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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第六章 疑惑を晴らせ! まんぷくフェスで凛々子vs春巻涼音
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第三十九話 副部長はヤワじゃない

春巻はるまき副部長の家に向かう日


僕は、鞄の中の封筒が気になって仕方なかった。

中身は見ていない。でも、部長のあの表情からして、ただの手紙じゃない気がした。


電車とバスを乗り継ぎ、高級住宅街の入り口にあるバス停で降りた。

副部長の家は、高台に広がる住宅街の一角にあった。

坂道の手前に春巻苑がひっそりと佇んでいる。

重厚な木の看板と格子戸が目に入る。

まるで、街の喧騒とは別の時間が流れているようだった。


「……お店やってへんのかな」


凛々子は、春巻苑を眺めながら、ぽつりとつぶやいた。


「食品偽装やったのってこの店だよね」


「まだ、調査中やって鷹爪部長が言ってたで」


「ごめん、そうだった」


僕は、そのちょっと苛立ちを含んだ言い方に、思わず身じろぎした。


報道関係者と思しき人々が数人、店の前に立っていた。

カメラを持ったまま、店の中の様子をうかがっている。

僕たちは、店の正面を避けて裏の道へ回った。


店の裏側の路地では、勝手口から冷凍車に食材を運び込んでいるのが見えた。

表通りにいたであろう報道陣たちが、急いで集まってくる。


僕は、ふとテレビの報道を思い出した。

“国産と表示されていた食材が、実際には海外産だった”――あの言葉が、頭の中で反響する。


段ボールには、むきエビ、豚バラ肉、青梗菜ちんげんさいなどと書かれていた。

どれも、街の中華料理店なら普通に使われる食材だ。

でも――春巻苑は、そういう店じゃない。

僕たちが知っている春巻苑は、食材の鮮度に徹底してこだわる、格式ある高級店だったはずだ。

だからこそ、冷凍のラベルが貼られた段ボールが、あまりにも場違いに見えた。


春巻苑を通り過ぎ、坂道を上っていくと、住宅街の空気が変わっていく。

静かで、手入れの行き届いた庭木と、塀の高い邸宅が並ぶ。




***




春巻苑を通り過ぎ、坂道を上っていくと、住宅街の空気が変わっていく。

静かで、手入れの行き届いた庭木と、塀の高い邸宅が並ぶ。


その一角に、副部長の家があった。

門構えは控えめだが、品が漂っており、敷地の奥に白壁の建物が見える。


僕がインターホンのボタンを押すと、すぐに応答があった。


「はい、春巻でございます」


落ち着いた女性の声だった。

僕は名乗り、言葉を選びながら伝える。


「春巻副部長が学校を休まれているので……お見舞いに伺いました。

それと、鷹爪部長からの言づてを預かってきています」


「少々お待ちくださいませ」


しばらくして、門が静かに開いた。

現れたのは、和装のお手伝いさんだった。背筋が伸びていて、所作が美しい。


「どうぞこちらへ」


僕たちは軽く頭を下げ、敷石の庭を進んだ。

玄関をくぐると、すぐに応接室へと案内された。


「ただいま、涼音すずねお嬢様をお呼びいたします」


窓から差し込む光が、淡い色のカーテン越しに柔らかく広がり、空間全体に穏やかな明るさをもたらしている。

艶やかなローズウッドのローテーブルが中央に置かれ、その周囲には、革張りのソファーがゆったりと並んでいた。


凛々子は、腰を下ろすと、沈み込むような感触に目を丸くした。


「……なにこれ、沈むやん。え、めっちゃ気持ちええ……!」


背にもたれて、両手で座面をポンポンと叩きながら、きょろきょろと部屋を見渡している。

その様子は、まるで高級ホテルのラウンジに迷い込んだ子どものようだった。


僕は苦笑しながら隣に座り、視線を部屋の奥へ向けた。

どこかに、春巻副部長の気配が漂っている気がした。


「お茶をお持ちいたしますので、どうぞごゆっくり」


お手伝いさんが一礼して部屋を出ていくと、凛々子がぽつりとつぶやいた。


「……ほんまに、別世界やな」


僕は黙って頷いた。




***




ドアが静かに開き、春巻副部長が姿を現した。

学校で見慣れた制服姿とは違い、淡い藤色のブラウスに、品のあるロングスカートを合わせた装い。

髪はゆるくまとめられ、耳元には小さなパールのイヤリングが揺れていた。


僕は思わず立ち上がり、背筋を伸ばして深く頭を下げた。


「こっ、こんにちわ」


最敬礼に近いその動きに、副部長は少し目を見張り、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。


「いらっしゃい。わざわざありがとう。心配をかけてしまって、すまないわね」


「いえ、そんな。こちらこそ、急に押しかけてすみません」


凛々子が、椅子に座ったまま顔を上げて言う。


「元気そうやん、安心したわ」


「当たり前よ。そう簡単に倒れるほど、私はヤワじゃないわ」


「なんや学校でおるときより元気なんとちゃうか?」


副部長は、ふっと口元を緩めて答えた。


「あなたが、お皿を割る音を聞かずにすみますから。それだけでもストレスがなくなるわ」


凛々子は、口を尖らせて副部長を睨む。

副部長は、それを余裕の笑みで受け流す。


――とにかく、副部長が思った以上に元気で良かった。


ホッとした瞬間、今までの緊張が解けていくのを感じた。






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