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第六十四話 魔血契約の発現



「お、おい。何するんだよ、ヨースケ」


 僕の背後から、ペイトンが訝し気に言った。

 彼には僕の言っている意味がわかるはずもない。知っているのは、赤い奴隷の絆を首にかけた者たちだけだ。砂盗賊の集団を前にして、突然わけのわからないことを言った僕に、彼は何かを感じたのか、肩を掴んで来た。


 僕がこれからやることは、この国の規律に反するものかもしれない。砂盗賊を助けるってことは、犯罪者を擁護することになるからだ。けれど、僕は僕のやり方でそれを押し通すつもりだ。


「ペイトン。悪いけど、ここからは僕のテリトリーなんだ」

「なっ! お前、なんか急に……」


 詰め寄る彼を手で制した。

 自分のステータス画面を立ち上げる、僕の言動の変化に目を見張るペイトン。アルテシア以外のメンバーは、これが僕のお節介だとわかると、呆れたような顔で笑っている。みんなありがとう。こんな僕のわがままに付き合ってくれて。


 砂盗賊に向け大声をあげる。


「今からキミたちには、僕の奴隷になってもらう!」

「「――!」」


 いよいよ終わったかという顔の砂盗賊たち。

 捕まった先がただの定期便ではなく、奴隷ディーラーの率いる集団だったと知った彼らの表情は、絶望の上にさらに絶望を上乗せしたようになり、全員が一斉に俯きだす。


「おい、ヨースケ。お前、何言ってんだよ! こいつらはこのまま処刑されるんだぞ? そんなことしたらお前だって――」

「僕が彼らの矜持を奪ったんだ。その責任は取るつもりだよ」


「だからって、何もお前がそこまですることはないんじゃねーのか? そのままこいつらを王都で引き渡せば済むってことだろうよ。国に逆らうなんて馬鹿のすることだぞ!」


 まだ知り合ったばかりの僕を、彼なりに心配してくれているのだろう。そんなペイトンの優しさを感じながら、僕は振り向いてこう告げる。


「何も逆らうつもりなんてないさ。むしろその逆かもね」

「はあ?」


 呆気にとられるペイトンを尻目に、僕は彼らの人数を数え始める。砂盗賊の人員は全部で二十人。この集団はサンドゴブリンやミニオークと呼ばれる魔物が数匹いて、人族やその他の亜人は全部で十五人いた。魔物を奴隷にするのはやったことはないが、果たして出来るのだろうか。


 以前湖の森でジーナの特訓を一緒に受けたときは、アルテシアが魔物を倒すとこを見ても、あまり気にはならなかったし、実際スプラッター的な場面も何度か見た。


 ただこうして人族たちに混ざって怯えている彼らを見ると、どうにも魔物だからといって討伐する気にはなれない。しかも人族たちと同じ集団で生活しているのだろうから、ちゃんと意思疎通も出来るし、人と変わらないのだ。


 それに、あの森にいた奴らとは何かが違う。

 そんな疑問を感じていると、アルテシアと目が合う。


「なあアルテシア。あの魔物たちと湖の森の奴らって、何か違ったりする?」

「えっと、それはどういう?」


 僕はさっき自分が思ったことをアルテシアに伝える。黙って話を聞いていた彼女が急に顔を赤く染め、戸惑い始めた。


「おいおい。ヨースケお前、わかってて聞いてねーか?」

「え?」


 アルテシアの変化に気を取られていると、突然ペイトンが僕の首をロックしてくる。ニヤニヤする彼の質問の意味がわからず、固まったままでいると、


「あそこにいる魔物たちはな、全員ハーフなんだよ。あいつらは魔物に襲われた、人族の女たちとの間に生まれた……ある意味被害者だ」 

「あ……」 


 ペイトンの言葉に合致する。

 僕はその説明を、可憐で純情なアルテシアに求めようとしていたのだ。恥ずかしがる彼女を見ると、ぷいと顔を逸らされる。うん。これは失態だ……。


「この定期便(キャラバン)のボスはお前だ。あんまりとやかく言いたくねーけど、あいつらまで奴隷にする気かあ? そんなの聞いたことがないぜ。()()()()()()を仲間にするなんてよ」

「ハーフ……ペイン?」


「ああ、奴らはハーフペインて呼ばれている半分傷物、もしくは魔物との間に生まれてしまった、心に深い傷を持つ種族って意味らしい。」

「深い傷を持つ」


 ペイトンの説明に考えさせられる。

 前世でもハーフというと、一部羨ましがる人もいるが、どちらの国の人たちから弾かれて、悲しい思いをしている人もいる。それこそ人々から忌み嫌われる、魔物との間に生まれた彼らを見れば、それ以上の偏見や迫害を受けてきたのを容易に察することが出来る。

 

「そういった奴らが賊に身を落としているのが現状だ。だからといって、俺たちにはどうすることも出来ない。この砂漠ではどちらかが奪い合うしかないんだ。賊は俺たちのすべてを奪いに来るし、俺たちは奴らからそれを守るために殺し合う。そんな相手に半端な同情をするだけ、奴らにとっては迷惑だろうし、無駄だ」


 日頃、賊との遭遇を経験しているペイトンの言葉には現実味がある。流されるようにして、こんな局面に出くわした僕らとは違い、言葉にも経験の重みあった。何も言い返せない。でも。それでも――


「半分人族ってことは、奴隷にすることだって出来るかもしれない」

「はあ? まだそんなこと言って、出来なかったらどうすんだよ」


「やって見せるしかないんだ、それに僕は出来ると信じてる」


 そう言って傍にいるアルテシアを見つめる。

 彼女は黙ってそれに頷いてくれる。


「じゃあ、やって見せてくれよ! 俺の目の前でさ。そしたらもう何も言わねえよ」


 ペイトンが呆れたように僕への通告をする。

 僕もそれに黙って頷き、ステータス画面を呼び出す。


 

 【ステータス・オープン】


【名前】    

 ヨースケ

【固定ジョブ】 

 奴隷ディーラー レベル10

【業】

     

【人種】    

 人族

【年齢】    

 16

【ステータス】 

 良好

【装備】

 契約のナイフ    

 上質なレザーコート

 しなやかな革のベスト

 硬質の手甲

 革のベルト

 良質なズボン

 硬質なブーツ

 無限アイテムバッグ 

 ■食材       

 ■生活用品

 ■衣類

 ■その他アイテム     

【所持スキル】 

 奴隷契約 10

 奴隷解除 10

 奴隷売買 10

 奴隷譲渡 10

 奴隷管理 常時

                

                   □


 

 何度か繰り返し開いているこの画面。

 ほとんどすぐに【特殊スキル】の項目へと移るため、リサメイの呪いを解くあたりから、きちんと見ていなかったのだけれど、買い物のときに、ふと見て驚いたことがあった。それはレベルが10になっていたことだ。きっとリサメイと始め、黒狼族にもスキルを【リセット】を使ったのが原因だ。とくにリサメイの呪いなんて特殊過ぎるし、レベルの低かった僕が使ったことで、こんなにも上がってしまったに違いないと勝手に納得している。


 あとはアイテムバッグの違いだ。

 古そうだった冒険者ギルドのとは違い、レイウォルド氏の最新作らしく、表示が変わっている。項目別にわかれていて、パソコンのフォルダーのようになっている。在庫数が表示されないため、この先に進まないとわからないのだけれど、、これはこれで基本画面がスッキリしていい。


 そんな新たにアップデートされたステータス画面を立ち上げたまま、砂盗賊たちの下へと歩み寄る。


「ひぃっ」


 連中の数人が、僕を見て怯えた声をあげた。

 いくら奴隷ディーラーの評判が悪いといったって、こう目の前であからさまに嫌われると、結構傷付くんですけど。


「あ、あんた俺たちをどうするつもりなんだ」


 砂盗賊の集団のなかから、若い戦士風の男が僕に尋ねる。彼はここのリーダーなのだろうか。先ほどから仲間の意思を代表して、僕にいろいろと話しかけてくる。


「さっき言った通り僕は奴隷ディーラーです。だからキミたちを奴隷にして、僕の支配下に置かせていただきます」

「し、支配下だって? じゃああんたがこの盗賊団の頭になるっていうのか」


 男は顔をしかめ、僕の言葉の意味を必死に理解しようとする。もちろん盗賊団の頭になんてなるつもりもない。


「僕はヨースケ。キミの名前は?」

「え? お、俺はダスティンだ」


 若い男は戸惑いながらも名乗る。

 自分の問いかけに対し、急に名前を教えろと言われたのに面を食らったような顔だ。そんな彼に僕は話しかけた。


「じゃあダスティン。まずキミから奴隷になってもらおうかな」

「えっ!」


 驚くダスティン。

 奴隷になることが怖いのか、それともこのあと何をされるのか見当もつかない状況に怯えているのか、額に汗を浮かべながら、ジリジリとうしろに下がる。

 

「おっと! どこ行こうってんだ? お前」


 いつの間にか、ダスティンの背後に迫っていたキースキースが彼を羽交い絞めにする。


「は、放してくれ! 嫌だ! 俺は奴隷として飼われるなんてまっぴらだ!!」


 身動きが取れないまま、そう叫ぶダスティン。そこまで嫌がらなくてもとは思うが、何も知らない彼には気の毒な状況だろう。他の砂盗賊たちも一気にざわつきだす。


「じゃあ、始めるよ」

「や、やめてくれ! 頼む、ここで殺してくれっ!!」


 懇願するダスティン。

 奴隷よりも死を選ぶって、さっき命乞いしてたくせに、そんなに奴隷が嫌なのか? まあ、暴れるのはキースキースに任せるとして、僕は自分の腰に差していた【契約のナイフ】を取り出す。


 うわあ。なんか、ここまでのシーンを傍から見たら、完全に僕が悪役にしか見えないじゃないか。いくら彼らのためでも、周りにアルテシアだっているのに、これはちょっと気が重い。


 そんな気持ちを奮い立たせ、僕は悪役に徹する。


「さあ。汝、我が力、我が糧となりてこれを助け。我、汝を従え、汝を我が物とする――!!」


 僕の唱える呪文と共に、目の前に大きな魔方陣が現れ、その中心から光が射す。それは僕とダスティンの胸の辺りを照らし、両者に繋がりを求める。そのあと立ち上がった、お互いのステータス画面はゆっくりと重なり、僕の脳内にいつものアナウンスが開始される。


 おもむろに持っていた【契約のナイフ】から突起針を出し、自分の指から血を流させる。そして僕らのステータス画面にそれを捧げ、次は奴隷となるダスティンの番だと言うかのように、羽交い絞めにされた彼の腕から勝手にその血を頂戴した。


「くうっ!」

 

 針による痛みなのか、それとも奴隷にされる嫌悪感からくる叫びなのか。どちらともつかぬ声を出すダスティン。


 強引に貢がせたその血を、重なるステータス画面へと塗りたくると、またも脳内で次のアナウンスが響き渡る。それが終わり、ダスティンの首元が光り出すと、あの赤い奴隷の絆。僕だけの赤い首輪が現れた。


「はい。ご苦労さま」


 すっかり板についた悪役のような振る舞いで、そんな台詞を吐き、奴隷になったばかりの彼の耳元に向けてこうささやく。


「大丈夫。キミたちをそう簡単に、死なせるつもりはない」

「――!?」


 意味がわからないと言った風の彼は置いといて、そのまま次の段階へと進む。


 僕のレベルでは同時に【奴隷契約】が出来る人数は、一日あたり十人までとなる。ダスティンを含め、次々と人族や亜人たちの契約を九人分終えた僕は、最後の一名を残して、ダスティンを呼んだ。


「さあ、ダスティン。今日最後の奴隷だけど、ハーフペインを試してみたいんだ。この集団の代表者であるキミに、一番従順な者を紹介してほしい」

「な、なにも俺はここの代表じゃ……それにいくらハーフだからといって、魔物を奴隷にするなんて、不可能に……」

 

「いーから。これは()()だ」

「――! は……はい。了解しました」


 急に大人しくなるダスティン。

 彼の目は映ろになり、僕の奴隷として、命令の呪縛にとらわれていく。その彼が指す指の向こうに、ボロいフードを被った少年風の魔物が座っている。


「……彼がこのなかで、一番人族に近い状態で生まれたハーフペインです」

「そうか。ありがとう、ダスティン」


 ふわふわとしたようすのダスティンが、魔物の少年に指を差したまま紹介をする。僕は彼に礼を言い、初めての試みとなる、魔物の少年の下へと近付いた。


「……」


 警戒する目をこちらに向ける、魔物の少年。

 まだ見たところ、十代以下に見える彼は、他のハーフペインであるサンドゴブリンの男や、ミニオークの女とも違い、綺麗な赤い髪を伸ばし、顔はほぼ人間そのものだ。つぶらな瞳はオレンジ色で、肌はやや褐色に近い。


「やあ。僕の名前はヨースケ。キミの名前はなんて言うの?」

「ゼ、ゼノ……」


 緊張した面持ちで名乗るゼノ。

 こんな少年が、命をかけて盗賊団に身を置いているなんて、前世の僕の周りでは考えられないことだ。世界的に見れば少年兵などもいるだろうけれど、現実味はなかった。武器を持ち、戦うゼノたち。負けることが即、死を意味する世の中に生きる彼をを思い、ここがどれほど過酷で残酷な世界なのかを改めて知る。


「ゼノか。良い名前だね」

「……ま、魔物の住処に掴まってた、俺の母さんがつけてくれたんだ。もう殺されたけど……」


 胸が痛くなる。

 こんな境遇のゼノをなんとか救ってやりたいと思うけれど、ペイトンの言う通り、半端な親切はこの子のためにはならないのかもしれない。だったら、僕は僕の出来ることでゼノたちを救う。


「いいかいゼノ。僕はなにも奴隷にした人たちを痛い目だとか、酷い目にあわせる気はないんだ。みんなを助けるために一番良い方法が、全員を奴隷することなんだよ。だからキミにも僕の奴隷になってほしいんだ」

「……た、隊長を殴ったりしない?」


 そう言ってダスティンの方を見るゼノ。

 心配そうなこの子の目を見れば、ダスティンを信頼するようすが手に取るようにわかる。ハーフペインを率いる彼の戦いは、砂盗賊という悪業でしか成り立たなかったが、偏見や迫害、彼自身の事情もあってか、ここに集まった集団を、見捨てることは出来なかったのだろう。強襲に失敗し、すべてに疲れた表情のダスティンを横目に、ゼノの期待に応える返事をする。


「うん。絶対に約束するよ」

「……わかった。俺、なるよ。兄ちゃんの奴隷に」


 ゼノの了承は得た。

 いくら彼らを助けるためとはいえ、子供を強引に奴隷にするのは気が引ける。せめてきちんと理解してもらえた上で、奴隷になってもらいたかった。


「じゃあ始めるよ」

「……うん!」


 ゼノと【奴隷契約】を始める。

 ハーフとはいえ魔物との契約という初めての試みに、僕の周りを物珍しそうに集まったメンバーや、奴隷になった者たちが囲む。


 そんな彼らの視線に緊張しつつも、僕はゼノとの契約に臨む。


「くっ! や、やっぱり難しいのか」


 なかなか現れない魔方陣。かれこれ一分以上経っている。これが出ない限り次へ進むことが出来ない。出てくれ頼むと、胸のなかで何度も祈り続ける。すると、これまでとはタイミングの違う場面でのアナウンスが頭に響きだした。


《該当種族に準じない者との契約は不可能。これを行使する場合、新たな契約スキルを構築する必要があります》


「……」


 初めて耳にする内容に、言葉を失う。

 新たな契約スキルを構築……ということは、この場でまったく新しいスキルを、生み出さないとイケないということなのか。というか、それは可能なのか?


 あまりにも難題を吹っ掛けられた気分に、僕のチカラが抜けていく。だめだ。今回は失敗だ。せっかくゼノに許しをもらえたのに、ごめん。出来なかったと謝らないとイケない。


《なお、これまでに蓄積したポイントをすべて使用すれば、スキルの構築は可能。実行しますか》


「はあっ!?」

「ど、どうした兄貴!」


 思わず声をあげる。

 周りの者たちは、このアナウンスが聞こえていないため、僕が突然声をあげただけにしか見えていない。唯一、聞こえているゼノはわけがわからずきょとんとしているだけだ。


「な、なんかスキルが作れるらしい」

「「「スキルを作る?」」」


 僕が聞いたアナウンスの内容を、周りにメンバーたちに話すと、皆が一様に驚く。


「ヨースケさん。ポイントって【リセット】の隣に記されたアレですか?」


 事情をよく知るアルテシアが僕に尋ねる。

 それに頷くと、彼女は少し考え込むような姿勢になった。


「よくわかんねーけど、スキルを作れば、魔物も仲間になれるってことだよな兄貴」

「バーカ! 魔物が奴隷になるって意味だろうが。仲間ってなんだよ」


「言葉のたとえだろうが! ジェイジェイ。お前は何かっていうと俺の――」

「こら! 言い合いはよせ。主さまが困っているじゃないか」


 キースキースとじゃれ合うジェイジェイを物静かなリュークリュークが窘める。


「それより兄貴。どうするんです? スキルを作らないと、このガキを奴隷に出来ないんでしょ?」

「うーん。それはそうだけど、いきなりポイント全部ってのがちょっと……」


 急かすロックロックの発言に言葉を濁す。

 以前、リサメイの呪いを解いたとき、ポイントが50を越えたことで【リセット】に新たなチカラをもたらした。次にポイントが溜まったとき、また何らかのパワーアップが望めるなら、今のままポイントをため続けたいという気持ちもある。しかし、目の前に居るゼノを見ると、その気持ちも揺らいでいくのだ。


「ヨースケさん。使いましょう。ポイントはあなたがこの世界で、さまざまなことに遭遇すれば、いずれ溜まっていきます。でも、彼らには今しかありません」

「アルテシア……」


 僕や黒狼族が話し合っているなか、ポイントについて知っているアルテシアが、自分の意見を述べる。その瞳には少し懇願するような気配もあり、彼女も黒狼族のときと同様、黙って砂盗賊たちを見逃せなくなっているようだ。


 そんな彼女の訴えが、僕の決意を固める。


「すべてを使って、新たなスキルを僕に授けてくれ」

「ヨースケさん……!」


 保留していたアナウンスの問いかけに向かって、声をあげる。アルテシアの言う通り、ポイントはまた貯めればいい。まあ、あまり【リセット】を使う場面には、正直出くわしたくはないのだけれど。


《承認しました。新たなスキル【魔血契約(まけつけいやく)】を発現します》


「【魔血契約】……」


 ステータス画面が光り、それと同時に、僕とゼノの前に赤い魔法陣が現れる。いつもの白い魔方陣とは違うことに少し驚くが、【魔血契約】は【奴隷契約】とは違うのかもしれない。


 赤い魔方陣から僕らの胸に向かって赤い光が射しこむ、重なり合ったステータス画面。ここまでは以前と同じだ。【契約のナイフ】で指に血を浮かび上がらせ、それを画面に捧げる。


「さあ、ゼノ。ちょっと痛いけど我慢してね」

「うん……っっ!」


 ゼノの血をもらい受け、僕はその血もステータス画面へと吸収させた。


《両者の血が混じり合い、【奴隷の絆】【契約の証】【封印の(かせ)】が形成されます》


「えっ? うわっ!!」


 いつもと違うアナウンス。

 しかも、【リセット】を使ったときのように、ゼノを中心に光があふれだした。それにここで形成されるのは【奴隷の絆】だけだったはず。新たに【契約の証】と【封印の枷】という未知のモノが追加されるなんて聞いていない。


「あっ! 男の子の体が……!」


 アルテシアの叫ぶ声に、皆がゼノへと視線を移す。

 その先に佇む彼の体には、先ほどアナウンスが言っていた絆の他に、新たに二つの証が。


 首にはあの赤い首輪である【奴隷の絆】、耳には【契約の証】と思われる、真っ赤な鎖型のピアスが刺さり、そして最後に【封印の枷】だとしか言えないような、物々しい赤い枷が両腕にそれぞれ現れたのだ。だが、アルテシアが驚き、彼を注目させたのはそれだけじゃなかった。


 思わず全員が息を呑む。

 小さな子供だと思われたゼノが、ずいぶんと見違えて大きくなっていたのだ。まとっていたボロもすでに成長に見合わなくなったのか、足元などは、ほとんど肌が露出していた。


《規定年齢を大きく下回る奴隷のため、適正奴隷年齢である十二歳までの成長を促進させました。以上で【魔血契約】を完了します》


「な、なんてことを……」


 思わず声がこぼれる。

 奴隷契約って、十二歳からだったのか。

 これって、知らずに彼を奴隷にしようとした、僕の責任じゃないか。


「な、何だよ兄貴、これってどういうカラクリなんだよ」

「い、いや。奴隷の年齢が若すぎるからって、勝手に十二歳まで成長させたって……」


「「「「はあああっ!?」」」」


 僕の説明に全員が大ブーイングをあげる。

 いや、これって僕のせいだけど、僕のせいではないような……。


「き、鬼畜だわ。兄貴……そりゃないぜ」

「あーあ。子供の時間をすべて奪っちまったな。これ」


「いきなり自分の時間を数年も奪われるなんて、僕だったら尻尾を噛んで死にますね」

「がはは。なんかやるだろうと思ったら、すげえヤバいことしやがんな! さすがあたしの主さんだぜ」


「ヨ、ヨースケ。奴隷契約ってこんなにえぐいのかよ……」


 周りの辛辣な評価に、いたたまれない僕。

 ぼんやりと眺めるその先に、急いで馬車から毛布を取ってきたアルテシアが、それをゼノに被せている光景が見えた。そして、しばらくして、彼女が大声をあげてこちらを振り向いた。


「ヨ、ヨースケさんっ!!」

「な、何? アルテシーー」


「こ、この子……女の子ですっ!!」



 この日、僕を見る仲間の視線が痛かった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。



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