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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪奇小説集・朧

帰還

作者: とらすけ

 帰還



 シンタロウが気が付くと暗闇の中に居た。


・・・ここは?・・・


 立ち上がり辺りを見回す。黒い壁に黒い床、そして、黒い天井。そこに白い線が発光している。まるで、40年近く前の「ブラック・ダンジョン」というゲームのワイヤーフレームで作られたダンジョンの様だ。


 取り合えずシンタロウは前へ歩いてみた。一歩歩くとワイヤーフレームが一歩先まで伸びる。結局、見えるのは2ブロック先までで、そこから先は暗闇だ。

 歩いてみて気付いたのは、ガシャガシャする音だった。改めて自分を見てみると、全身が欧州の中世風鎧で覆われている。まるで重さを感じないので分からなかった。


・・・これは、いよいよゲームの世界か・・・


 シンタロウがそう思いながら一歩踏み出すと、カタカタと音が鳴り身体が動かなくなった。そして、目の前にモンスターが現れる。スライムと呼ばれる低級のモンスターが4体、飛び掛って攻撃してくるが何もダメージは受けない。

 シンタロウは持っていた剣で、難なくスライムを倒した。


・・・これはやはりゲームのままだ・・・


 当時、記録媒体はハードディスク(HD)など無く、フロッピーディスク(FD)が主流だった。モンスターが現れる時、FDを読み込みにいくので音がするのだ。この読み込みの音が鳴ると、どんなモンスターが現れるのか、ドキドキしながら画面に表示されるのを待ったものだ。


・・・ここがあのゲームと同じなら、スライムが出るのは地下三階まで・・・


 シンタロウは当時遣り込んだゲームを思い出す。すると、その時、人の声が暗闇の中から聞こえた。


「そこの人、あんた、人間か 」


 シンタロウには姿は見えないが、向こうからは見えているようだった。そして、シンタロウが答える前に、暗闇の中から五人の人間が現れた。


「これで六人になる あんた、このパーティに入ってくれ 」


 日本の戦国武将の様な鎧を着た大柄な男が言う。素性の知れない人間であるが、モンスターではないのは間違いない。シンタロウは了承した。すると、視界が広がり7ブロック先まで見通せるようになった。


「そうか、このパーティにプリーストが居るんだ 」


 このゲームは、ダンジョンに下りたらまず遠視の魔法と識別の魔法を唱えるのが基本だった。遠視の魔法で先までの視界を確保し、識別の魔法でモンスターを識別する。この識別の魔法がないと、モンスターはアンノウンと表示され、スライムかと思っていたら、実は毒を持つポイズンスライムで手痛いダメージを受けたりする。回復手段も含めてプリーストは必須のメンバーだ。


「私は、ユカリと言います 」


 プリーストの女性が名乗る。それに続いて他の人間も名乗りだす。先程の戦国武者はサムライのマサ、忍者の装束をしている痩身の男性がヒデ、魔法使いの女性がワカバ、そして、おそらくビショップだと思われる女性がユーミ。この五人にシンタロウを加えた六人がパーティになった。

 シンタロウは、攻守共になかなかバランスの取れたパーティだと思ったが、出来過ぎている感が否めなかった。


「みんなで話したが、ここは昔のゲームに瓜二つだと思う あんた、どう思う? 」


 マサがみんなの顔を見ながら、シンタロウに言う。


「僕もそう思っていた 何故なのか分からないけど 」


 シンタロウが言うと、やはりそうかという顔で一同が頷く。


「だとすると ここは地下何階のフロアかしら 」


 ワカバに続いてユーミが口を開く。


「私たちは少し前、ポイズンラビットと遭遇しました 」


「僕は、スライムと戦った 」


 一同、成程という顔になる。


「ここは地下三階という事だな 」


 ヒデが言い切る。毒のモンスターが出現するのは地下三階以降。スライムが出現するのは地下三階まで。

 みんなどれだけこのゲームを遣り込んでいるんだ、シンタロウは心の中で思う。


「さて それでどうするかだ 」


「地下十階まで行ってラスボスを倒すのか 地上に戻るのか 」


「何故、僕たちがここに居るのか それが分からない以上、まず一度地上に戻るのが先決じゃないですか 」


「私もそう思います 」


「そうだな ラスボスを倒しに行くとしても、一度戻って準備を整えた方がいい 」


「私も賛成 だってこれがあのゲームなら一度死んだら終わりですよ 」


 そうだった。このゲームは一度死んだら終わり。それまで育てたキャラクターが消滅してしまう。シンタロウはこのゲームのその緊張感が気に入っていたが、何日もかけて育てアイテムも揃えたキャラクターがちょっとしたミスで消滅した時は、しばらく放心状態になった事を思い出した。


「よし 戻ろう 」


 マサが、皆を代表して口に出す。


「上に戻るには…… 確かこのフロアの中心にあるダークエリアの中に階段があるんじゃなかったか 」


 ヒデが思い出しながら、みんなに確認する。


「そうだよ 私も思い出した 」


 ユカリの言葉に全員頷く。


 さっそくダークエリアへ向かう為、パーティは出発する。途中、何度かモンスターと遭遇したが、この階層に出現するモンスターには楽に勝利する事が出来た。


「なんか俺たちけっこうレベル高い気がする 」


 ヒデの言葉に、マサが自分の持っているカタナを見せる。


「それは、名刀ムラカミ レアアイテムじゃないですか 」


 シンタロウが驚きの声を上げた。滅多に入手出来ない、レア中のレア。サムライ職の最高の武器だった。


「そうだ 当時ダンジョンに潜って手に入れようとしたけど結局手に入れられなかった武器だ それが今はこうして持っている 」


「私も最上位の魔法をすでに覚えているみたい 」


 魔法使いのワカバが言う。そういえばとシンタロウも思う。


・・・僕も回復呪文も使える上級職のロードのようだ・・・


 どういう事なのか理解出来なかったが、そもそもこんな所に居る事事態がおかしい。


・・・今は余計な事は考えず、地上に戻ることだ・・・


 そう思いながらシンタロウは歩いていた。


 

 しばらく何事もなく進み、パーティがダークエリアへの角を曲がった途端、カタカタと音がして動けなくなる。また、モンスターかと余裕でいた一同だったが、現れたモンスターの姿を見て全員恐怖と緊張で体が震えていた。


「アサシンが六体…… 」


 本来地下十階に現れるモンスターだった。素早い動きで物理の攻撃をほぼかわし、一撃で首を刎ねるクリティカルヒットを放ってくる。高レベルのパーティでも全滅の恐れがある、最大限に注意が必要なモンスターだ。全員一度は苦汁を舐めている相手だった。

 何故かこのゲームでは突然こういった強力なモンスターが浅い階層でも出現する事があった。


「ユカリ ユーミ ワカバ 呪文だっ 」


「わかってるっ 」


 即座に後衛の三人が呪文の詠唱に入る。先ず詠唱の短いプリーストのユカリが前衛三人に防御力アップの呪文、更に攻撃力アップの呪文をかける。


「よしっ 」


 前衛の三人は飛び掛ってくるアサシンを迎え撃つ。

 シンタロウは盾で敵の攻撃を防ぎ、右手の剣で攻撃するが一度に三体のアサシンが同時に襲い掛かってきた。二体の攻撃は防いだが残り一体のダガーがシンタロウの右腕の甲冑の隙間に食い込む。そして、そのまま骨ごと断ち切られた。


「ウワァァーーっ 」


 シンタロウの右腕が肘の所から切断され宙に飛び、切断面から血が吹き出す。ユカリが間髪入れず治癒の呪文をシンタロウに唱え、忍者のヒデがシンタロウの腕を飛ばし油断したアサシンの首を刎ねた。アサシン並みの忍者のクリティカルヒットだ。

 一体倒されたアサシンは後方に跳び、距離をとる。そこへ、ビショップのユーミがスリープの魔法を唱えた。アサシンは全員、睡眠状態となりバタバタと倒れる。


「今だっ 」


 長い詠唱の終わったワカバが”極大ビック爆炎バーン”の呪文を放つ。アサシンは業火に焼かれ、一瞬で黒焦げになった。


「大丈夫か? 」


 マサが心配そうにシンタロウに尋ねる。


「ユカリさんが治癒魔法をかけてくれたので……」


 逆にシンタロウは、アサシン相手に僕の腕一本で済んで良かったと強がった。それよりとワカバの方を向く。


「あと何回使えますか? 」


 シンタロウがワカバに尋ねる。呪文は強力だか使用回数が限られている。


「残り、一回ね 」


 ワカバの言葉で全員緊張感が高まる。そうそうアサシンクラスのモンスターと遭遇する事は無いと思うが万が一を考えなければいけない。

 幸いモンスターに遭遇せず無事ダークエリアまで辿り着いた。ダークエリアは遠視の呪文がキャンセルされ文字通り暗闇の中歩く事になる。しかし、このゲームを熟知するパーティは苦もなく上り階段に辿り着いた。


 地下二階に上がったパーティは今度は南西の角にある地下一階への階段を目指す。グルグルとやたらに回り道をさせられる以外、特に仕掛けのないフロアなのでパーティは脇目も振らず階段を目指した。

 その時、またカタカタと音が鳴りモンスターと遭遇した。現れたモンスターはゴブリンが八体。序盤の経験値稼ぎの雑魚モンスターだった。全員余裕で構えるが、何時まで経っても攻撃してこない。ヒデが焦れたように飛び出そうとするのを、シンタロウが止めた。


「これは友好的なモンスターじゃないか 」


 シンタロウに言われ全員ハッと気が付く。


「そうよ 思い出した 」


 ユカリが声を上げる。もし友好的なモンスターを倒した場合、闇堕ちしてしまう。だが闇堕ちしないと装備出来ない強力な武具があったりするので、わざと友好的なモンスターを倒しまくるプレイヤーも居たりした。但し闇堕ちしたプレイヤーに対しては友好的なモンスターは現れなくなり、その強さも倍化する。


「無駄な戦闘は避けたい ここはやり過ごそう 」


 マサの言葉でパーティはゴブリンの横を通り抜け先へ進む。そして、地下一階へ上がった。地下一階は初心者の為のフロアであるため、地下二階以上に何もないフロアだった。地上に出る階段は北東の角にある筈だ。

 パーティはそこに向かう途中、通路の片隅に置かれた宝箱を発見する。忍者のヒデが調べると”ニードル”の罠が仕掛けられているようだった。


「どうする? 」


 ヒデがみんなの顔を見回す。


「ニードルで間違いないですか これがテレポートの罠で地下十階まで転送されたら目も当てられないですから 」


 シンタロウが確認するが、ヒデは間違いないと主張する。


「何が入っているのか興味ありますけど ここは一旦外に出る事を優先しましょうよ 」


 ユカリの言葉に、マサもシンタロウも同意する。


「まずは、外へ出よう 」


 パーティは宝箱はスルーして階段を目指し、北東の角に着いた。


「ここだ 」


 床が白く発光している。ゲームではここに乗れば地上に帰還出来る筈だった。


「この後、何が起こるか分からない みんな達者でな 」


 マサは一人一人と握手する。ゲームだと城下町に出る事になるのだが、この先どうなっているのか想像もつかなかった。


「じゃあ、行きますか 」


 誰かの言葉で、全員が白い床に乗った………………。




 シンタロウが気が付くと、自分の部屋のベッドの上だった。


・・・夢……? ・・・


 それにしてはリアルな夢だったな、とシンタロウは思う。









 同時刻、この星の遥か上空で一隻の宇宙船が帰還の準備をしていた。


「この星は合格だな 」


「ああ、そうだな 突然の事態にもパニックにならずに、自分たちを脅かす敵には協力して敢然と立ち向かう、それでいて戦いを好む訳でもない、欲望を抑える自制心も持っている 未知の恐怖に対する勇気もな 」


「この星は何も問題ないと報告しよう 」


「残るは我々に対する試験か…… 」


「気を付けろ この帰り道、何が起こるか分からんぞ 」


蛇足ですが「ブラックダンジョン」なんていうゲームは在りません。念の為。


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