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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第六章 疑惑を晴らせ! まんぷくフェスで凛々子vs春巻涼音
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第四十一話 春巻苑の真実

美味が丘学園料理部の部長室。


春巻副部長が、「ご心配をおかけしました」と言って静かに頭を下げた。

僕と凛々子は、その後ろに並び、緊張した面持ちで立っていた。


「やあ、涼音すずねくん、久しぶりだね。体調は良くなったかい?」


「おかげさまですっかり。昨日は、ガサツな誰かさんのせいで、ゆっくり休めませんでしたけれど」


そう言って、凛々子の方を向いて、少し笑った。


「部長から頂いたまんぷくフェスの案内。あれに、私たちで出場させてください。 春巻苑の名誉を、料理で晴らしたいのです」


副部長の声には、揺るぎない決意が込められていた。

鷹爪部長は、書類から目を上げると、少しだけ口元を緩めた。


「フェスには、僕と出てくれないか?その意味でパンフレットを見てもらったんだけど」


「えっ! まあ、そうでしたの?」


副部長は、少し驚いていたが、頬を赤らめ、なんだか嬉しそうだ。


「安太郎くんたちは、別枠で出場してもらうよ。

フェスが注目されなきゃ真実も伝わらないからね」


その言葉に、僕は思わず目を見開いた。

凛々子も、ぽかんとした顔で部長を見つめる。


副部長は、ほんの一瞬だけ沈黙したあと、ふっと笑った。


「そうね。よく考えれば、凛々子さんには高級中華は難しいかもしれないわ」


その言葉は、あまりにもあっさりしていて、僕は呆気に取られた。

凛々子は、顔を真っ赤にして立ち尽くしている。


「そういうことになりましたから、よろしく。あなたたちも、せいぜい頑張って」


――いつの間にか、副部長が完全復活している。


うれしいが、なんだか拍子抜けしたまま、僕たちは部長室を後にした。


「なんなん、あれ……」


僕は彼女の肩に手を置き、なだめるように言った。


「凛々子、一緒に大会を盛り上げるんだ」


彼女はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……しゃーないな。もう、こうなったら、思いっきりやったるわ」


――食品偽装でゆれる春巻苑の娘と美味が丘の対決となると、いやでもマスコミが注目する。


でも、そんなことより僕は二人で出場することの方が、内心、少しうれしかった。




***




まんぷくフェスの公式SNSには、地元の中華料理店や調理専門学校の出場者のPR動画がアップされた。


春巻副部長のPR動画は、豪華な春巻苑の店内から始まる。


朱色の絨毯、金の装飾、静かに流れる古箏の音。

正装した鷹爪部長とチャイナドレスの春巻副部長が映し出される。

オーラに圧倒される。まるでアイドル映画の主役のようだ。

画面が変わって、厨房に立つ調理人姿の二人。

火が入り、鍋が鳴る。香味野菜の香りが立ち上がる。

「私は料理で真実を語ります」

カメラは彼女の背中を映す。言葉よりも、料理の音がすべてを語っていた。


凛々子のPR動画は、明るいキッチンスタジオで始まる。


軽やかなBGMが流れる中、凛々子が「目隠しテイスティングやりまーす」と宣言。

目隠しをした凛々子の口元に、僕が餃子、チャーハン、麻婆豆腐を順番に運ぶ。

一口ごとに表情が変わり、彼女は静かに呟く。

「これは春巻苑、こっちは翠香楼、そして最後は龍華館」

すべての試食が終わり、画面に全問正解の文字が浮かぶ。

目隠しを外し、カメラを見据える。

「全部、わかる。だから、あたしはどこにも負けへん」

にっこりとした笑顔、その笑顔だけで、誰もが応援したくなるはずだ。


マスコミは、美味が丘学園の美少女料理人対決と煽り立て、まんぷくフェスは例年にない盛り上がりを見せていた。

「春巻苑の娘 vs 絶対味覚の天才」――そんな見出しが、ネットニュースのトップに並ぶ。

「春巻苑の真実とは?」「中華バトルの裏に何がある?」と憶測が飛び交っていた。


その二人の再生数を猛追しているPR動画があった。


「俺の名前は、辣堂らどうの調理主任、鬼頭きとうごうだ!」

そう名乗った赤いユニフォームを着た男は、巨大な鍋を振りながら叫ぶ。

「高級中華?格式?そんなもん、腹の足しにもならん!」

唐辛子が爆ぜ、油が跳ねる。

画面が切り替わり、辣堂の看板メニュー「爆辛麻婆丼」が映る。

「これが、庶民の味だ。インパクトで勝つ、それが辣堂流!」

動画の最後、鬼頭は鍋を振りながら笑った。


辣堂──最近、急に店舗数を増やしている大衆中華チェーン。

安さとボリューム、そして強烈な味付けで、若者の胃袋を掴んでいる。

しかし、高級中華――春巻苑を敵視しているような、あの言い方。

僕の胸の奥に言いようのない不安が広がる。




***




学校の調理室。

僕と凛々子は、中華バトルのアイデアを話し合っていた。


「副部長に勝つには、やっぱり高級中華かな? 満漢全席まんがんぜんせきとか」


「そんなもん、作るのにどれだけかかるか分からへんで」


そんなやりとりの最中、扉が静かに開いた。


鷹爪部長と春巻副部長が並んで入ってくる。

凛々子は、手を止めてニヤリと笑った。


「偵察か? うちらの作戦、盗みに来たん?」


副部長は、少しだけ笑って首を振った。


「違うわ。鬼頭豪の素性が分かったの」


僕と凛々子は、思わず顔を見合わせた。


彼は、春巻苑の大衆向けプロジェクトに関わっていた料理人だった。

“味のインパクト重視”で、春巻苑が大切にする素材の調和や物語性を軽視していた。

協調性がなく、他のメンバーとの連携を拒んだ。


そんな話の後に、『だから、プロジェクトから外されたの』と淡々と語った。

副部長の声は静かだったが、その奥に悔しさが滲んでいた。


「それを逆恨みして、例の“食品偽装”の件で、嘘の証言をしたのよ」


「最低やな。自分が外された腹いせに、春巻苑を傷つけたん?」


凛々子の声は震えていた。驚きというより、怒りに近い。


「うちが、味で黙らせたる」


凛々子の拳がぎゅっと握られている。


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