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【プロローグ(全10回)】山の上の旧診療所・踊る二人
街からは少し離れた、低い山の頂上に、小さな洋館がある。
かつては、診療所であった。独り暮らしの男性医師の、住居兼仕事場で、長い年月、開業していた。評判はまずまずだったらしい。医師の名は、柔曽といった。
が、年老いたため、だいぶ前に引退し、診療所の看板も下ろしている。
今や、ここを訪れる者もいない。
ところがであった。
ある時期から、ここの洋館にまつわる、奇妙なうわさが流れ始めた。
雨の夜になると、初老の男と、長い黒髪の美少女が、手を取り合って、庭で踊っているというのだ。
初老の男というのは、恐らく、柔曽のことであろう。ただ、少女の正体は謎であった。柔曽はずっと独身であるため、娘や孫ではなかろう。
目撃した人の話では、少女は白いワンピース姿。すらりとスタイルも良く、ひと目見たら忘れられないほどの美人であったそうな。
雨に濡れることも気にせず、二人は、それはそれは楽しそうに、庭の灯りの下で、いつまでも踊り続けていたということである。