【第8話(全10回)】新メグモ・検査結果
突然、一度にいろいろなことが起こり過ぎて、柔曽は大いに混乱したものの、とりあえず、メグモを家の中へ運び入れた。
雨で濡れたからか、メグモの肌は冷たい。外見、服装は、かつて立体映像だった頃と同じ。足はサンダル履き。
メグモの身長は、柔曽よりやや小柄。重さは、多分、同じ体格の少女と余り変わらないであろう。
以前、この洋館は診療所であったので、電動ストレッチャーも備えている。それも使って、メグモの体を移動させ、奥の診察台に寝かせた。
いまだ、メグモは全く動かないし、呼吸も鼓動もない。さりとて、「死んでいる」という感じでもない。
ということは――。
「……やはり、これは、一種のロボットなのだろうな」
柔曽は、そのように結論づけた。
あの宇宙人が、メグモの電子データを母星へ持ち帰り、ロボットの体を作って、くっつけてくれたのではないか。
理由としては、傷を手当てしたお礼だと解釈すれば、一応、つじつまは合う。
ただ、仮にそうだとしても。
「いきなり故障して、動かなくなっては困るじゃないか。どういうことだ」
柔曽は、つぶやいて苦笑する。
(……まあ、もう少し調べてみるしかあるまい)
元・医師として、柔曽は冷静さも持ち合わせている。
「ごめんよ、メグモ。失礼して、構造を見させてもらうよ」
謝ってから、柔曽は、メグモのワンピースのボタンを外し、脱がせていく。
中は、白い下着であった。
立体映像だった頃のメグモにも、「設定」として、下着は着させていた。その時のデザインが、忠実に再現されていて、柔曽は、何だか気まずいような、恥ずかしいような感じで、顔が熱くなった。
レースに縁取られた、女の子っぽいショーツとブラジャーである。手触りは、綿とシルクの中間くらい。ワンピース同様、雨のため、湿っていた。
ためらいつつも、下着も取り除く。
診察台に、あお向けのメグモの裸身。柔曽は、注意深く観察する。
胸のふくらみ、腰つきの丸みなど、女性らしい体型は、ちゃんと作られていた。肉体には弾力もある。でも、胸のてっぺんや、脚の付け根には何もなく、つるりとしていた。等身大の、ソフトなマネキン人形といった感じ。
手足の関節には、かすかに、すき間から機械部品みたいな物がのぞけている。やはり、これはロボットに違いない。
続いて、柔曽は、メグモの体内をスキャンしてみた。
高性能なデジタル体内透視装置を使って、体の中をモニターしたのである。
すると……。
「ゲーッ! なっ、なんじゃこれは!」
柔曽は、びっくりして、床に座り込んでしまった。
メグモの体内には、頭部、胴体、腕、つま先に至るまで、歯車がギッシリと敷き詰められていたのだ。歯車は大小さまざまで、指先に入っている物は、ミリサイズ未満だ。
このロボットは、組んだ歯車だけで作られた、精巧な器械人形だったわけである。
言うまでもなく、こんな物が、今の人類の文明で作れるはずはない。
やはり、これは、例の魚に似た宇宙人たちが作ったのであろう。
しかし。
「……じゃあ、どうやって動かすんだ? モーターも、電池も、一切ないみたいだし」
幾ら調べても、メグモの体内には、何万か、それ以上の歯車しか見当たらないのだ。
さっき会いに来た時は、確かに歩いていたし、しゃべっていたのに。
どこかに、エネルギー源や、動力の中枢が、あるはずなのだが……。