【第5話(全10回)】日本語で話しかけたら
メグモに起こされた柔曽は、眼前のベッドに目をやる。
「あっ!」
思わず、声が出た。
部屋の真ん中のベッドで、例の宇宙生物が、上体を起こしているのだ。銀色のウロコが、窓からの朝日に反射する。
三つの目が、頭の上で、突起のように飛び出ている。生物は、首をこちらへ向け、三つ目で柔曽を見てきた。
「め、目が覚めましたか。ちょっ、調子はどうですか?」
反射的に、柔曽は日本語で、普通に話しかけてしまった。地球の言葉が、スムーズに通じるとも思えないけれど。
宇宙生物は、それには返答せず、首を回して、今度はメグモをじっと見つめる。
「えっ」
白いワンピース姿のメグモは、困惑して、身をすぼめる仕草。スカートの脚を、ギュッと内へ閉じる。
その時であった。
どこに隠していたのか、宇宙人は、片手に持ったペン型の機械を、メグモに向け、ボタンを押した。
すると、ソファーに座ったメグモが、大きく揺らいだ。まるで、水面に映った像が、さざ波で乱されたように。
「ああ?」
何が起きたか分からず、驚いた柔曽が、奇声をあげる。
続いて、メグモの姿は、突如、小さく凝縮され、一筋の光に変化し、宇宙人が持ったペン型機械へ、吸い込まれてしまった。
風船がしぼむ場面にも似ていた。
どうやら、立体映像のメグモが、何らかの技術で、宇宙人の機械へ吸引されてしまったらしい。
銀色で小柄な宇宙生物は、すぐさま、ベッドから降りて、部屋の出口へ走る。
「――待て! 何するんだ! メグモを返せ!」
怒鳴りながら、柔曽は立ち上がり、後を追う。
だが、宇宙人は素早く玄関へと走って、ドアをあける。外は、この宇宙人が昨夜うずくまっていた場所だ。
庭の茂みから、円盤が飛び出てきた。白っぽいボディーで、ミニ乗用車ぐらいのサイズだ。恐らく、昨夜、ここに不時着し、隠してあったのだろう。
円盤は、宇宙生物の頭上で、浮かんだまま静止する。
間髪を入れずに、円盤の下部のハッチが開いた。
「待て……」
靴も履かずに、玄関の外へ駆け出た柔曽だったが――
追いつけなかった。
宇宙生物は、あっという間に円盤へ飛び乗り、もう、次の瞬間には、ハッチは閉まっていた。
即座に、円盤は高速で空へ飛び去り、一つの点となって、消えた。
「そっ、そんな……」
青空を見上げ、柔曽は一人、呆然と立ち尽くすのみであった。




