第四十五話 想いは届く
まんぷくフェスの司会者が、会場の空気を静める。
「それではあらためまして――優勝チームの春巻さんです。今のお気持ちをどうぞ!」
マイクを向けられた春巻副部長が一歩前に出た。
彼女は、会場を見渡してから、静かに口を開く。
「皆さん、ありがとうございました。
このような形で、春巻苑の料理を届けられたこと、心から感謝します」
一礼のあと、少しだけ言葉を詰まらせる。
「……春巻苑は、食品偽装の件で皆さんにご心配をおかけしました。
だからこそ、今日の料理には――高級中華ではなく身近な食材を使った料理で『春巻苑の心』を伝えたかったんです」
涙が頬を伝う。
「私は、春巻苑の娘として、誇りを持って『春巻苑の心』を皆さんに届けました」
会場から、温かい拍手が起こる。
「やっぱり、春巻苑は最高だ!」
「春巻苑には、高くて行けないけど、今日の料理なら、いつでも食べたい!」
「はやく、大衆向け中華をやってくれ!」
そんな声が、あちこちから飛び交う。
傍らで、鷹爪部長がそっと声をかける。
「よく頑張ったな、涼音くん。ほんとに、よくやった」
副部長は、涙を拭いながら、うんうんと頷いた。
「お似合いのカップルー!」
「うらやましいぞー!」
「つき合っちゃえー!」
冷やかしの声援が飛び、二人は、顔を赤らめて、照れ笑いを浮かべる。
僕は、勝負に負けた悔しさを忘れて、うれしくなった。
隣で、凛々子が一生懸命に拍手をしている。
***
まんぷくフェスのあくる日。
春巻苑の食品偽装に関する調査結果が、ニュースで報じられた。
大衆向け中華用の食材が使われた形跡はなかった。
鬼藤の告発は、事実無根とされた。
フェスでの副部長と鬼藤のやり取りを知っていた僕たちにとっては、驚きはなかった。
世間も、冷静に受け止めていた。
僕と凛々子は、部長室に呼ばれた。
「お二人とも、まんぷくフェス、お疲れさまでした」
「疲れた~」
そう言って、凛々子が部長室の机に突っ伏せになる。
「よく、春巻苑の味を超えたね」
「でも、人気では負けてしまいました。」
部長が、机の引き出しから何やら取り出して、やさしく言った。
「はいこれ、ご褒美」
星三つの記章――三つの星が重なって並んでいるバッジを手渡してくれた。
「あっ、ありがとうございます」
――ついに、星が三つになった。
嬉しさがこみあげてくる。
ニンマリしながらバッチを調理服の胸ポケットに着ける。
***
机に伏せていた凛々子が、顔を上げてぼそっと言う。
「あ~あ、結局、副部長の引き立て役にされただけやったな」
「当たり前です。私に代わって主役になろうなんて、百万年早すぎます」
副部長が、笑いながら返す。
「せやけど、何で高級中華やなかったん?」
凛々子が、首をかしげる。
「うちのお店で食べたいって言ってきたとき、ピンと来たの。
あなたたちは、絶対、高級中華作ってくるって……」
「読まれてた?」
「だったら、私はその逆で勝負しようと」
副部長が、ニヤリと笑う。
「なんや、それで、わざわざ奢ってくれたんか~」
凛々子が、悔しそうに言った。
「春巻苑の料理を食べたら、あなたたちなら絶対、その上を行く料理を作ってくるはず」
春巻副部長が、晴れやかな顔でそう言った。
「悔しいけれど、今の私には春巻苑の料理を超える力はないから」
凛々子が、目を丸くして聞き返す。
「それって……あたしたちのこと、認めたってこと?」
副部長は、少しだけ肩をすくめて笑った。
「しょうがないわね……認めるわ。
鷹爪部長からのミッションをクリアしたあなたたちには、本当に成長したと思う」
「ミッション? 安太郎も言ってたけど、そのミッションって、一体なんなん?」
凛々子が首をかしげる。
副部長は、部長と顔を見合わせる。
「もう、いいんじゃありませんか?」
「そうだね」
部長は笑顔で僕たちの方を向いた。
「分かりました。明日、みんなを集めてお話しします」
――ついに、プロジェクトの謎が明かされる。
僕は、少しの不安と大きな期待を持って、明日を迎えることになる。
まんぷくフェス編、無事、終了しました。ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます。
次より最終章を書きます。ご期待ください。




