【第1話(全10回)】くつろいでたら 外が光って・・・
夜。小山の頂上の洋館にて。
初老の男・柔曽は、リビングでくつろいでいた。夕食後のお茶である。
隣には、白いワンピース姿の美少女が座っている。名前は、メグモといった。黒い髪を、後ろで束ねている。
メグモも、柔曽と同様、椅子に腰かけている。
だが、よく見れば、お尻が座面から、わずかに浮き上がっている。また、全身に、室内の景色が、かすかに透けていた。
メグモは、本物の人間ではない。立体映像であった。VRとAIとを組み合わせた、架空の人物である。
元は医師であった柔曽が、引退後に大金をつぎ込んで制作した、言わばヴァーチャル・パートナーであった。老後の、話し相手となってくれている。
実体がないため、触れ合えないのが寂しいけれど。本当は、手をつないだり、たまには抱き合ったりもしてみたい。しかし、それは叶わぬ願い。
と、そこへ……。
ピカッ!
不意に、窓の外を光がよぎり、一分も経たないうちに、ドアに、何かが体当たりするような音。
「なっ、なんじゃ?」
ガタッと、柔曽が立ち上がる。
「不審者では、ないみたい。でも、ドアの外に、何か、生き物がいる」
と、メグモが告げた。
メグモは、ホームセキュリティーシステムとも連動しており、家の周囲を見渡せるのだ。
「生き物? 熊とかか?」
メグモは首を振って、
「ううん、もっと小さいわ。正体は――分からない」
柔曽は、玄関へ行き、そろりとドアをあけた。
念のため、太い鉄の棒を、片手に持って。建材の一部だが、ちょっとした武器にはなるだろう。
「!」
ドアの外、眼前には、庭の草むらがある。
そこに、見たこともない外見の生物が、苦しそうにうずくまっていた。
「ゲゲーッ、なんじゃコイツは!」
衝撃の余り、柔曽は、鉄の棒を玄関に落としてしまう。
まるで、魚の胴体に、人間の頭と手足を生やしたような、奇怪な生物だ。
身長は、一メートル二十センチくらい。頭部の形は小さなドーム状で、三つの目が、突起みたいにくっついている。