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第四十八話 高級宿泊ルームツアー



「おおー! ここが俺たちの部屋かよ」


 騒ぐ黒狼族たち。

 部屋割りを終えた僕らは、この宿【ジェニファー&ローガンの止まり木】で最高級の部屋の前に立つ。一番最上階となる三階に、たった一室だけしかないという、ラグジュアリーな部屋は、先日まで王宮騎士団員セナが泊まっていた。


 彼女は僕が他の奴隷、アルテシアやジーナと同室になるのを懸念し、大金をはたいて、僕にこの部屋を用意してくれた。それに対し、感謝していいのか、それとも残念がったほうがいいのか、判断に困るけれど、一応ありがたく思っておくことにする。


 部屋の扉には特別な魔道具が設置されており、たぶん宿泊客の生態データを登録するのだろうか、またしても血の契約を必要とする魔道具に、さきほど黒狼族四人分の血の契約を果たしたばかりの僕は、この日最後の流血を捧げた。


《お客様の生体情報を確認しました。これからの滞在期間。鍵穴のないこの扉からは、お客様が同意しない場合、どなたも入室することは出来ないことを、ご了承くださいませ》


「「しゃ……しゃべったぞ、この扉!!」」


 うしろの黒狼族たちがうるさい。

 ドアに設置された魔道具が、流暢な言葉で説明をする。どうやら鍵穴がないこの部屋には、僕がいないと誰も入れないらしい。先日セナがコソコソ? とパフィーと内緒話をしていたときに聞こえた、ジーナでも入室できないと言っていた意味が、ここにきてようやくわかった。


「この魔道具がうちの防犯設備で、一番お金がかかってるの」

「た、高そうだねホントに」


 そう自慢げに語るパフィー。

 そうだろうと思わずうなずく。

 過剰設備じゃないのかと思う反面、要人についている護衛たちの仕事が、少しは楽になるんだろうなと評価する。ふと、盗賊ジョブを持つジーナの悔しがる顔が浮かんだ。


 その扉を開けたパフィーが先に入る。

 僕らも彼女に続き、なかへと進む。


「「おお……」」


 思わず声を漏らす男たち。

 絢爛豪華(けんらんごうか)な調度品が並ぶ部屋に、感嘆のため息をつく。家具も僕がこの前まで利用していた部屋とは質が違い、それぞれ値段が張りそうな造りだ。床は前面にフカフカなカーペットが敷いてあり、汚れた靴で歩くのが申し訳ない気分になる。


 細かい装飾が施された鏡が壁に備え付けられてあるが、その鏡面の加工具合は、前世の鏡とほぼ遜色ない造りで、この異世界の鏡はあまり綺麗じゃないと思っていた僕の偏見が、これで覆されてしまった。ただ残念なのは、それを使うのが僕ら男所帯だということだけ。てか、たぶん必要ないだろう。


 部屋の間取りは前世で言えば3LDK?

 大の大人が嬉しそうにはしゃぎまわっても大丈夫な広さのリビングには、高級そうなソファーとテーブルが置かれ、前の部屋の小さなテーブルを懐かしく思うくらいに落差が激しい。すでに黒狼族たちがそのソファーにどっかと座り、さも自分が偉くなったような気分を味わっているようだ。


 リビングの隣には寝室が三つあり、主賓のための寝室と、家族や護衛に向けた、寝室兼客間が用意されていた。主賓のベッドは僕が五人寝てもまだ余るくらいの広々としたもので、これって逆に落ち着かないのではないかと、内心ツッコんでしまう庶民な自分を笑う。


「この扉はなんだろ」

「あ、そこはお風呂ですよ~ヨースケさん」


 何気に気になった扉を開ける。

 うしろにいたパフィーが同時に説明をしたため、開けると同時に驚きが僕を襲う。


「えっ! お風呂がついてるの!?」


 風呂場になっているその部屋は、脱衣場が別にあり、もう一つの扉の奥がバスルームになっている。まるでマンションの内見でもしているかのような気分になった僕は、不動産屋のごとく僕にあれこれ説明をしてくれるパフィーと共に、バスルームの扉を開けた。


「うわ! 湯気が……てかもうお湯が張ってあるし」

「一緒に入る? ヨースケさん」


「バカ」


 扉を開けると真っ白な湯気に包まれる。

 前世で家族と住んでいたマンションのバスタブとは、明らかにサイズの違う大きな風呂がそこにはあった。しいて言えば宿の貸し切り風呂? 岩や植物が周辺に備え付けられている、風情ある風呂場。それを呆然と眺める僕のうしろから、パフィーがとんでもない冗談を言うので、軽く注意する。


「このお風呂は魔道具で一日中、綺麗なお湯が出るようになってるから、いつでも入れるよ」

「はえぇ~」


 二十四時間いつでも入れる風呂なんて、まさに温泉宿に来た気分だ。そんな感心をしながらも、ふと、他の設備に目が行く。


「これってシャワー?」


 前世で知っているシャワーヘッドと、同じ形をしたモノが壁に掛かっている。まさかこれって、【世渡りびと】の仕業か? 


「うん。あまり他の宿にはないんだけど、うちの()()のひとつだよ」


 そう言って、シャワーヘッドを手に取ったパフィーが、壁のレバーをひねると、湯気を立たせる湯が勢いよくそこから飛び出た。


「王宮でも結構人気らしいけど、大昔の【世渡りびと】が広めた魔導具でね。この部屋にしかないんだ~」


 やはり【世渡りびと】だった。

 こんなものを考えるなんて、僕の世界から来た人間だけだろう。それにしてもまさか、異世界でシャワーが使えるとは思わなかったな。いやはや、便利な道具をありがとう。過去の同郷の方……。


「ほお。こんなところでこれを見るとはな」


 背後からドレイクがそんな発言をする。

 僕らに続いて風呂場に入って来た彼が、おもむろにシャワーヘッドを手に取り、何か動物の革で作られたホースを指で押さえながら、具合を確かめるような仕草をする。


「シャワーヘッドをご存じなんですか?」


 ドレイクの行為を見て、パフィーが尋ねる。

 再びシャワーヘッドを壁に戻したドレイクが振り返り、質問をしたパフィーに返事を返した。


「ああ。ご存じもなにも、この魔道具を作ったのはワシじゃ」

「「ええっ!?」」


 ドレイクの発言に声を揃えて驚く僕ら。

 ドワーフ鍛冶師である彼が、このシャワーヘッドを含んだ給湯システムを作ったらしい。それは自分が気に入った製品を、けっこう身近な知り合いが作っていたこと知った意外性もしくは高揚感? そんな気持ちが僕とパフィーを襲った。


「すごい、すごい! そんな偶然あるんだ!」

「ドワーフって皆さんそうなんですか? 僕の知ってる人も鍛冶師なのに、全然畑違いのモノ作ってますし、すごいな」


「なあに。ワシは過去の【世渡りびと】が残した、文献やら道具を調べるのが好きでな。趣味も兼ねてこういった魔道具をマネて作ったりするんじゃよ」


 どんな製法かはわからないけれど、こんなモノを何気に作ってしまうドワーフ。彼らのモノ作りに対する熱意と根性を垣間見た気がする。


「あ、あの! このシャワーヘッド、うちにあと何台か作ってもらいたいんですけど、ダメでしょうか」


 商売人もしくは、宿屋の血が騒ぐのか、パフィーがドレイクに詰め寄り、真剣な表情で懇願する。そんな彼女に困惑しながらも、彼は自慢のヒゲを触り、瞑目(めいもく)して答える。


「ふむ。別に作ってやることには問題ないが、素材がないと、どうにもならんぞい」

「「素材?」」


「ああ。熱を生み出す魔石、【火光岩】は、東の国、アスラマサクスにある【火竜の洞窟】というダンジョンの十八階層から下なら、いくらでも取れるんじゃが、今は戦争もあって物が出回っておらん。そして一番面倒なのが、シャワーヘッドから出る水圧を生みだす呪文を、魔道具に付与させる【付与術師】が、今の世にほとんどおらんことじゃな」

「【火竜の洞窟】と、【付与術師】……ですか」


 ドレイクの話を聞いて、隣にいるパフィーが、そう呟きながら落ち込む。転生してこのかた、湖の森とペイルバインしか往復していない自分としては、彼女の落ち込む理由がわからないのだけれど、たぶんとても手に入れにくいアイテムなのだろう。【火竜の洞窟】とか、聞いただけれも難易度高そうだし。


「ドレイクさん。その【付与術師】ってジョブはどんなものなんですか?」


 さきほど出た話で、【付与術師】という言葉が気になり、ドレイクに尋ねる。彼は、閉じていた目を開き、こちらをチラりと見ると、仕方がないといった風に語り始めた。


「うむ。【付与術師】というのは、その名の通り魔道具やアイテム、はたまた魔導書などに呪文やスキルを付与することが出来る魔法使いじゃ。付与する内容は、その人物がそれまでに習得したスキルや魔法しか出来ない故に、経験の差がモノを言うジョブじゃな」

「その【付与術師】って今はほとんどいないって、さっき言ってましたけど、それは?」


 ドレイクの言う【付与術師】というジョブは、聞けば僕のジョブとは違い、大層立派な職業のようだ。以前、僕がセシリーに借りた魔導書などは、その【付与術師】によるものらしい。地図を本に付与するって、いったいどんなスキルや魔法なのかちょっと気になる。それに、そういった魔導書がすごくレアなのは、それを複製する者がいないから? そもそもジョブの成り手がいないのか、それとも絶滅してしまったのか。そんな疑問が湧いたので、続けて彼に尋ねる。


「さっき言った通り、彼らはこの世界にあるスキルや魔法をすべて網羅してこそのジョブなんじゃ。半端な知識ではそれこそ大した付与も出来ないし、複数の魔法やスキルを組み合わせて作る魔道具もある。とにかく求められる能力が半端ないんじゃ。そして、そう言ったプレッシャーから、12歳の誕生月に現れるジョブウインドウに、その【付与術師】という項目が出たとしても、誰もなりたがらないという原因もあって、今ではほとんどいないというのが現状じゃな」

「だから、今、世の中にある魔道具や魔導書なんかは、過去の遺産を使いまわしているだけなの。いわゆる中古品ばっかってことだよ」


 ドレイクの説明の最後に、パフィーが付け加える。

 中古品しかない貴重な魔道具や魔導書か。これを自由に作れる【付与術師】が居たら、世界中から引く手数多(あまた)なんだろうな。とりあえずシャワーヘッドが、現状作成不可能なのは理解した。


「そう言えばドレイクさんは、このシャワーヘッドをどうやって作ったんですか?」


 風呂場の壁に掛かっているシャワーヘッドを指差し、ドレイクに尋ねる。


「それか。ワシの女房が【付与術師】だったんじゃ」

「「ええっ!?」」


 聞いてないよ!? と思わず言いそうになるが、声が被ったパフィーが言わなかったので、同じく自重する。ドレイクの奥さんが【付与術師】とは。どうりでこんな魔道具を作れたはずだ。


「あの、奥さまは今、どうなさってるんですか?」


 僕も気になったことを、パフィーが遠慮がちに尋ねる。そのとき、ドレイクの表情がわずかに歪んだ。


「死んだよ」

「「――!」」


 彼の言葉に、一瞬、固まってしまう。

 それは隣にいるパフィーも同じで、思わず口元を押さえる仕草をした。


「この前の戦争であっけなくな。ワシは自分の仕事場に出ていたんで、あいつの死に目には逢えんかった。例の謎の軍隊が攻めて来たとき、真っ先に女房が勤めていた王城が、奴らに破壊されてしまったんじゃよ」

「ひ、ひどい……」


 涙目のパフィーが呟く。

 僕も聞いていて悲しくなる。けれど、それ以上に、その謎の軍隊への怒りが湧き出てしまい、なんとも言えない気分になった。


 ドレイクはふう、と息を吐く。

 その表情は、未だ未練があるようにも見え、彼の顔を見るのが少しツラい。きっと奥さんとの思い出を思い出しているのだろう、彼の目は少し潤んでいた。


「まあ、過ぎてしまったことじゃ。ワシはこうして取り残されてしまったが、ヨースケ殿。もし惚れた相手がいるんじゃったら、どんなときも絶対に離さないことじゃ。それだけが今のワシから言える言葉だよ」

「ドレイクさん……」


 目じりにしわを寄せ笑うドレイク。

 その笑みは、喜びではなく悲しみを思わせるものだった。彼の目を見つめながら、僕は自分の身近にいる、彼女たちの顔を思い浮かべる。


 アルテシア。そしてジーナ。

 奴隷として共に生きることになった彼女たちは、僕にとってかけがえのない仲間たちだ。好きとか嫌いとかは別として、大切な相手を失うことは非常に辛い。そんな状況を考えるだけで胸が苦しくなる。


 現状、僕に彼女たちを守るチカラなんてない。

 出来ることと言えば、【リセット】による体の損傷を復元することのみ。


 それは守るのではなく、彼女たちが傷を負うことを、許してしまった結果なのだ。


 ドレイクの話を聞き、無性に不安に駆られる。

 アルテシアやジーナ。そして今後、共に生きる仲間たちが増えたとき、果たして僕に出来ることは何だろうか。そんなことが頭を過っていく。


「ヨースケさん……」


 不安げな僕に気付いたのか、パフィーが服の裾をそっと掴んできた。


「僕に出来るかな……」

「……」


 ボソりと呟く僕に、彼女は憂いの眼差しを向け、じっと黙っていた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。



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