2 ルディの酒場
目が覚めると見知らぬ天井だった。
誰かの家に泊まったか?と寝ぼけていると奥から誰かがやってきた。
「お、やっとお目覚めかい?」
「……ルディ? ルディの酒場?」
「なんだ。あたしのこと、知ってんのかい」
「なんでルディの酒場に!? 一体どうなってんだ!? 俺の家は? ドッキリかこれは!?」
「そんなのあたしが知りたいよ、あんたうちの店の前でぶっ倒れてたんだよ。あたしゃ命の恩人なんだから感謝くらいしたらどうだい」
「……すみません、ちょっと混乱してて……」
酒場のソファーに寝かされていたらしい。
ルディから差し出された水を一気に流し込む。
ここは冒険者が最初に訪れる街「オリゴ」。
チュートリアルに特化した街であり、市場、図書館、訓練場など必要最小限の施設が揃っている。
「あたしのこと知ってるってことは、あんたサブキャラだろ?」
このゲームは1つのアカウントにつき5体までキャラクターを作成できる。
俺が着ている初期スキンから、ルディはサブキャラと判断したようだ。
「……ええ、まぁ」
とりあえず状況を把握するまで話を合わせておこう。
「サービス終了が決まったのに、今更新規の冒険者なんて来ないしね」
「え!? サービス終了すること知ってるんですか!?」
「そりゃあニュースに載ってたからね」
ゲーム内のNPCがこんなメタいことを言うだろうか。
否、やっぱり手の込んだいたずらに違いない。
「あの、俺山田って言って、東京に住んでるんですけど…」
「トーキョー? 聞いたことない街だね」
「いや、この世界じゃなくて別の世界から来たみたいで…」
「何訳の分からないこと言ってんだい。元気になったんならさっさと出ていきな」
ルディに背中を押されて入口まで追い出される。
本当にいたずらではないのだろうか。
「最後に一つだけ聞かせてください」
「なんだい」
「サービス終了するの、怖くないんですか」
「長いこと働いてきたんだ。終わったらゆっくり休ませてもらうよ。」
言葉とは裏腹に、ルディの表情は悲哀に満ちていた。