【第6話(全10回)】人工パートナー復元不可
メグモが宇宙人に連れ去られてからというもの、柔曽は打ちひしがれ、悲しみに暮れた。
当然である。唯一のパートナーを失ったのだ。
メグモは電子データとしての存在であり、VRとAIとが合体し、立体映像として行動する。
その大もとの根幹は、サーバー上に保存されていたが、調べてみると、そのプログラムもろとも、抜き取られていた。まさに、根こそぎである。
(たった一回のボタン操作で、あの大容量のデータを、ここまで全部盗めるとは。信じられん。奴ら、とんでもない文明だな……)
そういえば、あの円盤の性能も、すごかった。大規模なロケットエンジンなどは使わずに、一瞬で宇宙まで飛んでいってしまったのだから。
「ううっ。ちっ、ちくしょう!」
部屋で一人、柔曽は泣き崩れた。
(恩を仇で返しやがって! あんな宇宙人なんか、助けなきゃよかったぜ! 放っておけばよかった)
……そのように後悔しつつも、一方で、多分それは不可能であっただろうな、とも思う。
なぜなら、医者としての自負と良心が、許さなかったはずだからだ。
長年、柔曽は医師として、治療にも研究にも、真面目に取り組んできた。今さら、この性格は変えられない。
仕事に没頭してきたからこそ、今まで、恋人をつくる暇もなかったわけである。
ならば、せめて、引退後にヴァーチャル・パートナーを持とうと決めた。まさにそれが、メグモだった。
なのに、まさか、それを奪われるとは……。
メグモは、膨大なデータ量であるため、コピーやバックアップは取れない。
また、対話とプログラミングを積み重ねて、じっくり育て上げてきたので、復元も出来ない。
開発には、複数の企業が関わってきたため、似た物を製作・再現するのも無理だ。
つまり、もはや、あきらめる以外にないのだった。
柔曽は、悲しみと寂しさで、来る日も来る日も、泣いて過ごした。
あの宇宙人の母星で、今頃、メグモは何をされているのだろう、と想像するのもつらかった。
辱めを受けてはいないか。それとも、洗脳されて、召使いのように扱われているのか。
メグモは生命ではなく、データにすぎない存在であり、恐らく、明確な人格・自我も持ってはいない。だから、その手の心配は、余り意味がないといえば、ないのだけど――。
やがて、柔曽の気分が徐々に落ち着いてくるにつれて、泣くことは減った。
しかし、絶望し、無気力な生活が続いた。ぽっかりと、心に大きな穴が空いたようであった。
さて。
メグモが連れ去られてから、およそ一か月が過ぎた頃。
ある、雨の日の午後。
珍しく、玄関のドアホンが鳴った。誰かが、柔曽の家を訪ねてきたのだ。ここは、山の上の洋館であり、たまに郵便が届く程度なのだが。
「なにっ!」
ドアの防犯カメラを見た柔曽は、驚いて、廊下で飛び上がった。我が目を疑う。
ドアの外に、雨の中、非常に見慣れた服装の者が立っていた。それは、白いワンピース姿。
よく見知った顔、髪型。
何と、メグモがいたのだ。