3.欠陥令嬢
引っ込み思案な性格のリーゼロッテと、割と当たって砕けろな性格の愛子と融合して、少しずつ変化していきます。
意識を取り戻してから2週間。なんで表情筋がストライキしているのかはまだ思い出せていないが、自分が公爵家の「欠陥令嬢」と影口を叩かれていたことは思い出した。
リーゼロッテには友達がいない。幼いころからあまり感情が表に出ず、嬉しいときも嬉しくないものと勘違いされ、同じ年頃の令嬢からは少し距離を置かれていた。そのため公爵令嬢にもかかわらずあまりお茶会に呼ばれず、たまに参加しても遠巻きにされ友達を作ることはできなかった。決定的だったのは、あるお茶会で初対面の男の子に「幽霊みたいできみがわるい!」と罵られ、突き飛ばされて怪我をしたことが切っ掛けで、人が怖くなりそれを最後にお茶会に参加することをやめ、友達を作ることも諦めてしまった。
お茶会に参加しなくなってから2年。現在13歳のリーゼロッテは貴族ならもう婚約者がいてもいい年齢だが、例に漏れず婚約者がいた。よりにもよって、リーゼロッテを罵り突き飛ばした張本人のフィリップ=レオ=ヴァンゲンハイム殿下。この国の第二王子だった。2年前のお茶会は、フィリップ殿下とリーゼロッテの婚約を発表する場だったのだ。
さすがに婚約者、ましてやフィリップ殿下と会わないわけにはいかず、その他のお茶会は出ずとも、王子妃教育の合間にわずかな時間ながら父と一緒に王子宮まで足を運んでいた。恐怖心を植え付けた元凶と会うのは心の底から嫌だったが、これ以上自分のわがままで父に迷惑をかけるのが辛くて我慢していた。
そもそも公爵自身は婚約には乗り気ではなく、むしろお断りする方向で話を進めたかったのだが、今回の婚約は王家からの打診。特に王が寵愛するペトロネラ第二妃から熱望され、なんやかんや断ることは難しかったようだ。
なぜか自分の母に歓迎されているリーゼロッテのことがフィリップはますます気に入らないようで、会うたびに「気味が悪い」「感情がなく人形のようだ」「お前なんか婚約者と認めない」と罵声を浴びせてきた。
そんな言葉にリーゼロッテは毎回傷つき、とても悲しかったが、やはり表情には出ず
「申し訳ございません……」と謝ることで精一杯だった。
(しかもそれを殿下がまわりに言いふらすもんだから、そのうち関係ない人にまで「面白みがない」だの「心がない」だの言われはじめて、最終的に「公爵家の欠陥令嬢」と呼ばれるようになったのよね。今は王子妃教育の教師もあからさまに見下してくるようになった。つーか普通、女の子にそんなこと言うヤツには注意するもんなんじゃないの?!王子なら何言ってもいいの??!親出てこいよ!!思い出したらなんかムカついてきたわ!!)
まだ少しだるい体を起こし、今までの記憶を整理していたらすごくムカついてきてしまった。ちなみに表情は安定の無である。
気分が悪くなってしまったので呼び鈴を鳴らし、アメリーにお茶を入れてもらう。
「ご気分が優れないようですね?でしたらカモミールティーにしましょう。」
リーゼロッテが産まれたときから世話をしてくれているアメリーには、無表情でも関係なく伝わるようだ。
「ありがとうアメリー。貴女はよくわたくしの気持ちがわかるわね?」
「当たり前です。お嬢様のことは私が一番よくわかっています。それに、お嬢様は無表情なんかじゃありませんよ?」
いや一ミリも喜怒哀楽表せてないけど私の表情筋。そうは思うが、アメリーはわかるというのだからわかるのだろう。現にリーゼロッテがむしゃくしゃしていることを察し、リラックス効果のあるお茶を入れてくれている。
「ねぇアメリー。わたくし、体調が良くなったら、マナーのお稽古やお勉強の時間を増やしてもらおうと思うの。あ、王子妃教育とは別にね。」
ここでの生活やお父様のこと、アメリーのこと、ムカつく婚約者のことも思い出したが、14歳になったら王都にある貴族の学園に入学することを思い出した。
殿下が率先して悪口を吹聴しているため、お茶会に一切出ていないリーゼロッテが多くの貴族になめられていることは明らかだ。
ムカつく相手に一方的に馬鹿にされ、対して面識もないその他大勢にまで馬鹿にされるなんて、そこそこ負けず嫌いだった愛子の意識が許さない。
今は体を悪くしているため王子妃教育もお休みしているが、貴族の娘が淑女教育を受けるのは当たり前。殿下との婚約が決まる前は、リーゼロッテにもマナーや諸々の家庭教師がついていた。
王子妃教育と切り替わったため個人では数年雇っていなかったが、この機会にみっちり教えてくれる講師を探してもらおう。
……でも私の評判を聞いて、教えてくれる人いるかなぁ………。