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第三十六話 星が作る光と影

部長室は、僕の報告を前に、空気が少し張りつめていた。

オスピタリテで、これまで調査したことを鷹爪部長に伝えた。


「作る手順も、レシピの書き方も、美味が丘のものとほとんど同じでした」


部長は、眉をひそめて少し驚いたようだった。


「そうですか……」


その声には、静かな重みがあった。


「澪さんが書いたと言っていましたが……これは、ますます疑わしいですね」


「でも、あの人たちは、そんなことをする人たちじゃありません」


僕は、思わず声を強めてしまった。

部長は、机の上の書類に目を落としながら言った。


「何かがおかしいんですよ」


「何が、ですか?」


部長は、ゆっくりと顔を上げた。


「凛々子君に味見をさせたり、君に料理の手順を教えたり……わざとレシピを教えてくれているように見える」


「わざと……? でも、何のためにですか」


部長は、指を組みながら言葉を続けた。


「まるで“オスピタリテの方がオリジナルだ”と主張しているようだ」


「じゃあ……美味が丘の方が盗んだ、とでも言いたいのでしょうか?」


部長は答えなかった。


その沈黙が、余計に不安を深くした。




***




そのとき、部長室の扉がノックもなく開いた。


「戻りました」


春巻副部長が、資料の束を抱えて入ってきた。


「やっぱり、マスターの鷲尾ミツルさんは、昔の料理部の部員でした」


「えっ?」


僕は驚いて声を上げた。

春巻副部長は、静かに首を振った。


「卒業生リストにはありませんでした。卒業前に退学していたんです」


部長が目を細める。


「退学……?」


「卒業した同級生に話を聞いてきました。

鷲尾さんは、料理部の部長だったそうです。部員から、とても慕われていたと」


その言葉に、部長の表情がわずかに動いた。


「でも、フランス料理コンテストで予選落ちしてしまって――それを知った理事長が激しく怒って、鷲尾さんを退学させたそうです」


「そんなことが……」


僕は言葉を失った。


春巻副部長は、資料の一枚を部長の机に置いた。


「それが、星の数で部員をランク分けする制度が始まるきっかけとなった事件です。鷲尾ミツルは、あの“伝説の事件”の中心人物だったんです」


部長は、資料に目を落としながら、低くつぶやいた。


「つまり……彼は、料理部の栄光と屈辱の両方を背負った人間だったということか」


部屋の空気が、さらに重くなった。

僕の胸の奥で、何かが静かに軋む音を立てた。




***




オスピタリテの閉店時間。

僕たちが店の片づけをしていると、扉が静かに開いた。


「すみません、もう閉店です」


るなさんが声をかける。


「えっ、鷹爪部長……それに春巻副部長まで」


二人を見て、思わず声が漏れる。


「ようやく来たか」


キッチンから、鷲尾マスターが姿を現す。

鷹爪部長は、店内を一瞥してから言った。


「ずいぶんと回りくどい招待状でしたね。美味が丘の十代目部長――鷲尾ミツルさん」


「あのレシピの料理を作れば、きっと鷹爪部長が出てくると思ったよ」


部長の目が鋭くなる。


「あのレシピは、あなたが校内審査で選ばれたときのレシピですね」


――そうか、もともとマスターが考えたレシピだったのか。


誰も盗用なんてしていなかったことに、胸を撫で下ろした。


「しかし、実際のコンテストでは、違う食材にすり替えて提出した――それで予選落ちした」


「そこまで調べていたのか。大したものだ」


「だから、理事長の鷹爪善作たかつめぜんさく――僕の父の怒りを買って、退学させられた」


マスターは、何も言わずにその言葉を受け止めていた。


「これは……復讐ですか?」


鷹爪部長の声が、店内に低く響いた。


「違う、私のためだったの!」


澪の声が、店内に響いた。

みんなが、驚いて彼女の方を振り返る。


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