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第五十五話 ギルド長との面会



「ごめん。ずっと待たせて」


 長々と待たせたメンバーに謝罪する。

 アルテシアとアハトの魔剣を受け取り、僕の【契約のナイフ】も手に入れたあと、急いで店の前で待つメンバーのところへ戻った。ドレイクとはここで別れた。彼はこのレイウォルド工房での第二の人生を始めることが決定した。いつでも会えるし、わざわざ見送りのあいさつは要らないだろうと素っ気なく言うので、ここに彼を連れて来てはいない。


「ホント待ちくたびれたわ。てかなんで、アタシだけ除け者なわけ? 仲間っしょ!」

「だから言っただろう。ジーナは特に用がなかったんだって」


「はあ? なにそれ。マジムカつく! つーか、アル姉やアハトのおっさんだけ、いや、違う! お兄さんもじゃん! なにその新しい武器! アタシのはないって、めっさズルいんだけど!」

「あーもう、うるさいっ!」


 さっきからジーナがヒステリー気味だ。

 さすがに中へ全員連れて行くわけには行かないので、最初はアルテシアや彼女に、他のメンバーを見ていてもらうつもりだったのが、話が変わって武器を作ることになり、急きょアルテシアとアハトをなかへ連れて行った。彼女はそれに自分が入ってなかったことが気に入らないらしい。


 武器を新調した僕やアルテシアはともかく、アハトにまでかみつく始末。いい加減イラついて思わず怒鳴ってしまったが、逆効果だった。怒った彼女は次の目的地、冒険者ギルドまでずんずんと勝手に進んで行く。


『なあ、主さん。ありゃあもう、どうしようもないぜ』


 道中、耳元でリサメイがささやく。

 はるか先を歩く、ジーナのことだ。


『何人か、猫人族(びょうじんぞく)の知り合いがいるけどさ。あいつらの共通点は、とにかく気まぐれで、相手に慣れるまでが難しいんだよ。んで、ようやく慣れたら、次は相手に我がままし放題って流れなんだって。幸いあたしはそこまで仲良くなれなかったから、そのあとの奴らの変わりようは知らないんだけど、これは酷いね』

『共通点だって!? ジーナのあれって種族的なやつなの? うわぁ。それじゃあ猫そのものじゃないか……』


 リサメイの重要発言に驚愕する。

 てっきりあれがジーナの性格だと思っていた僕は、それが種族、猫人族の特有のものだと知り、絶望。もしそれが本当なら、作戦も意味がない。


『うん。だから昨日言ってたあれだけど、たぶんやっても効果ないかもね』

『リサメイ……出来ればあのときに、それを教えて欲しかったよ……』


『ごめん。まさかここまでとは思ってなかったし、あたしも猫人族の特徴なんて忘れてたんだって』


 今更リサメイに恨み言を言っても仕方がないが、僕の作戦はこれでとん挫してしまう。昨日彼女たちに協力を仰いだのは、リサメイたちをローザのところへ引き渡す際、リサメイの代わりにジーナを渡すという作戦だった。もちろん本当に渡すわけじゃないが、みんなで口裏を合わせて、本当のように見せることで、態度が悪いために捨てられると思ったジーナが、これで反省するんじゃないかと思っていたのだ。


 前世でいたずらをしたとき、言うことが聞けない子は、よその子になりなさいと怒られ、それに焦った僕が、両親に泣いて反省したという経験を元に考えた、(つたな)い作戦だったのだけれど、生まれ持った種族の特徴なら、効果がないんじゃないかと言うのが、リサメイの意見だった。


『じゃあこのまま、彼女を野放しにしておくってこと?』

『うーん。もうあたしの代わりに、ホントにローザに渡しちまう?』


 それはそれで悩むところだ。

 短い間とはいえ、ジーナは僕が、彼女の人生を背負う気で奴隷にしたのだ。それをこんな問題ごときで根をあげるのもどうかと思うし、なにより自分の決意に真実がなくなってしまう。


 ひとり悩む僕に、アルテシアがそっと声をかけてきた。


『とにかく最初の作戦で行きましょう。それでもジーナが反省しなければ、そのときは私が責任をもって彼女を教育します』

『うーん。とりあえずそれでいくしかないか……』


 アルテシアの進言に頷くしかない。

 他に良い案も浮かばない僕らは、そのまま作戦を決行することに。ただ、リアリティーを増すために、リサメイの代わりではなく、ローザに定期便の守護に盗賊の【警戒】がどうしても必要と言われ、追加でジーナを差し出すということにした。


 あくまでもジーナひとりを、寄ってたかってイジメるとかではなく、反省を促すためにしていることだと、自分や仲間に言い聞かせる。


『わかってるよ。主さんは心配症だな』

『ジーナを教育する良い機会です』


『ジーナさん、あんなに意地を張らなくったって良いのに』

『ふん。私は別に良いと思うけど。この前、名前で呼んでくれなかったしぃ~』


 女性陣が僕の周りに集まり出し、それぞれの意見を出し合う。昨日、風呂場でジーナに名前を呼ばれなかったメイウィンだけが、プリプリと怒っているようだが、特に他のメンバーには私怨が無いようだし、このまま作戦を決行することにする。


『じゃあ、みんな。そのときはよろしくね』

『『『『はいっ!』』』』


 何も知らず先を進むジーナ。

 そんな彼女の背中を見つめながら、僕たちは作戦の意義に若干の不安を感じつつ、次の目的地へと急ぐのだった。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「いらっしゃいませ。ヨースケさま」


 冒険者ギルドは今日も賑わっていた。

 カウンターでは、先日世話になったマルガリータが、笑顔で出迎えてくれ、久しぶりに昨日の奴隷商ギルドとは違った雰囲気を味わう。


 違う雰囲気と言えば、前回は僕とアルテシアだけだったのが、今日は大人数であることと、僕のことを覚えているマルガリータ以外のギルド職員や、他の冒険者たちまでもが、ざわざわと騒ぎ立てていることで、前よりも注目度が増えていることだ。


 特に先日まで、ここの冒険者だった黒狼族のメンバーたちを、驚きの表情で見つめる者たちが多い。彼らを奴隷にしたのが、奴隷ディーラーである僕だとわかったのだろう、テーブルの置かれた場所では、陰口をささやく者たちもチラホラ見受けられる。


『ごめんね。少しだけ辛抱して』

『何を言ってんだよ兄貴。俺たちは全然平気だぜ』


 小声で黒狼族たちに謝ると、代表の男が気遣ってくれる。それに他の黒狼族たちも頷いてくれたせいで、少し心が軽くなった。


『あの、ヨースケさま。ご依頼の件でお話が』


 マルガリータが少し小声になる。

 たぶんアレックスからの依頼の件だろう。他の冒険者に聞かせる話でもないので、気を利かせた彼女が小声にしてくれたのはありがたい。僕もその件でこちらに立ち寄ったので、黙って頷く。


「では、別室にご案内します」


 そう言ってマルガリータは、二階へと手を向ける。

 彼女はカウンターから立つと、他の職員に向かって指示をし、自分と席を交代させる。僕もそれに倣って立ち上がると、うしろにいるメンバーから、必要な人員だけに声をかける。


「ソフィーとアハトさん。一緒に来てください」


 名前を呼んだふたりは、黙ったまま頷く。

 傍にいたアルテシアにあとのことを頼み、彼らふたりを連れ立って、二階への階段の手前で待つマルガリータのあとを追った。


「この部屋でお待ち下さい」


 階段を上った正面にある部屋の前で、マルガリータが立ち止まる。僕らに部屋に入ることを指示した彼女は、部屋の扉を開けてなかへと誘導したあと、どこかへと消えて行った。


「とりあえず座りましょうか」


 入ったはいいが、なんか手持無沙汰だ。

 応接室になっている部屋のソファーを指差して、アハトとソフィーに一緒に座ることを提案するが、アハトが首を横に振る。


「俺たちはいい。主殿は座っていてくれ」

「私もいいです。うしろに立ってます」


「えっ? いや、でも――」


 僕をわざわざ立ててくれるのはありがたいけど、うしろに立たせるのは気が引ける。彼らにそれを伝えるも、断固として拒否られたため、仕方なく僕だけが座ることに。そうこうするうちに、扉がノックされた。


「いやあ。待たせてすまない」


 扉を開けて入ってきたのは巨人だった。

 いや、巨人に見えるが人族のようだ。それと見間違うほどに大きな男は、仕立ての良い服を身にまとい、黒縁の眼鏡をかけ、人当たりの良い笑顔を見せながら、入り口を窮屈そうにくぐると、おもむろに僕らの前に立つ。そのあとに現れたのは、さきほどどこかに消えたマルガリータだ。彼女は大男が立つソファーのうしろに下がり、こちらを笑顔で見据える。


「ささ。座って座って」


 彼に促され、ソファーに腰を下ろす。

 それを確認した大男が、同じように腰を下ろすと、頑丈そうなソファーが苦しそうな悲鳴を上げる。三人掛けのソファーをたったひとりで満席にする男は、温厚そうな笑みを浮かべながら話し始めた。


「いきなりすまないね。わたしはこの街の冒険者ギルド長、ガスパールだ。今回、久々に指名クエストが入ったんで、私のほうから説明させてもらおうと思ってね。こうやって場所を設けさせてもらったんだよ」

「そうなんですね……あ、すみません。僕はヨースケと言います。よろしくお願いします」


 お互いにあいさつを交わし、席に落ち着く。

 ギルド長ガスパールは、手に持った数枚の依頼書を順番にめくり、うしろにいるソフィーをチラりと見る。


「そこにいらっしゃるお嬢さんがソフィーさんだね。このアレックス公子の依頼書に書かれている特徴通りだ」

「あっ、はいっ。よろしくお願いします」


 突然名前を呼ばれたソフィーがあわてて畏まる。

 ガスパールの持つ依頼書に、どんな特徴が書いてあったのか気になるところだが、すぐに彼女本人だと当てたところをみると、よく特徴を掴んだ内容で書かれているのだろう。


「で、隣の彼は?」


 ガスパールが、ソフィーの隣に立つアハトに視線を向け、小首をかしげながら僕のほうに回答を求める。おそらく依頼書に書かれていない人物なので気になったのかもしれない。


「彼はソフィーの従者です」

「ほお。かつてのAランク冒険者が従者とは」


「「――!」」


 ガスパールがアハトの正体を見抜いてしまう。

 それに驚く僕らに、彼は笑いながらその理由を話し始めた。


「私は以前、アスラマサクスの冒険者ギルドにいたんだ。アハト氏とは直接話したことはないが、噂と顔くらいは知っている」

「そ、そうなんですね」


「俺もあんたの顔――と言うか、そのデカい図体は覚えている。たしかアスラマサクスでは冒険者だったはずだ」

「はっはっは。あの国では一度しか会っていないはずだが、キミに覚えてもらえていたとは光栄だね」


 双方が知り合いなら話は早い。

 今回の依頼を受けるのは僕ではなく、アハトだと言うことを説明しやすくなる。特に彼の実力を知る者なら納得してくれるだろうし。


「ガスパールギルド長。実は今回の依頼ですが、アレックスさんから、直接僕に指名をされたのは知っています。ですが、この依頼、受けるのは僕ではなく、アハトさんたちでお願いしたいのです」

「アハト氏に?」


 疑問を浮かべるガスパール。

 そんな彼に、アハトがこの依頼を受ける必要がある理由を説明する。


「なんと! 国境警備兵がそんなことを!?」

「はい。だからアレックスさんは、ソフィーの家族を救う依頼を僕に任せ、ご自身は王国へこの事態を知らせるため、急いで戻って行かれました。なので、そのあとにソフィーの従者になった、アハトさんのことをご存じないのです」


「そうか、それで奴らめ。数か月前から我々冒険者ギルドに、南の国境付近に関するクエストをすべて破棄させたんだな……」

「ぼ、冒険者ギルドにまで、根回ししてたんですか」


 だんだんと、国境警備兵の企みが明るみになる。

 ガスパールの言うことが確かなら、彼らはすでに数か月前から、ベナトゥレス王国の難民を捕縛する計画を立てていたことになる。そんな以前からの計画を、国はおろか、騎士団さえも知らないとなると、これは国として大問題に発展するだろう。


 それどころか、現在、国家間との問題がこじれているこのときに、王国のあずかり知らぬこととはいえ、他国の移民を虐殺や捕縛する行為をしたことが知れ渡れば、セナの懸念した戦争悪化になりかねない。いったい、この一連の流れを計画した者は、王国にどのような恨みがあるというのだろうか。


「俺は国境警備兵たちには面が割れている故に、この事態に顔を突っ込むわけにはいかない。それならば、せめてソフィーの家族だけでも見つけてやりたいと思ったんだ」

「そうか。そのような理由で……」


 アハトの言葉に深く頷くガスパール。

 自分の手に持つ依頼書を睨み、やがてかけていた眼鏡をテーブルに置いた。


「了承した。アレックス公子には私から説明しておこう。この依頼を奴隷ディーラー殿からアハト氏に変更し、改めてここに指定依頼を発注する」

「よ、よろしくお願いしますっ」


 ソファーにどっしりと腰を据えるガスパール。

 彼の口から、新たに変更された、指定依頼の号令がかかると、僕のうしろに立つソフィーがぺこりと頭を下げた。便宜上アレックスからの依頼となってはいるが、実際には彼女の依頼でもあるのだ。


「じゃあ、アレックス公子から託された、この準備金を渡しておこうか」

「「準備金?」」


 そう言ってガスパールが手をあげると、マルガリータが、手のひらサイズほどの袋をテーブルに置いた。袋の間口は少し開いており、そこから少なくない金貨が見え隠れする。


「報酬とは別だから、気にしないでいいとのことだ。アレックス公子のような気前の良い貴族はめずらしいよ。しかも彼ほどに善意に生きる男はそうはいない」

「わかります。僕も彼には良くしてもらいましたし、その主義に同意します」


「すまない。恩に着る」

「アレックスさま。ありがとうございます」


 ガスパールがアレックスを褒め称える。

 ソフィーやアハトも、目を閉じ、彼の気遣いに感動しているようだ。僕も改めて彼の行動力を感心し、その周囲への気配りを見習いたいとさえ思ってしまう。


「これは、私の私見だが、もしかすると、この依頼の解決に繋がる内容かもしれんから、キミたちには知らせておこう」

「「「?」」」


「ここ数日前。このペイルバインに、【人飼い王】と悪名高いアフェトンの重臣、ブルトン卿が来ていたらしい。すでに彼はここを発っているが、どうも部下に捕縛させていた三人の人族のうち、女性ひとりが逃げ出したらしい。それで急きょ街を離れたという噂が、こちらにも流れてきてね。この依頼書を見て、もしやと思ったわけだ」

「なんだって!? そ、それは本当なのか、ギルド長!」


「ま、まさか、お父さまたちが……」

「そ、それが事実だとしたら、あのときあいつがオークションを辞退した理由って……」


 アレックスの依頼を受けてすぐの衝撃的なニュースに、僕たちは動揺を隠せなかった。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


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