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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第二章 お菓子で語る想い! 願いを届けるスイーツコンテスト
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第七話 ラング・ド・シャは雑魚でもできる

銀平ぎんぺいは、ボウルの中で卵白を泡立てながら言った。


「メレンゲってのは、泡立てすぎると分離するから、つのが立ったらすぐ止めるんだ。クリームも、絞り袋はこう持つと安定する」


うなずきながら手元を見直した。


──へぇ、わりとちゃんと教えてくれるんだ。――案外いいやつかも。


隣では、凛々子(りりこ)が腕組みして頭を抱えていた。


――さっきから、ずっと考え込んでる。コンテストの作戦か……?


銀平が軽く振り返って聞いた。


「何か心配事?」


すると突然、凛々子がパッと立ち上がった。


「よし、これで決まり! 『シルバーリリアンズ』や!」


「……は?」


僕と銀平が、きょとんとした顔になる。


「銀平とあたしと安太郎やすたろうで、『シルバーリリアンズ』。チーム名や! ええやろ!」


──いや、正直、ダサすぎるって。


「でな、登場ポーズはこれな!」


そう言って、変身ヒーローもののようなポーズを決める。

腰をひねり、片腕を空に突き上げて、もう片方を胸元に構える。


そして、僕たちのほうを見て、顎をクイッ、クイッと動かした。


――僕たちにもやれってことか?


銀平と僕は目を見合わせ、小さくため息をついたあと、しぶしぶポーズをとる。


──これ、まさか本番でやらされるのか? 恥ずすぎる。




***




春巻はるまき副部長は、僕たちのエントリーシートを読み終えると、深くため息をついた。


「……シルバーリリアンズ? ネーミングセンスゼロね」


凛々子がキッと部長を睨む。

銀平は苦笑いを浮かべている。


エントリーシートを処理済みの書類箱に移し、冷たい声で続けた。


「大会では、この名前と同じような恥ずかしい成績では許されませんから」


凛々子は不満そうに、イーッと顔を突き出す。


副部長は、気にする様子もなく椅子からすっと立ち上がると、後ろの書棚からレシピファイルを取り出して手渡してきた。


「これが、コンテスト用のレシピ。星三つのメンバーが仕上げた正式なレシピよ。初心者向けに調整してあるわ」


「あのー、それで、星三つの人たちは出場しないんですか?」


僕の問いに、春巻副部長は一瞬だけ目を細めると、すぐに鼻で笑った。


「まさか。あんな雑魚ざこの大会に、私たちが、わざわざ出るまでもないでしょ」


言い放ったその口調には、圧倒的な余裕と、自信がにじんでいた。


凛々子が身を乗り出す。


「これで優勝すれば、星を上げてもらえるんやろ?」


「考えておくわ……。まっ、精々、頑張りなさい」




***




――狭山茶ラング・ド・シャ・サンドか。


渡されたレシピには、材料と手順が丁寧に書かれている。


「ラング・ド・シャは、俺も作ったことがある。今回は狭山茶クリームをどう生かすかがポイントかな。

まぁ、香りが強いぶん、逆に扱いが難しい狭山茶だけど……ちょっと加減間違えると、苦味だけが残ったりもするし」


「難しいの?」


「いや、わりと簡単なスイーツだけど、それだけに特徴を出すのは難しい――このレシピのままじゃ“普通のお菓子”にしかならない」


僕たちは、調理台を囲んで考え込んでしまう。


――確かに星三つ保持者が作ったレシピは、完璧だ。完成度が高すぎて、逆に遊びが入る余地が見つからない。


「考えてても進まへん!とりあえず、狭山茶使ったスイーツ食べに行こ! 参考になりそうなやつ、探しに!」


銀平が驚いたように目を丸くした。


「今から?この時間に?」


「うん。この町の甘味処、まだ開いてるお店が、あるはずや」


──凛々子って、どこまでもポジティブだ、ほんとに。


「じゃあ、行くか。星三つレベルの“ヒント”食べに」


銀平は軽く笑いながら、エプロンを外した。


「“雑魚”呼ばわりされたままじゃ、癪だしな」


僕たちは、夕闇が迫り、ネオンが灯り始めた街に歩み出した。




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