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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第二章 お菓子で語る想い! 願いを届けるスイーツコンテスト
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第五話 ライバル出現!?

――パリーンッ


皿の割れる乾いた音が、調理室に響いた。


「もう、いったい何枚割ったら気が済むのよ!」


春巻はるまき副部長の怒鳴り声に、凛々子(りりこ)はとぼけた顔で指を折り始める。


「えーと……今ので八枚目やな」


「数えなくていい!」


「……いや、副部長が『何枚割ったの』って言うから……」


僕のほうに視線を投げて、ぼそっとつぶやく。


春巻副部長は苛立ちを隠そうともせず、冷たく言い放った。


「いくら鷹爪たかつめ部長からの頼みでも、あなたのような不器用な人は初めてです。もう面倒見切れません」


「だいたい、皿洗いは星ゼロの仕事やろ? なんで、あたしらがやらなあかんのですか?」


「星のない人たちはみんなやめました。だから今は、星一つのあなたたちの仕事――文句を言わずに、さっさとやりなさい」




***




皿洗いを続けていると、調理室の扉がそっと開いた。

現れたのは、星二つの新入部員、荒巻あらまき銀平ぎんぺい


「副部長、会議が始まります」


「あら、もうそんな時間? すぐ行くわ。あなたたち、しっかり洗っておくのよ」


そう言うと、副部長は、会議室に向かって歩き出す。


銀平は僕に気づくとニヤッと笑った。


「やあ、残念くん」


「やめろ、その呼び方。……それより荒巻くんは、戻らなくていいの?」


「銀平でいいよ。今度のコンテストのメニュー決めだから星二つは関係ない。俺たちは、決められた料理を作るだけ。だから、いてもいなくても同じ……」


銀平の声は淡々としていたけれど、少しだけ鼻にかかったような響きがあった。

皿洗いの泡をすすぎながら、僕はさらに聞いてみる。


「じゃあ、コンテストのメニューって、星三つの人たちのだけで……」


「あぁ、特にメインは、副部長なしじゃ始まらないよ。実質、料理部のトップだし。それに、あの人、高級中華チェーン春巻苑のご令嬢だからな。腕・地位・人脈――完璧ってやつ」


――たしかに、春巻副部長には隙という隙がない。


「鷹爪部長は……どうなの?」


銀平は少しだけ口元を歪めて答える。


「料理は……まぁ、普通。って言うか、正直、イマイチ。でも、うちの理事長――鷹爪フーズ社長の御曹司だし。部長になったのも……そういうことだ」


「えっ、そうなの?」


「ただし、食レポは本物。グルメ番組からスカウト来るレベルだ。ビジュアルもいいし。副部長と二人でテレビやネットにも出たことがあるからな」


「すごいな」


「美男美女コンビ、うちの広告塔だよ」


その言葉には、わずかな皮肉が混じっていた。




***




銀平は、さっきまでの淡々とした雰囲気をひっくり返すように、急に笑顔になった。


「ところで、凛々(りり)ちゃんって、絶対味覚保持者ミラクルテイスターなんだって? すごいなぁ、ほんと尊敬するよ」


それまで黙っていた凛々子が、少し驚いたような顔をする。


「実家の根室から紅鮭が届いたばっかりでさ。今度、ごちそうするよ。ぜひ、凛々ちゃんのアドバイスが聞きたいな」


――凛々ちゃんって呼ぶとか、なれなれしすぎだろ。


「紅鮭、根室産!? 本物やん、それ! 脂の乗り、違うよね」


「もちっ、スーパーのやつとは、全然レベル違うよ」


「マリネ、ムニエル、ちゃんちゃん焼き、それともアクアパッツァ……? もう、いっそうのことシンプルに塩焼き!」


「どれでも。凛々ちゃんの好きなもの作るから」


紅鮭の話題で、二人は一気に盛り上がる。

銀平は腕を組んだまま、どこか得意げに相づちを打ち、凛々子は皿洗いを忘れて、楽しそうに話している。


「凛々子、早くしないと終わらないよ!」


僕は、凛々子の皿を取り上げて、無言で洗い始める。

凛々子が僕の顔を覗きこんで、首をかしげた。


「なんや安太郎、急に、怒り出して……なんか変やで?」


「べつに怒ってなんかいないよ!」


凛々子は洗い場に並んだ皿を、ひとつ手に取ったまま、明るく言った。


「折角、銀平が紅鮭ごちそうしてくれるって言うてるのに。一緒に行こうや」


『一緒に』――その言葉に、僕は、ほっとした。


銀平が、残念そうに肩をすくめて、小さく首を振る。


「ところで、今度の料理コンテスト。君たちはどうするつもりだい?」


凛々子が鼻を鳴らした。


「出たいけど、参加させてもらえへん。星一つは、毎日、皿洗いと下ごしらえばっかりで、つまらんわ」


――それも、凛々子は不器用で、ほとんど僕がやってるんだけど。


銀平は一瞬、考える素振りを見せた後、口元を吊り上げて言った。


「……でも、出る方法はあるよ」


「えっ!?」


僕と凛々子は、思わず手を止めて銀平を見た。


「どうやって!?」


凛々子が前のめりになる。


「詳しいことは、紅鮭パーティーのときに話すよ」


その笑顔は、ずるくて──妙に魅力的だった。


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