第十八話 星の重み
調理室の一角を、カフェのように飾りつけて、僕たちは明石焼きを売っていた。
木目調のテーブルに、手作りのメニューカード。
女子生徒のグループやカップルで席は満杯。
みんな笑顔で、ふわふわの明石焼きを頬張っている。
「いいこと、絶対、あっちには負けるんじゃないわよ!」
春巻副部長が、僕たちのチームに気合を入れる。
その視線の先には──
凛々子率いる“変わり種たこ焼き”の屋台が、まるで縁日のような賑わいを見せていた。
「さあ、食べてってや! チョコ、チーズ、マシュマロ……何が入っているかは、食べてみてのお楽しみや。
それに当たりが出たら、鷹爪部長とのツーショット写真が撮れるフォーチュンたこ焼きもあるで」
女生徒たちが、キャーキャー言いながら列をなしている。
「大体、あなたが“変わり種たこ焼きもやりたい”なんて言うから!」
春巻副部長が、僕に詰め寄る。
「でも、部長とのツーショット写真なんて言ってませんよ。あれは凛々子が勝手に……」
「勝手に? 勝手にって何よ! あの子は、どこまで私を怒らせる気なの……!」
副部長は、たこ焼き屋台の方を睨みながら、唇を噛んだ。
鷹爪部長が、たこ焼き屋台の前で女生徒たちに囲まれながら、満面の笑みでピースサインをしていた。
「部長だって、ノリノリじゃないですか……」
「くっ……あの人、調子に乗ると止まらないのよ……!」
春巻副部長の顔には、悔しさが滲んでいた。
――やれやれ、凛々子と副部長って……
半ばあきれながら明石焼きに大ぶりのたこを入れ、ひっくり返す。
***
学園祭の片付けが終わった頃、僕と凛々子は部長室に呼ばれた。
「今日は、お疲れさま。おかげさまで模擬店は大成功だったよ」
鷹爪部長は、椅子に腰かけながら、ゆったりと笑った。
ほっと胸を撫で下ろす。
凛々子は、隣で腕を組みながら、春巻副部長に視線を送る。
「ふふん。あたしらの方が多く売れたみたいやなぁ」
その言葉に、春巻副部長の眉がぴくりと動いた。
「……あれは、あなたの力じゃなくて、部長のおかげ。調子に乗らないで」
悔しそうに言い返す副部長に、凛々子は「へへーん」と鼻で笑ってみせる。
まったく意に介さない様子に、副部長はますますいらいらしている。
鷹爪部長は、そんな二人を見ながら、穏やかに言った。
「うちの美味が丘は、コンテストでもなんでも、これまで費用とか考えずに高級路線でやってきた。
キャビア、トリュフ、金箔──そういう“映える”ものばかりね。
でも、これからは、今日みたいなB級グルメにも、どんどん参加していくつもりだ」
「えっ、ほんまに? それって、あたしの出番がますます増えるってことやな」
凛々子が目を輝かせる。
部長は口元だけで笑い、副部長は小さくため息をついた。
「それに、今回の明石焼きも、変わり種たこ焼きも、十分に可能性を見せてくれた。
──プロジェクトのミッションとしても、上出来だ」
「部長、それはまだ……!」
副部長が、慌てて言葉を遮った。
「ああ、そうだね。涼音くんがそう言うのなら……」
部長は、あっさりと引き下がったように見えた。だが、その口元には消えない笑みが残っている。
入部のとき、部長が言っていた言葉が脳裏によみがえる。
──あのプロジェクトって、今回の模擬店のこと……なのか?
僕の疑問は、ますます広がるばかりだった。
***
凛々子が、急におねだり顔で副部長を見上げる。
「それで──模擬店の結果も上々やったみたいやし、星は上げてもらえますか?」
副部長が、すかさず部長に視線を送る。
「どうします?」
鷹爪部長は、少しだけ考えるふりをしてから、にやりと笑った。
「幻のレシピの謎も解けたし、売り上げも歴代最高を更新したみたいだし……いいんじゃないか」
副部長は、真面目な顔でうなずいた。
「分かりました。では──星二つに昇格です」
「やったーっ!」
僕と凛々子は、思わず飛び上がって喜んだ。
凛々子は、両手をぐっと握りしめて、天井に向かって叫ぶ。
「星二つやでぇ!」
その声が部長室に響き渡ったあと、副部長が冷静に言い放った。
「ただし──皿洗いは今まで通りやっていただきます」
「えーっ、なんでやねん!」
凛々子が、思わず抗議の声を上げる。
副部長は、腕を組んで、つれない返事を返した。
「しかたないでしょ。あなたたちより下がいないんだから。
来年の新入生が入ってくるまで──我慢しなさい!」
凛々子は、口をとがらせて、むすっとしている。
その様子があまりに分かりやすくて、僕と部長は思わず苦笑した。
部長は、ぽんと凛々子の頭を軽く叩いて言った。
「星が増えた分、責任も増えるってことさ。がんばってね」
「……うぅ、星って重たいな~」
凛々子は、肩を落としながらも、どこか嬉しそうだった。
おかげさまで、第三章完了しました。ここまで読んで下さった皆さん、ありがとうございました。
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