七夕の夜のおねがいは~ソナタの場合~
いまでも、思い出します。
先生から七夕のおはなしを聞いたわたしは、すごく落ち込んでしまったのです。
なぜって、織姫さまと彦星さまが、あんまりにもかわいそうだったから。
ふたりとも、お互いが大好きで。
ちゃんと反省して、毎日まじめにはたらいて、もう何百年がたつのでしょう。
なのにいまも、一年に一回しか、会うことができないのです。
わたしの話をきいたみんなは、どうしたらいいのかな、といっしょに考えてくれました。
「そうだっ!」
と、ミライおにいちゃんがいいました。
「あのね、七夕の日は、みんな短冊にねがいごとを書くでしょ?
それにね、書いたらいいと思う!
『おりひめさまと、ひこぼしさまが、すきなときにあえるようになりますように』って!
ぼ、……おれも、いっしょに書くから!
そしたら、きっと、いつかとどくはず!」
なんていいアイデアでしょう!
わたしはさっそく、だいすきなピンクの短冊に、そう書きました。
ミライおにいちゃんも、みんなも、いっしょに書いてくれました。
そうしてみんなでおそうめんを食べて、ふんわりとけむる天の川を見ました。
つぎの七夕の時には、さすがにみんなに悪いので、わたしだけがみんなを代表して書くからということにしました。
けれど、そのときにもミライおにいちゃんは、「おれがそうしたいから!」といって、わたしと一緒のお願いを書いてくれました。
そうして毎年、わたしとミライおにいちゃんは、ふたりでおんなじお願い事を書きつづけてきました。
『織姫さまと彦星さまが、自由に会えますように』と。
けれど、それのできない日は、とつぜんにやってきました。
ことしの七夕、ミライおにいちゃんはこの町に帰れるかわかりません。
いつものピンクの短冊を前に、わたしの手は、ぴたりととまってしまいました。
ミライおにいちゃんはやさしくて、つよいひと。きっといまごろ、書いているに違いないのです。
『織姫さまと彦星さまが、自由に会えますように』と。
だから、わたしも。
そう考えたけど、わたしの手は動きません。
どうしよう。どうしたら、いいんだろう。
「ソナタちゃーん!」
そのとき、まるくてやさしい声がしました。
日暮れの窓のそと、歩道に立って手をふっていたのは、なんとミライおにいちゃんです。
わたしはたまらず、とびだしました。
「ミライおにいちゃん! どうしたの、かえれたの?!」
「えへへっ。がんばって、帰ってきちゃった。
おれ今年の短冊、どうしよっかなって考えちゃって。……
もうそんなの迷ってるくらいなら、会いに行っちゃおうって!」
照れて笑うミライおにいちゃんはなんだかとってもかわいくて、おもわずぎゅーっとしてしまいました。
そうして今年もわたしたちは、ひとつのお願い事をふたつの短冊に書いて、おんなじ笹の枝にかざりました。
ミライおにいちゃんは、きれいな瞳の色とおんなじ、みどり。
わたしは、だいすきなピンク。
夜風にさやさやとゆれる短冊と笹の葉を見ていたら、なんだかとっても、うれしくなって。
きっと来年も、こうしようね、と、ふたりでゆびきりをしたのでした。
おしまい
この物語を「うさねこ」よりも前に読まれた方……ありがとうございます!
こちらはただいま連載中の本編に出てくる、ほのぼのカップルのお話です。
よければ、そちらの二人にも会いに来てみてくださいね(序盤に出てきます)*^^*
「うさねこ」をご存じの方も……ありがとうございますっ!!
200ブックマーク達成。正直、夢にも思っていませんでした。
ご好評をいただき連載を決定したときですら、がんばってもきっと、100にも届かないんじゃないかなーなどと思っていたくらいなのですから。
ここまで来られたのはひとえに皆様が、いつもあたたかく見守ってくださったおかげです。
心より、ありがとうございます。
本編の物語は、残すところ1/3くらいでしょうか。
ラストまで楽しんでいただけますよう、一層精進いたします!