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第十七話 一皿六個五百円

鷹爪たかつめ部長は、凛々子の作った料理を見て、目を丸くした。


「これは……驚いたな」


「そや、明石焼き! 別名、玉子焼きや!」


得意げに叫ぶ凛々子(りりこ)の声が、調理室に響いた。


「これなら、あの卵の量も、だし汁の量も納得ですね」


部長は、おもむろに姿勢を正し、明石焼きを試食する。


「まず、箸で持ち上げた瞬間の柔らかさ──これは、空気を抱き込んだ生地の証拠。

口に入れると、ふわっと広がる卵の甘みと、だしの旨みがじんわり染みてくる。

そして、明石焼きの周りを取り囲むだしの香りが、一層、食欲を誘う。

噛むというより、舌の上で溶けるような食感──まさに、食べるというより飲むたこ焼きだ!」


――部長の食レポも絶好調だ。


「……悔しいけど、おいしいわね」


春巻はるまき副部長も納得している。


「これなら、小ぶりだし、青のりが歯につく心配もない。女生徒にも食べやすいでしょう。

それに、品のないたこ焼きに比べて、こっちは上品ですから。私にも合います」


「品がないってどういう意味や……」


凛々子の言葉をさえぎって、副部長は続けた。


「正直、あのまま“たこ焼き”に決まっていたら、どうプロデュースするか悩んでいたのよ。

まさか、大阪マダムの真似してヒョウ柄の服を着て売るわけにもいかないし。

でも、これなら大丈夫です。私がおしゃれに売って差し上げます」


凛々子が、今にも飛び掛かりそうな目で副部長を睨んでいた。


副部長の大阪人に対する偏見は、凛々子への敵対心なのか。

ともかく、その鋭さはある意味すごいと、毎回呆れながらも感心してしまう。




***




鷹爪部長は、明石焼きを食べ終えると、ふと真顔になって言った。


「それで──これって、いくらで売るんですか?」


その場にいた全員が、言葉を失った。


「え……えっと……」


凛々子が口を開くが、すぐに言葉に詰まる。

売ることなんて、まったく考えていなかった。

ただ、美味しいものを作って、喜んでもらえたらそれでいい──そんな気持ちで動いていたのだ。


「今までの模擬店は、うちの鷹爪フーズの支援もあって、費用は度外視してきました。

でも今回は、ちゃんと利益も出るように設定してもらいます。

学園祭とはいえ、商売の基本は守ってもらわないと」


部長の言葉は冷静だったが、どこか突き放すような響きがあった。


その日から、僕たちは町のたこ焼き屋を回り始めた。

客のふりをして、一人前の値段や個数、使っている具材などをこっそりメモする。

どの店も、工夫と努力の積み重ねで成り立っていることが、少しずつ分かってきた。


そして、実家の親父にも相談した。


「売上? 材料費? そりゃあ、毎日が計算だな。仕入れ値も変わるし、お客さんだって変わる」


帳簿を見せながら、丁寧に教えてくれる。


――商売って、ほんとうに大変なんだ……


親父の背中が、少しだけ大きく見えた。


何度も計算を重ね、ようやく価格が決まった。


――六個入りで、五百円。これで行こう。


原価を抑えつつ、見た目と味の満足度を保つギリギリのラインだった。

僕たちは、再び部長のもとへ向かった。


「決まりました。一皿五百円で売ります。利益も、ちゃんと出るように計算しました」


鷹爪部長は、原価表を受け取り、目を通す。


「……なるほど。悪くないですね。これなら、模擬店としても十分成立する。あとは、どう売るか──ですね」


その言葉に、副部長がすかさず乗ってくる。


「お任せください。私が、この明石焼きにピッタリなイメージを作ってみせます」


「いいでしょう。みんな、早速、模擬店の準備をお願いします」


「あの~、一つ、お願いがあります」


僕が恐る恐る口を開くと、みんなが一斉に僕の方を見る。


――胸の鼓動が早くなる。急に緊張してきた。

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