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第七十八話 混戦



「し、信じられん……」


 狂気から覚める土魔法使い。

 自身の作品(ゴーレム)が壊されていくのを恐れ、無意識にあとずさる。


 巨人の背に立つ少女は怒れる鬼となり、身の丈十数メートルの岩の怪物さえ倒した。もうしばらくすればそれは、ただの砂に帰すだろう。そして彼女は次に狙いを定める。僕らを苦しめた張本人を。


 僕はその先を見ることなく、サブ画面を再び呼び出す。


《対象者全員の【ステータス】に、状態異常として負傷部位を複数確認。特殊スキル【リセット】を使用しますか》


「使用する!」


《【リセット】します》


 いくつかの閃光が走る。

 ゴーレムのトゲ岩で傷付いた、リサメイが脱出した方角も光を放つ。アルテシアのほうは心配ない。彼女は強い。それよりも負傷したリサメイが心配だった。同時に隣に立つジーナや、黒狼族たちの軽傷もすべて【リセット】した。


「お兄さん。サンキュ!」


 そう言ってジーナも向こうの戦線に向かう。

 彼女のスキル【スナッチ】は、土魔法使いには通用しないにせよ、他の【黒の手】たちにはまだ試していない。戦闘向きではないにしろ、彼女のスキルはきっと役に立つ。


「さきほどから、貴様たちが発する光は、な、なんなのだ……! それにあの人獣の女も、あれほどのケガを負いながらどうして……」


 困惑する土魔法使い。

 【リセット】の存在を知らない奴らには、何度も蘇るゾンビのような敵を相手にしているようなモノだろう。その戸惑う姿に、さきほどまでの余裕はない。


「さあ。俺たちもそろそろ本気出さねーと、いい加減、脇役は疲れたぜ」


 すぐ近くで戦っている黒狼族たちのひとり、ジェイジェイが双剣を構え直す。ふっと彼が姿を消すと、瞬間、前方にいる【黒の手】のひとりと刃を交える。


 そのまま連撃を続けるジェイジェイ。流れるように回転しながらも、二枚の刃を交互に敵へとぶつけていく。相手の【黒の手】も必死にそれを受けるが、次第に黒いローブが裂かれていく。


「くっ!」

「オラオラどうした【黒の手】さんよ! 足元が御留守だぜ」


 劣勢を感じる【黒の手】の足元を払うジェイジェイ。尻もちを突く敵に、隙をみた彼の双剣が襲い掛かる。しかし、それは別の敵によって弾かれ、とっさに下がるジェイジェイに双剣を弾いた敵がロングソードを突き立てようと突進。それを横から割り込んだキースキースが、短剣によって軌道を流していくと、その先で待ち構えていたロックロックがバランスを崩した敵目がけ、鋭いかぎ爪で薙ぎ払う。


 しかし、敵もそれを読んでいたのか、身をかがめたままロックロックへと突っ込んでいき、そのままもみ合う形で地面へと倒れた。下になった【黒の手】から、両足で空へと蹴り上げられたロックロックがそのまま後方へと下がると、代わりにリュークリュークが、隠し持っていたナイフを至近距離で投げつける。


 ナイフの接近に気付いた敵は、うしろに後転してそれを避けると、今度は自分のロングソードでリュークリュークへと切りかかるが、それを最初に仕掛けたジェイジェイが、双剣で受け止める。


「うっわ! すげえな黒狼族さんたちの連携! 避けるあいつらもすごいけど、四人で相手に息をつかせないほどの連撃がすげえ!」


 少年のようにはしゃぐペイトン。

 落ち着いているように見えて、意外と彼もこういった戦いを見ると、子供のように熱くなるタイプらしい。僕も思わず見入ってしまったけれど、彼はそれ以上に興奮し、自分なりの感想を述べる。


「ペイトンの旦那。褒めてくれるのはありがたいが、そっちも気をつけなよ」

「えっ!? ってうわああ!!」


 近くで自分たちを褒め称える、ペイトンの身を案じるロックロック。彼の言葉通り、ペイトンの背後から唯一この連戦に参加しなかった残りの【黒の手】が襲い掛かって来た。


「ぐああっ!!」


 叫び声が上がるが、それはペイトンではなく、襲った本人のモノ。奴が襲うはずだったはずが、そのまた背後から、今度は別の手の者によって攻撃を受けたらしい。


「みんな、アタシを忘れてるっしょ!」

「ジーナちゃん!」


 わき腹を抑えて後退する【黒の手】。

 その浅くはない傷を負わせたのは、【スナッチ】によるジーナの攻撃だ。【リセット】を受け、真っ先に飛び出して行った彼女は、いつの間にかどこかへと消えたのだが、それはこの攻撃のためだったようだ。


「貴様っ!」


 傷を負った【黒の手】が、牛仮面越しにジーナを睨む。予期せぬ攻撃を受けたのがショックだったのか、当たるわけのないロングソードを振り払うが、当然彼女はそれを避け、今度は短剣の攻撃ではなく、後転をしながら相手のあごを蹴り上げると、蹴られた【黒の手】はものすごい勢いでうしろの石柱へと吹っ飛んでいく。


「ふう」

「助かったぜ、ジーナちゃん!」


 命の恩人に感謝するペイトン。

 そんな彼に構わず、吹き飛んだ【黒の手】を睨みながら、苦い顔のジーナが鼻を覆う。


「何こいつら。血の臭いしかしないじゃん!」

「そうなんだよ。異様だろ? わざと匂わせてるのかよってくらい臭せえ」


「まるで我々に、臭いで正体を知られるのを恐れているようですね」


 ジーナの言葉に反応する、キースキースとリュークリューク。他の黒狼族の連携の間に、暇が出来たのか、彼女の問いかけにそんな持論を出し合った。しかし、僕ら人族にはまったく臭うことがなく、ペイトンとふたりで顔を見合わせ、お互いに臭ったか? といったニュアンスで首をかしげる。


 やはり獣人や人獣は僕らとが違い、臭いを嗅ぐ能力が獣のそれに近い。相手の正体を認識する術を、臭いで判断する彼らの会話を聞いて、一瞬だけジーナに臭いとは思われていないだろうかと、自身の匂いが気になった。


 そんな相手の正体を見極めようとする、ジーナたちの話題に耳を傾けているなか、石柱付近まで吹っ飛んでいった【黒の手】が立ち上がり、再び三人一組との戦いへと流れていく。


「五対三だし、みんな余裕っしょ!」

「いや、油断しちゃイケねえぞ、ジーナの姐御! こいつら結構素早い、実際、今は姐御の攻撃しか当たってねえ!」


 黒狼族の連携攻撃に加わったジーナが、合間にそうしゃべると、三人の【黒の手】の同時攻撃を、自身のかぎ爪で受け止めたロックロックが反応する。


 そしてそれらの攻撃を一気に薙ぎ払うと、うしろから同時に飛び出した三人の黒狼族が、それぞれの【黒の手】に攻撃をしかける。


 ロングソードを巧みに操る【黒の手】たち。

 どれもみな同じ姿のため、見分けがつかないが、唯一、さきほどジーナが一撃を当てた奴だけが、わき腹に微かな血をにじませているため、そいつだけが判別がつく。


 負傷した者から順に片付ける。

 戦いの鉄則において、それはごく自然と戦術に組み込まれて行くのか、ジーナたちの攻撃は、徐々に手負いの【黒の手】に集中していき、他のふたりに比べ、はるかに負担をしいられた状況に追い込まれていっていると言うのは、隣に立つ実況者ペイトンの談だ。


 このままジーナの【スナッチ】で一気に畳みかけるのが得策とも言えるが、残念ながら彼女のスキルにも回数制限というモノが存在する。


 さきほど【リセット】を使用したときに、チラリと見かけた彼女のレベルは現在10。最初に土魔法使いに仕掛けた攻撃と、手負いの【黒の手】に使ったため、他に内緒で使っていなければ、残りはあと八回。


 奴らの装備しているローブに防御力があるのか、戦闘職と非戦闘職の中間でる、ジーナの攻撃力が低いためか、【スナッチ】による一撃死(クリティカルヒット)とまではいかない現状、よほどのチャンスがない限り無駄遣いは出来ない。


「くっ!!」


 幾度かの連撃が続き、ようやく手負いの【黒の手】に二度目の攻撃があたる。当てたのはもちろんジーナだ。ケガをしているわき腹と腕に傷を負った奴は、他のふたりに庇われながら、うしろへと後退していく。


「逃がさないっつーの!」


 ジーナが三度目の【スナッチ】を使用する。

 立ちはだかるふたりの【黒の手】の攻撃をすり抜け、後方に逃げた手負いの【黒の手】を追う。自分が狙われているのをまったく気付いていない奴は、負傷した腕を押さえながら、仲間の前にいる黒狼族たちの出方を見ているだけだった。


「ぐわあああ!!」


 そんな奴の背後から、ジーナの攻撃が迫る。

 わき腹、腕と続き、今度はローブごと背中を斜めに切り裂かれた手負いの【黒の手】は、またも意識外からの攻撃を突然受け、激痛に声をあげる。


「きゃああ!!」


 奴の声とほぼ同時にあがるジーナの叫び。

 無理して深入りしたのが仇となったのか、とっさに振り向いた【黒の手】の腕から、突然飛び出した凶器のようなモノが、彼女の顔の前を斜めに走り、ほほをざっくりと切りつけられてしまう。


「ジーナっ!!」

「ヨースケっ!!」


 飛び散る鮮血にカッとなる。

 思わず彼女の下へと向かおうとするが、即座にペイトンに肩を掴まれ、止められてしまう。なぜ? と、うしろを振り返るが、彼は黙ったまま頷くだけだ。その顔を見てふと我に返った僕は、自分に課せられた使命を思い出し、展開したままのサブ画面から、ジーナの名前を選ぶ。


《対象の【ステータス】に、状態異常として負傷部位を確認。特殊スキル【リセット】を使用しますか》


「使用する!」

「――!?」


 光り輝くジーナを前に、驚愕する【黒の手】たち。

 攻撃した手負いの【黒の手】は、眩しさのあまり手で顔を隠しながら、その場に膝をつく。それと同時に光りのなかから足が飛び出し、膝をついたばかりの【黒の手】を蹴り飛ばした。


「ギャウン!」


 強烈な蹴りを顔面に受けた【黒の手】は、そのまま背後の石柱に激突し、地面へと叩きつけられた。


「――!!」


 光が収まり、倒れた仲間に気付いたふたりの【黒の手】たちは、とっさに僕らから距離をとる。そんな奴らの前に、【リセット】で元に戻ったジーナが現れたことで、奴らの警戒心が高まる。


「ば、バカな! 貴様、あれほどのケガを一瞬で」

「最高級ポーションでも使ったのか。しかしあの光はいったい……」


 困惑する【黒の手】たち。

 目の前で起きた状況に理解が追い付かず、あれこれと詮索するが、それらはすべて間違いであり、【リセット】の存在を知らない奴らには、一生かかっても解けない疑問となるはずだろう。そしてそのスキルで復元した綺麗なほほを上げ、ニコリと笑うジーナ。


「ジーナちゃん復活!!」


 ブイサインをするジーナが僕にウインクする。ホッと一安心した僕は、自分のうしろに立つペイトンに振り返ると、彼に頭を下げる。


「ありがとうペイトン。キミが止めてくれて助かったよ」

「にひひ。良いってことよ」


 ジーナの顔を傷付けられ激昂した僕は、一瞬我を忘れそうになった。【リセット】の価値を自分自身で身をもって体験したペイトンは、そんな僕に、自分には自分の役目があるということを、すんでのところで思い出させてくれた。


 我に返った僕は、自分の使命を果たし、ジーナを救ったけれど、もっと早く【リセット】の準備を終えていれば、彼女が痛みに苦しむ時間を少なく出来たのにと反省もする。それと同時に、今度からは戦っている仲間たちのステータス画面を、常に開けておくべきだと思いつき、すぐに実行に移すことにした。

 

「これでふたりに減ったな」

「ああ。それよりも見たかお前ら」


「最悪だ。俺たちのせいかよ」

「……申し訳ございません。主さま」


「えっ!? な、なに? なんの話!?」


 突然重い雰囲気になる黒狼族たち。

 僕を守るようにして前に立つ彼らが、尻尾を下げて俯いている。そんな状況に訳がわからず、彼らに問いかける。すると僕の方を振り向いたロックロックが、深々と頭を下げだす。


「すみません兄貴。今回の強襲。全部俺たちのせいです」

「えっ!?」


「さっきジーナの姐御に反撃した【黒の手】の攻撃を、俺たち全員が見てしまいました……」


 そう言われて、さきほどのジーナと、手負いの【黒の手】の戦いを思い出す。背後から【スナッチ】で背中を切りつけた彼女に、あの【黒の手】は負傷していない腕から、何かを飛び出させて、彼女のほほを傷付けた。


「まさか……」


 石柱の下で倒れたままの【黒の手】を凝視する。

 衝撃で牛仮面が取れ、うつ伏せに倒れている奴の腕には、僕の知っている仲間と同じ、かぎ爪が。仮面の外れた横顔は、僕の周りでうなだれる仲間たちとうりふたつ。



「黒狼族たち……だったんだ……」



 僕はそう、チカラなく呟いた。

 


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。



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