第十六話 レシピの答え
「これ、チョコとチーズだ。……意外と合うね」
「せやろ? わたしのセンス、なめたらあかんで」
凛々子が、得意げにピックをくるくる回す。
僕は、笑いながらもう一つたこ焼きを口に運んだ。
そんなふうに、二人でたこパに夢中になっていると──
「楽しそうだね」
銀平が、調理室の扉からひょいと顔を出した。
「お邪魔するよ」
そう言って、何食わぬ顔で、爪楊枝でたこ焼きを刺すと、口に放り込む。
「なんだ、もう仲直りしちゃったの?」
僕は、少し照れながら、こくりと頷いた。
「もう少し長引けば、俺の出番があったのに。残念だな」
銀平は、冗談っぽく肩をすくめる。
「そ、そんなこと……!」
少し焦って答える。
「何のこと?」
凛々子が、不思議そうにこっちを見た。
銀平は、ニヤリと笑いながら、もう一つたこ焼きを口に放り込んだ。
***
「……あれ? おいしいけど、これの中身、たこじゃないね」
「そう、変わり種たこ焼きやねん。たこパ用の」
凛々子が、笑いながら答える。
「ふーん。これが──幻のレシピのたこ焼き?」
銀平の言葉に、僕と凛々子は、同時に手を止めた。
答えようとしたけれど、言葉が出てこなかった。
「じゃあ、レシピの答えはまだ、見つかってないんだ」
銀平は、何気ない調子でそう言って、次のたこ焼きを口に運ぶ。
さっきまでの笑い声が、遠くに感じた。
たこ焼きの香ばしい匂いだけが、部屋に残っている。
――すっかり浮かれていた。
一気に、現実に引き戻された感じがした。
「で、どうするの? これから……」
銀平のツッコミに耐えきれず、僕は話題をそらした。
「そういえば……たこと言えば、北海道も有名だよね。うちの食堂でも、よく使ってるよ」
銀平は、たこ焼きを頬張りながら頷いた。
「うん、水だこが多いかな。北海道は冷たい海だから、身が柔らかくて大きいんだよ。でも、たこ焼きには、やっぱり真だこのほうがいいかな」
「どう違うの?」
「水だこは、甘いんだ。それで刺身とかしゃぶしゃぶ向き。
真だこは、歯ごたえがあって、加熱しても味がしっかり残る。
特に、たこ焼きには明石のタコは最高って聞いてる。身が締まってて、旨味が濃いんだ」
「へえ……」
感心していると――
「それや! 明石や。明石やったんや!」
凛々子が、突然、叫んだ。
「えっ?」
僕と銀平が、同時に凛々子を見る。
「ごめん、今日は帰る! 明日、楽しみにしといて!」
そう言い残して、凛々子は勢いよく調理室を飛び出していった。
「……何事?」
銀平が、ぽつりと呟いた。
僕も、たこ焼きを手にしたまま、ぽかんと凛々子の背中を見送るしかなかった。
***
翌日、調理室に入ると、すでに凛々子が来ていた。
「昨日、急に帰ってしまったけど、どうしたの?」
それには答えず、カバンから見たことのない新しいたこ焼き器を取り出す。
「これ、こっちではなかなか売ってなくてさ。探すの、めっちゃ苦労したんよ」
興奮気味に話す凛々子の目は、いつも以上にキラキラしていた。
「それも、たこ焼き器? 今までのと違うけど……」
「まあ、親戚みたいなもんや。こっちは銅板やけどな」
そう言って、今度はクーラーボックスを開ける。
「そして、これが──明石のタコ」
中には、艶やかな真だこが丁寧に包まれていた。
見ただけで、鮮度と旨味が伝わってくる。
「まあ、見といてや。絶対びっくりするで!」
凛々子は、手際よく生地を作り始めた。
だしの香りがふわっと広がり、黄身が生地に溶け込んでいく。
コンロに掛けたたこ焼き器に流し込まれた瞬間、ジュッという音が響いた。
そして、数分後──
「できた! 食べてみて」
そう言って、凛々子がたこ焼きを渡してくる。
「これって、出汁に漬かってる?! こんなたこ焼き、見たことない」
僕が驚いていると、銀平が僕のたこ焼きをさらって、口に運んだ。
「……うまっ。出汁の味とすごく合ってる」
今までのたこ焼きとは、まるで別物だった。
「出汁の量も、卵の数も、ちゃんとあってたんや。
やっと見つかったで、幻のレシピの答えが! 部長たち、呼んできて」
凛々子は、満足げに微笑んだ。
「うん、すぐ呼んでくる!」
僕は、口の中に広がる旨味を感じながら、急いで部長室へと走り出した。




