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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第六章 疑惑を晴らせ! まんぷくフェスで凛々子vs春巻涼音
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第三十八話 副部長のいない調理室

大衆食堂『炊屋かしきや』の朝は、いつも通りの空気に包まれていた。


湯気の立つ味噌汁、焼き魚の香ばしい匂い、新聞を広げる常連客の気配。

その中で、凛々子がカウンター席に座って、朝定食をつついていた。


「なあ、これ……春巻副部長と関係あるんちゃう?」


ふいに、凛々子がテレビを指さした。

厨房から出てきた僕は、手を拭きながら画面に目を向ける。


ニュース番組のテロップに『春巻苑・食品偽装問題』の文字が流れた。


映像には、春巻苑の重厚な店構え、そしてスーツ姿の幹部たちが並ぶ謝罪会見の様子が映し出されていた。

アナウンサーの声が、会場のざわめきを一瞬だけ静める。


「高級中華料理店・春巻苑が、複数のメニューにおいて食材の産地を偽っていたことが判明しました。

国産と表示されていた海老や豚肉の一部が、実際には海外産だったことが、内部告発により明らかになったということです」


画面には、厨房で使われていた食材のラベルや、証言者のシルエット映像が映る。


「春巻苑は、“高級食材使用”を売りにした高級路線で知られており、今回の偽装は信頼を大きく損なうものと見られています」


「……食品偽装?」


僕がつぶやくと、カウンターの端に座っていた常連のおじさんが、ぼそりと言った。


「高級中華の店が食品偽装やったら、おしまいだな」


その言葉が、店内の空気を少しだけ重くした。


凛々子は、箸を止めてテレビを見つめている。




***




その日の美味が丘学園の調理室は、いつもよりざわついていた。


包丁の音も、鍋の湯気も、どこか落ち着かない。

部員たちは手を動かしながらも、口はニュースの話題で止まらない。


「春巻苑って、やっぱ本社の締め付けが厳しいんやろ? だから偽装とか起きるんちゃう?」

「高い金払って、偽物食わされてたとか最悪だな。あれじゃ詐欺だ」

「お前、春巻苑に行ったことあるか」

「ないけどさ」

「で、副部長、どうするんだろ?」

「とりあえず副部長は解任じゃないかな? 春巻苑でも役員が解任されてるし」

「だな。副部長のままじゃ料理部のイメージも落ちるし」

「退部するって噂もあるぜ。会社があれじゃ、もう居づらいだろ」


僕は、まな板の上のネギを刻みながら、耳だけがざわついていた。

春巻苑に行ったこともない部員まで、根拠のない話を面白がって広げている。


「そんなん、副部長には関係ないやろ!」


凛々子の声に、調理室が一瞬、静まった。


「副部長が料理部でどんだけ頑張ってるか、あんたら忘れたんか?

親の会社のことと、副部長のことは、全然ちゃう話やろ!」


誰も言い返せず、沈黙が落ちた。

僕は、熱せられた油が入った中華鍋に刻んだネギを入れながら、凛々子の背中を見つめていた。




***




調理室の空気が、凛々子の一喝でようやく静まった頃、扉が開いた。


「凛々子くんの言う通りです」


鷹爪部長が、いつもの落ち着いた足取りで入ってきた。


「噂に惑わされることなく、自分の料理に集中してください。

料理部は、料理をする場所です。――それだけです」


部長の声に、みんなは再び料理に戻った。

いつも通りの調理室の風景。


だけど、いつも部長の隣にいるはずの春巻副部長が、今日はいなかった。


部活が終わる頃、僕は思い切って部長に声をかけた。


「副部長……大丈夫なんですか?」


部長は、少しだけ目を伏せて答えた。


「学校に来ると、SNSやTVの記者に追い回されて、迷惑をかけるといけないから、しばらく休むと連絡があったよ」


その言葉に、副部長がちょっとした有名人であることを思い出した。


副部長が料理部のPR動画でバズっていたこと。

春巻苑の令嬢として、完璧な手際と華やかなコメントで、再生数はすぐに万を超えていた。


「そうだ。君たちで様子を見に行ってくれないか」


部長が、僕たちに向き直って言った。


「部長は……行かれないんですか?」


「申し訳ないが、この件で学校と調整があってね」


――学校と調整って、やっぱりそれほど深刻なことになっているのか。


気持ちが、どんよりと沈む。

そんな僕を察してか、部長が明るく――


「特に凛々子くんに会うと、彼女、元気が出ると思うよ」


と笑う。

僕は、振り向いて、凛々子を見た。


副部長と凛々子――いつも言い合いばかりしているのに。

あれで元気が出るって、本気なのか冗談なのか、僕には判別できなかった。


「もし、涼音くんに会ったら、これを渡してほしい」


そう言って渡された封筒は、薄いのに不思議と重みがあった。


僕は、それを受け取りながら、春巻副部長の顔を思い浮かべていた。





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