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第四十七話 黙ってあたしについて来な



「へへ。まあ、いろいろあってさ……」


 リサメイが頭をかきながら言葉を濁す。

 どんな理由があったのかは知らないが、彼女の顔にあまり悲壮感がないのが救いかもしれない。もっと深刻な理由なら、彼女をこのまま奴隷として扱うことにも躊躇したかもしれない。ただ、一応そのあたりの理由をハッキリとさせとかないと、後々面倒なことになるんじゃないか? そんな心配が頭をよぎる。


「リサメイ、教えてくれないか。お姫さまのキミが、どうして奴隷になったのかを」

「えー主さんまで気になるのかい? まあ、別に話したって良いけどさ……」


 ダメ元でリサメイに問いかけてみた。

 すると彼女は困った顔をしながらも、その理由を語り始める。


「いやなに、あたしの国は元々大国だったんだけど、今はすっかり落ちぶれてね。そりゃそうだろう? 国の長がほんの数年で世代交代しちまうんだ。短命なのは民だって同じだけど、どうしたって他国からの信頼もなかなか築けない。そんななか、少しでも長命な獣人を家臣に入れたりして、今まで頑張って来たんだよ」


 神に呪われた黒豹族が治める国アフェトン。

 たった数年で長が世代交代すれば、とうぜん交流のある国は、また一から新たな長との付き合いを始めないといけない。そんな頻繁に長が変わる国に対して、いろいろと便宜を図る国も少なくなり、やがては国の規模も縮小せざるを得ない――といった流れか。


「今はうちの親父が長をやっててさ。次の長はあたしの兄貴に決まってるんだけど、女として生まれたあたしは、他国との政略結婚の道具にしか、使い道がないらしい。たった数年で死んじまうんだけど、それでも黒豹族の血を掛け合わせた獣人てのは、結構需要があるんだよ。普通の獣人よりもはるかに強く育つらしいってね」


 物語のように、かっては獣人たちすべての王だった黒豹族の血筋。それを望む他種族の獣人たちにとっては、たとえ衰退した国の長だとしても、十分に価値があるのだろう。政略結婚などという、前世ではドラマでしか聞いたことのないような陳腐な風習も、ここ異世界にとっては、まだまだ現役の文化らしい。


「あたしはそれが嫌でね。自分の人生は、ずっと強くなるためだけに捧げたいと思ってたんだ。それで決まっていた結婚の話も拒否し続けていたら、あるとき重臣のやつらに国賊だって言われちまってさ。んで、あれよあれよという間に奴隷にされちまったんだ」

「そ、その重臣ってもしやブルトン侯爵?」


「お! 主さん、ブルトンを知ってるのかい? って、そういや、オークションに来てたな、あいつ」


 やはりブルトン侯爵は監視役だったようだ。

 自国の姫であるリサメイを、奴隷に陥れた張本人である奴は、あろうことかその行く末を確認するために会場入りし、彼女が売られるのを黙って見ていたのだ。


 政略結婚の駒にならないリサメイを、国賊に仕立て上げたあげく、犯罪奴隷へと落とした行為は、いくら奴が他国から招き入れられた、他種族の重臣とはいえ、最低の行為だ。今度会ったときは、ただじゃおかないぞ! ……えーっと、アルテシアたちが。


「と、とにかく、そんなことはどうでもいいんだって! それよりもあいつらだよ。主さん」

「い、いやそんなことって……」


 まるでなんでもないように、別の話へと逸らそうとするリサメイ。これだけの不遇な人生を、さほど気にすることもなく、あっけらかんと語る彼女の性格には、呆れると共に羨ましくも感じる。だからこそと言ってはなんだけど、彼女なら今回の依頼であるローザの商隊を守る仕事も、腐ることなくやり続けることが出来るかもしれない。


「姫さんが奴隷になったのは、詰所で見かけたから知っていたが、まさかこの姉さんが姫さんだったとは気づかなかったぜ」

「気付かなかったのはお互いさまだよ! あたしだって、黒狼族が自分の国の民だったなんて、初めて知ったし。へへへ」


「「……そ、それでも姫かよ」」


 そう言って苦笑いする、黒狼族たち。

 自国の姫が奴隷になっていても、それを大事とは思わないところは、彼ららしいと言えなくもない。そんな彼らとこれから行動を共にするリサメイ。自国の民とならきっとうまくやってくれるに違いない。


「あたしはこの通り、普段から自分の国のことなんて気にしてないから、別に良いけどさ。お前ら黒狼族。けっこう評判悪いよ?」

「「う……」」


「まあ、とにかくお前らだけでも、あたしがちゃんとまともに鍛え直してあげるからさ。覚悟しろ~」

「あ、兄貴……やっぱ俺たちだけ別の仕事に――」


「えーっと……が、頑張ってください」


 自分の指をバキバキと鳴らしながら、黒狼族に迫るリサメイ。そんな彼女からのプレッシャーで、弱音を吐く彼らには、どんまいと言っておこう。ぜひともこれからは、みんなで力を合わせて頑張ってもらいたい。


「お前ら! ごちゃごちゃ言わず、黙ってあたしについて来な!」


 親指をサムズアップしてニッカと笑うリサメイ。

 さっそく姫――いや、姐御として彼らを仕切る彼女。頼もしい限りだ。彼女は黒狼族たちひとりひとりの肩を、バンバンと叩きながら豪快に笑っている。叩かれている彼らは笑っていないけど……。


「それよりも、早くこんなくせーところから出ようぜ! あたし、もう鼻が限界なんだけど」

「そ、そうですね。えっと、黒狼族のみなさんも移動の方、大丈夫ですか?」


「え? あ、ああ。でも行くってどこへ?」


 僕の問いかけに、黒狼族のひとりが返事を返す。

 現在のメンバーから更に四人増えてしまった。

 時間もけっこう遅くなったので、今からレイウォルド氏の下へ行くのも迷惑だろう。ここはいったん宿に戻って明日に出直すか。


「えーっと、ホントは今から行く予定の場所があったんですけど、これだけの人数で夜にお伺いするのも難しいと思いますので、ここは一度僕らが寝泊まりしている宿に戻ることにします」

「そうじゃな。ワシのためにすまんね、みんな」


 ドレイクがそう謝ると、他のメンバーは首を横に振った。

 メンバー全員の同意を得た僕は、予定を変更し、宿へと戻ることを決める。そして、黒狼族たちを連れて元来た通路を戻り、階段を上がり始めると、最初にいたメンバーは、やっとこの悪臭から解放されることに安堵の表情を浮かべていた。特にリサメイは、今まで相当耐えていたのだろう、真っ先に階段を駆けのぼって行く。


「終わった?」

「あー! ジーナてめぇ……」


 階段の途中、踊り場で待っていたジーナに会う。

 悪臭に耐えきれずに離脱した彼女は、それに耐えた僕たちに悪びれもせずに、ひょうひょうとした態度で出迎える。階段を先にのぼって行ったリサメイは、ジーナを見るなり恨みのこもった表情になる。


「主さんを放っといて、なーにこんなとこで油売ってんだよ」

「えー、別にアタシが行ったって、役に立たないじゃん」


「まあまあ、ふたりとも」


 踊り場で揉め合うふたり。

 リサメイが正論で詰め寄ると、それに反発するジーナ。まあ、僕以外が行っても、黙って見ているしかないのは確かだけれど。このままだと長くなりそうなので、ふたりを仲裁する。


「主さん、あたしはこいつの立場を考えて言ってんだよ」

「臭いもんは臭いの! リサ姉こそ、カッコつけ過ぎじゃね?」


「ああ? あたしのどこがカッコつけてんだよ」

「え? それ言わせちゃう? リサ姉、お兄さんに良いところ見せようと必死じゃんか」


「ひぅっ!」


 ボッと音が聞こえるほど、赤面するリサメイ。

 ニヤニヤするジーナの言葉に、さっきまでの勇ましさはなりを潜め、両手で自分の顔を押さえると、すっかり乙女の雰囲気に様変わりしてしまう。そんなナヨナヨとした彼女の仕草が、無性に可愛く思えるのは内緒だ。うしろにいるアルテシアの視線が刺さる。


「ほらほら~リサ姉、お兄さんにホレちゃったんでしょ」

「バ、バババババカ言うなよ!! あ、あたしは、べ、別に……」


 しどろもどろのリサメイが防御。

 そんな彼女へ、ジーナの攻撃。


「アタシそういうの、すーぐわかっちゃうんだよねー。実はリサ姉。同族より人族の方が好きとか?」

「――!!」


 ジーナの言葉がクリティカルヒットしたのか、リサメイが固まった。どうやら図星だったらしい。


「じゃないと、あんなチョー臭い場所に、人獣より鼻が良い獣人がわざわざ行かないっしょ」

「はうぅぅ……」


 リサメイの残りHPがヤバい。

 このままだと、ジーナの勝利だ。

 そこへ助っ人が現れる。


「ジーナ、いい加減にしなさい」

「あ痛っ! ア、アル姉……」


 仁王立ちのまま、反撃の出来ないリサメイに勝利するかに見えたジーナだったが、ここへ来てアルテシアが参戦。彼女がジーナの頭を軽くつつくと、ジーナの一方的な攻撃は終わりを見せた。


「あなたは人をからかい過ぎです」

「だって、リサ姉が……」


「リサメイは、ちゃんとヨースケさんの奴隷としての役割を果たしています。それなのに、あなたは何ですか。臭いがダメだからと言って、ヨースケさんの警護もせずに、こんな場所で遊んでいるとは情けない」

「あうぅ……」


 アルテシアの正論に何も言えないジーナ。

 オークション会場でアレックスに指摘されたように、僕の周辺を常に警戒していた彼女たち。それを怠ったジーナを叱咤するアルテシアの目は、とても真剣なものだった。


「謝りさないジーナ。リサメイとヨースケさんに」


 少し落ち込んだジーナの肩をそっと抱き、僕やリサメイの前へと押すアルテシア。くぅっ……! ア、アルテシア。お前がナンバーワンだ。


「ごめん、リサ姉。ちょっとからかい過ぎちゃった……許して」

「……あ、ああ別にいいさ。アタシも言われて気付いたけど……」


「「え?」」


 ジーナと僕が声を揃える。

 ついポロりと出た、自分の言葉にハッとなったリサメイがあわてて口を押さえる。


「はわわっ! い、今のはナシだ! あ、あたしは主さんのことなんて、べ、別に……」

「もういいよ、リサ姉。」


 赤面するリサメイに、呆れ顔のジーナ。

 うしろのアルテシアも肩をすくめている。

 うーん。僕はここに居てもいいんだろうか……。


「あの~うしろがつかえてるんですけど……」


 踊り場で足踏みしていた僕らに、階下にいたソフィーが遠慮がちに声をかけてきた。振り返ると、生暖かい目をしたメンバーが、こちらをじっと見ている。こ、これは恥ずかしい。


「ご、ごめん! さ、さあ急ごう」

「わ、悪いソフィー。変なとこ見せちまって……あははは」


 あわてる僕と、なぜか変に取り繕うリサメイ。

 お互いに顔を見合わせるのが、妙に照れくさい。


 そのまま意識した僕らは、言葉を交わすことなく、今回仲間にした全員連れ立って、奴隷商ギルドの地下をあとにした。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「はあ……。ヨースケさんて、帰って来るたびに、女の子増やしてませんか?」


 呆れ顔のパフィー。

 彼女が家族たちと営む、ここ【ジェニファー&ローガンの止まり木】には、今、総勢十二人の泊り客としてやって来た僕らが、そう広くないカウンター前でひしめき合っている。


 パフィーの言う通り、今回、男のメンバーも増えているとはいえ、リサメイ、メイウィン、ソフィーと、見目麗しい女性陣が新たに加わり、その大半が、奴隷ディーラーである僕の奴隷だ。奴隷ディーラーがこう奴隷を増やすたびに宿に迷惑をかけるのはいかがなものか。今回、ローザの依頼は、家をもらえることが報酬なのだけれど、そろそろこういう状況に備えて、拠点を作ることも考えないといけない。


「ごめん、パフィー。毎回大勢で押しかけちゃって、迷惑かけるけど、へ、部屋空いてる?」

「そういう意味じゃないんですけど……。もお。私、セナさまにどう報告すればいいのか……」


 そっちかよ!

 と、内心、パフィーにツッコんでしまう。そうだった。彼女はセナに買収されていたんだ。そう思い出すのと同時に、パフィーの背後に潜む、高笑いするセナの顔が脳裏に浮かぶ。


 思案するパフィーに、愛想笑いをしながら、部屋の状況を再度お願いする。ブツブツと愚痴を言いつつ、部屋帖を広げ、僕らの人数と部屋割りを模索する彼女。なんだかんだ言いながら、きちんと仕事をするところは、やはり優秀な【宿職人】だ。


「ヨースケさんの部屋は、前回セナさまが使っていた部屋に替わってるんだけど、この部屋ベッドがちょうど七台あるの。ここに男性陣を割り振ってもいい?」

「え? そんなにベッドがある部屋なの? べ、別に、それだけあるなら構わないけど……」


 セナが泊まっていた部屋は、彼女の意向で僕の部屋になった。まだ一度もその部屋を見ていないのだけれど、騎士や要人向けにワンランク上の部屋、前世で言えばロイヤルスイート? そんな部屋がこの宿にもあるらしい。もしかして、この街一番の宿だったのか?


 たまたま湖の森から帰還したとき、アルテシアに探してきてもらった宿だとはいえ、パフィーと巡り会えたのもきっと何かの縁なのだろう。最初の宿が最悪だったせいもあるけど、それを差し引いたとしても。ここはとてもすばらしい宿だ。


 そんなことを思いながら、パフィーを見ていると、僕の視線の意味がわからず、小首をかしげる彼女。優秀な宿職人である彼女に感謝しながら、そのあとに続く彼女の説明に耳を傾ける。


「じゃあ、残りの女性陣は、おねーちゃんとジーナちゃんが前と同じ部屋で、他の三名はもうひとつ別の部屋になるけどいい?」


 僕がうしろを振り返ると、彼女たちが頷いている。それを了承と受け取ったパフィーが、宿帳にそれぞれの名前を書き込んでいく。そして、ペンをカウンターにある墨ツボへと戻し、僕らの前に立つ彼女が、姿勢を正してこちらを向き直る。


「じゃあ、改めまして……おかえりなさい。みなさん」


 パフィーが満面の笑みを込め、僕らを優しく出迎えてくれた。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。



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