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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第六章 疑惑を晴らせ! まんぷくフェスで凛々子vs春巻涼音
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第四十話 副部長の決意

お手伝いさんが、静かに応接室へ入ってきた。

銀のトレイには、香り高い紅茶と、琥珀色のゼリーやドライフルーツ入りの焼き菓子が並んでいる。

それぞれの前に丁寧にカップと皿を置き、「ごゆっくりどうぞ」と一礼して、音もなく部屋を後にした。


「どうぞ召し上がって」


「ありがとうございます。いただきます」


目の前のカップをそっと持ち上げ、一口だけ紅茶を含んだ。

口の中に広がるのは、ほんのりとした甘みと、花のような香り。

思わず、ふうと小さく息を吐く。


副部長は、余韻を楽しむようにカップをソーサーに戻し、僕の方へ視線を向けた。


「……あの件の真相を、話しておくわね」


部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。

僕と凛々子は、自然と姿勢を正した。


「春巻苑は、大衆路線への進出を考えていたの。

 その試みの一環として、試験的に新しい食材を仕入れていたのだけれど……

 その一部が、誤って本番の料理に使われたかもしれないの」


凛々子が、はっとしたように僕の方に顔を向けた。


「それって……さっき見た冷凍食材?」


副部長は、静かに頷いた。


「たぶん。記者会見でもそのことは報告したわ。でも、問題はその後なの」


副部長の声が、少しだけ沈んだ。


「厨房の担当調理人が、調査結果を待たずに“食品偽装があった”とマスコミに答えてしまったの。

その発言が、報道で大きく取り上げられて……

“儲けるために安価な食材を使った”という噂だけが、広まってしまったの」


「ひどい……!」


凛々子が、紅茶のカップを震わせる。


「今では、その料理も残っていないから、確かめようがないけれどね」


「あたしが食べてたら、すぐにわかったんやけどな」


副部長は、「そうね」と言って少し笑った。




***




「ところで、鷹爪部長から、何か預かっているのかしら?」


「あ、はい。これです」


僕は慌ててカバンから封筒を取り出し、両手で差し出した。

副部長はそれを受け取り、封を切った。

数枚の書類が出てきて、その中の一枚を見た瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。


「これは……」


副部長は書類を手に取り、テーブルの中央に広げる。

凛々子が身を乗り出して覗き込む。


そこにあったのは、色鮮やかな写真に、金色の文字がきらめくタイトル――

『第十回・まんぷくフェス』と書かれたパンフレットだった。


副部長はパンフレットをめくり、静かに目を走らせた。


パンフレットの裏面に載っていた開催地の地図を見て、僕は思わず息をのんだ。

そこは――僕の実家の食堂がある、あの商店街だった。


「……これ、安太郎の家の近くやん。なんや、これって、あの町内のお祭りかいな?」


凛々子が、地図を覗き込んで笑う。


――これに出場しろ、ということなのか? 


鷹爪部長の真意は、まだ見えてこない。


僕は、思わず副部長の表情をうかがった。




***




ふと、パンフレットにある文字に目が留まった。


十周年記念企画『若手料理人による中華バトル』――そう書かれている。


「これ……出場者は、意気込みを語る動画をアップして、得票数の高いチームが対決するって書いてます」


「この動画使って、春巻苑の真相を訴えられへんかな?」


凛々子が、興味深そうにパンフレットを覗き込む。


「……正直、場違いだわ。しかもこの騒動の中で、春巻苑が出られるわけないわ」


その声には、かすかな寂しさが滲んでいた。


「春巻苑は、出場できなくても――副部長なら美味が丘学園の生徒として……」


僕がそう言うと、春巻副部長の瞳が、何かを決意したように輝いた。


「そうよ、美味が丘学園の生徒としてなら、出場できるわ。

私、春巻苑の名誉を回復したいの。

これに出場して、春巻苑の誇りを料理で証明してみせるわ」


その言葉に、凛々子が目を見開いた。

副部長は、僕たちの目をまっすぐに見つめた。


「手伝ってくれないかしら」


凛々子は、ほんの一瞬だけ考え込んだあと、力強く頷いた。


「しゃーないな。手伝ってあげるわ」


恩着せがましい言い方だったが、その声には、愛情が溢れていた。


「はい。僕たちで、副部長の誇りを取り戻しましょう」


僕は、胸の奥で何かが静かに燃え始めるのを感じながら、頷いた。





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