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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第六章 疑惑を晴らせ! まんぷくフェスで凛々子vs春巻涼音
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第四十二話 完成された美を超えて

まんぷくフェスの公式SNSが更新され、PR動画の人気ランキングが発表された。


春巻副部長チームが圧倒的な再生数を記録していた。

静謐な厨房。寸分の狂いもない包丁さばき。

際立つ火入れの精度。

コメント欄には「完成された美」という言葉が並ぶ。


一方、凛々子の目隠しテイスティング動画も話題になっていた。

「かわいい」

「凛々子しか勝たん」

「手料理食べたい」

……

コメント数では断然トップ。

料理より凛々子の方が盛り上がってることに、僕は少し複雑な心境だった。


中華バトルへの出場チームは、五つに絞られた。

春巻副部長チーム。辣堂らどう。町中華の幸楽園。レストランこもれび。そして僕たち。


学校の調理室。

春巻苑からテイクアウトした中華オードブルを前に、僕たちは黙々と箸を動かした。


「副部長は、絶対、自分の店の料理を出してくるで」


凛々子は、海老チリを口に放り込みながら言った。


「うん。あの人の中華料理は、春巻苑仕込みだって聞いている」


「それやったら、春巻苑を超えないと勝てへんな」


「でも、酢豚の甘酸っぱさも、八宝菜のとろみも……どれも完成度が高すぎて、隙がない」


ため息まじりで呟いた。


「これ以上の完成度って、一体、何をすれば…?」


「わからへん。でも、やらんとあかん」


春巻苑の“完成された美”を超える――それが僕たちの合言葉になった。




***




「なあ、安太郎、いっぺん春巻苑に食べに行こう」


凛々子が突然、とんでもないことを言い出した。僕は思わず固まった。


「絶対無理だよ。いくらかかるか知ってるの?」


――あんな高級店、僕たちではテイクアウトが精一杯だ。


「春巻副部長にご馳走してもらうってのは?」


凛々子がさらりと言う。


「あり得ないだろ。そんなこと」


でも、凛々子は笑って立ち上がった。


「ダメもとで頼んでみる」


お気楽すぎるその背中を見て、僕は慌てて追いかける。


部長室。


春巻副部長は、凛々子の言葉が終わるか終わらないうちに、副部長はあきれ顔で答えた。


「ずうずうしいわね。あなたらしいけど」


「す、すみません。ほら、帰ろう」


僕は頭を下げて、凛々子を連れて帰ろうとした。

そのとき、副部長が言った。


「いいわ、私の名前を出せばいいようにしておくから」


凛々子は満面の笑みを浮かべた。


「さすが、副部長。太っ腹やな!」


春巻苑。

店長が丁寧に頭を下げる。


「お待ちしておりました。お嬢様からお話は伺っております」


案内された席に着く。


豪華な店内。

朱色の絨毯、金の装飾、静かな照明。

僕は気後れして、足元ばかり見ていた。

でも、凛々子は迷いなくメニューを開く。


前菜に、黄韮きにら海蜇はいじえ涼拌りゃんばん

主菜は、蝦夷鹿えぞじか豆鼓とうち炒め。

点心は、干し貝柱入り蒸し餃子。

甘味は、白木耳しろきくらげなつめのシロップ煮。


味や盛り付け、一つとして見逃してはならないと思いながら食べ進めた。


次の日、学園に戻って、僕たちは試作に取りかかった。

火入れの温度、切り方の角度、盛り付けの高さ。

器の余白と色彩まで、細かく調整を重ねる。


――春巻苑と同じじゃだめだ。超えないと意味がない。


蒸し餃子を口に運んだ凛々子が言った。


「この餃子、貝柱の旨味が主役を引き立てている。点心はこれでええ」


僕は頷いた。




***




試行錯誤の末、ついに僕たちの四品が完成した。


前菜──黄韮と海蜇の涼拌。

黄韮の香りが立ち上がり、クラゲの冷たさが舌に涼を走らせる。

その鮮烈なコントラストに、誰もが目を奪われるだろう。


主菜──蝦夷鹿の豆鼓炒め。

赤身の力強さに、豆鼓の発酵香が緻密に絡み合う。

春巻苑の“均整美”を超えた“動的な美”を皿の上に輝かせることができた。

火入れも、味の構成にも、迷いはない。


点心──干し貝柱入り蒸し餃子。

皮は蒸気を透かすほど薄くなるように繊細な技術を込めた。

貝柱の旨味が幾層にも重なり、噛むたびに構成の精度が伝わるはずだ。


甘味──白木耳と棗のシロップ煮。

温かく、静かな甘さ。

季節の余韻を閉じる一皿として、構成美と感性を融合させた自信作だ。


凛々子が、皿を見つめながら力強く言う。


「この味なら、春巻苑を超えてるわ」


その言葉に、俺は迷わず応じた。


「華やかさも、十分にある。勝負になる」


彼女の目は真っ直ぐだった。俺の中にも、迷いはなかった。

この四品が、僕たちの答えだ。

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