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ミラクルテイスター凛々子の青春レシピーー絶対味覚少女に味音痴な僕は今日も翻弄される!?  作者: 葉月やすな
第二章 お菓子で語る想い! 願いを届けるスイーツコンテスト
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第十一話 ご褒美は海鮮詰め合わせ

大会が終わり、僕たちは調理台の片付けをしていた。狭山茶の香りがまだほんのり残っている。


そのとき、背後から声が飛んだ。


銀平(ぎんぺい)


「……親父? なんでここに?」


銀平の父親は、ひと息ついて笑った。


「そこの凛々子(りりこ)さんから連絡もらってな。『銀平が男、見せるから見に来い』って」


「連絡って……どうやって?」


銀平が不思議がって聞くと、凛々子が涼しい顔で答えた。


「紅鮭の箱に書いてあった、送り主の連絡先」


銀平の父親は目を細め、ぽつりと言った。


「大会に出るって聞いたとき、最初は反対だった――縄で縛ってでも連れて帰るつもりだった。でも、お前の真剣な顔を見て、考え変わったよ」


銀平は黙ってうなずいた。父親の言葉がじわりと染みているみたいだ。


「……いい友達もできたみたいだな」


僕は、その言葉に、胸の奥が少し熱くなった。


――銀平、お父さんが分かってくれたみたいで良かったな。


でも、凛々子が、お父さんとのことでそこまでするなんて……感動と安心、そして、わずかな嫉妬――そんな複雑な気持ちが胸に広がった。




***




銀平の父親は腕時計に目をやると、「じゃあ行くわ」と言い残し、銀平に背を向けた。


「東京で知り合いを待たせてるんでな。お前も頑張れ」


背中越しの声に、銀平は「……ああ」と短く応じた。


数歩進んだところで、父親はふいに足を止め、振り返る。


「ああ、それで、凛々子さん」


「はい?」


「北海道の海鮮詰め合わせ、帰ったらすぐ送るから。来週には届くと思うで」


慌てて、凛々子が口元に指をあてて、「しーっ」というポーズをする。


「海鮮詰め合わせって……?」


銀平が怪訝そうに問い返した。


「凛々子さんと勝負しててな。もし賞でもとったら、海鮮詰め合わせ送るって話になってた」


僕と銀平は、同時に凛々子の方を見る。

問い詰めるような視線を向けると、凛々子はあっさりと観念したようだった。


「えへへっ」と、舌をちょろりと出して笑う。


その仕草に、思わず力が抜ける。


――まったく……やっぱり食べ物目当てだったか。


だけどその瞬間、僕の胸の奥でじんわりと湧き上がったのは、ガッカリよりも少しだけあたたかい安心感だった。


――なんだかんだで、やっぱり凛々子らしい。




***




次の日、僕たち三人は、部長室に呼び出される。


「あなたたちね、レシピを無視した料理なんて、前代未聞です! 全員、今すぐ退部届を出しなさい!」


「まあまあ、涼音すずねくん。審査員特別賞もいただいたことだし、いいじゃないか。失格になったわけじゃないんだしさ」


鷹爪たかつめ部長が春巻はるまき副部長をなだめてくれる。



「で、何でテリーヌだったの?」


銀平が目を輝かせて「同じ材料でできましたから」と答える。


「銀平のテリーヌ、あのレシピのよりずっとおいしかったで。三ツ星って、案外たいしたことないんやな」


「ちょっと、凛々子、失礼だよ」


僕は、部長が怒り出さないか冷や冷やした。


「試してみたくなってね」


「試すって、何をですか?」


「君たちが、どうするのか」


「どうアレンジするかってことですか?」


「まあね。けれど、全然、違うものを作るなんて、予想もできなかったけど」


部長は、そう言って笑った。




春巻副部長は、まだ、眉間にシワを寄せて怒っている。


「それにしても、キメポーズまでして盛り上げる必要ありますか!」


「でも、あれ……僕は好きだなー」


部長はそう言って、両腕を広げ、ステップを踏みながら真似し始めた。


凛々子がぱっと立ち上がる。


「ちゃうちゃう! そうじゃなくて、こっちや」


彼女が両手をくるりと回してポーズを決めようとした瞬間————


「やらなくても結構です!」


春巻副部長がピシャリと言い放ち、全員の動きが止まった。


「まったく……部長は甘いんだから……特別賞がなかったらどうなっていたか。」


しぶしぶOKの仕草で腕を組む副部長。


凛々子は、ちょこんと頭を傾けて副部長の顔を覗き込む。


「それで、副部長……星、もらえます?」


「あるわけないでしょう! そんなもの」


雷が再び部室に響き渡った。


部室に笑いと叱責が混ざる午後。

でも、どこかその空気は、いつもよりずっとあたたかかった。


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