間、調理台が熱を帯びた。

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