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第四十話  揺らぐ王国



「さあ、他の奴隷たちも解放しよう」


 そう、アレックスが仕切り直す。

 暗い話ばかりじゃない、彼らには明るい未来があるはずなんだ。僕やアルテシアたち、それに今はまだ僕の奴隷のままの彼らたちが、それに頷く。順番に並ぶ奴隷たちをこれから【奴隷解除】というスキルで、エルフのメイウィンのように解放する。ただ、ふたりだけそうじゃない者がいる。


「ごめん。キミたちは、僕の依頼主から頼まれた奴隷なんだ」

「……」


「うん。まあ解放されたって私は行く場所がないからな」


 黒豹族の女戦士が笑いながら皮肉る。

 彼女は村の長の娘でありながら、長によって犯罪奴隷に落とされたという。今、解放されても村にも戻ることが出来ないのなら、獣人である彼女ひとりで生きていくのも、ここでは厳しいのかもしれない。


 人族の戦士の方は、黙ったままだ。

 オークション会場では、無罪を主張していたと聞いた。あとでそれも確認しよう。どのみち、アレックスと話しあった結果、犯罪奴隷である彼らには、その経緯に至るまでの事情を聴くつもりだったし。


「じゃあ、他のみなさんは今から解放します」

「「おお……」」


「その前にいいだろうか」


 今回の解放について、当事者であるアレックスが、彼らの喜んだようすに口を挟んだ。


「キミたちには先に犯罪奴隷になった理由を教えてもらいたいんだ。僕はこの国の貴族だが、キミたちが、もしここで解放されたあと、再び犯罪を犯し、国に迷惑をかけた場合の責任があるのでね。厳しいことを言うようだが、次に犯罪奴隷になった場合、もう二度と解放はされないということを、知っておいてほしい」

「「き、貴族さま……!?」」


 アレックスが貴族と言ったとたん、彼らの反応が変わった。皆がアレックスから一定の距離を取り始める。貴族が怖いのかもしれない。そんななか、ひとりの奴隷が声を発した。


「――ワシたちは全員無実じゃ」

「――!」


 アレックスに言葉を返すドワーフ。

 無実の罪を訴えるのは、なにも人族の戦士だけではなかったらしい。各々がドワーフの言葉に頷いている。おかしい。いくら犯罪奴隷の主張とはいえ、全員がみな無実を訴えるのはさすがにやり過ぎ感がある。これはウソか真か、どちらしかない。


「ドワーフの御老人、貴殿はなぜ奴隷に?」

「う……」


 ドワーフにアレックスが問いかける。

 まさか、貴族が自分たちの話をまともに聞くとは。思っていなかったのか、ドワーフが少し驚いた表情をしたまま言葉に詰まっている。僕は普通に彼と会話してしまったが、やはり貴族に直接話しかけられることは、恐れ多いことなのだろう。さっきまで強気な目をしていた彼らが意気消沈している。


 しかし、彼に問われたドワーフは、意を決したのか、一歩前に出たかと思うと、うしろにいる数名の奴隷たちに手を向けた。


「ワシだけではないのです。ここにいる彼ら全員、なんらかの冤罪を被っております」

「なんだって!?」


「全員が冤罪!?」


 ドワーフの言葉に驚く僕ら。

 アレックスと僕は思わず顔を見合わせ、この件について、彼らに詳しく問う必要性があると、無言で視線を交わす。


「わかった。それぞれの言い分を聞かせてもらおう。場合によっては私はすぐに王都に戻り、このことを議会に通す必要があるかもしれない」


 真剣な眼差しのアレックスが、ドワーフを含む、彼ら全員に目を配らせる。それに対し、今度は彼らが、それぞれ近くの相手と顔を見合わせた結果、最初に発言をしたドワーフから、これまでの経緯を話し始めた。


「ワシは以前、この国の隣国で鍛冶師をやっておったんじゃが、その国がいきなり現れた、正体不明の軍隊に襲われてな。あっという間に壊滅状態に追い込まれてしまったんで、あわてたワシたちは、そのわけのわからん敵の追撃を逃れるために、国から脱出し、一斉に他国へと逃げたんじゃ」


 語り始めるドワーフは、その日のことを忘れられないのだろう、悲しい目をした彼が、自分が如何にして奴隷まで落ちていったかを、ゆっくりと自分の歴史をなぞるように話していく。


「しかし、その逃避の旅も、この国の国境を越えた時点で終了となった。国境警備兵と名乗る奴らが、ワシらの敵国と結託して、戦火を逃れた国民たちを国境を勝手に越えた罪だなんだと、いきなり犯罪者扱いしたうえに、捕縛を拒否する者たちを皆殺しにし始めたんじゃ」

「こ、国境警備兵だって!? 他国の難民に対して、彼らにそんな権限はないはずだ。この街の警備兵たちと同様、騎士団からの通達がない限り、鎮圧行動は禁じられているし、ましてや殺戮など……それに、そんな通達があったことは、僕だって聞いていない」


 困惑するアレックス。 

 彼が知る範疇(はんちゅう)以外の騒動が、この国の国境近くで起こり、それによって多くの隣国の民が殺されたという事実に、貴族として、王国の正当性を信じる者として、ドワーフの語る話は、とても受け入れ難いものだったのだろう。


「あたしたちも同じです」


 両隣をアルテシアとジーナに付き添われたエルフの女性、メイウィンがドワーフの話を肯定する。そして彼女をきっかけに、他の奴隷、人族の戦士と黒豹族の長の娘以外の者たちが、一斉に頷いた。


「この場にいる者たち全員が、同じ目にあっただと……?」


 信じがたいとでもいうような表情で、アレックスが呟く。そう言われると、この奴隷たちには共通点があった。それは人族ではなく、亜人は人獣といった他種民族ばかりなのだ。それに気付いたとき、アレックスの言葉によってそれは補完される。


「そうか! キミたちは全員、亜人と獣人たちの国、ベナトゥレス王国から来たんだな?」

「ベナトゥレス王国……」


「ベナトゥレス。亜人たちの共通語で【自由に群れる】という意味らしい。人族以外の種族が混ざり合って住む王国、それがベナトゥレス王国だ」


 亜人と獣人の国、ジーナたち猫人族が多くを占める人獣族、それ以外にエルフやドワーフ、多種多様な人族以外の人々が住む王国か。ふと、ジーナを見ると、僕の気持ちが伝わったのか、顔をフルフルと横に振った。


「アタシ、この街の記憶しかないから、聞かれても知らないよ?」

「そっか。そう言えば、教会で住んでたって言ってたもんな」


 ジーナからの情報は諦めるとして、教会とは今も繋がりがあるんだろうか。彼女を勝手に奴隷にしてしまったけれど、その辺り教会としてはどうなんだろう。いつかそこにも挨拶に行かないと。


 などと、全く関係ないことを考えていると、亜人の奴隷たちに囲まれて、存在が薄れてしまっていた、今回、白金貨三十枚という大金で落札された少女が、おそるおそる手を挙げる。


「あ、あの……私はみなさんとは別の国からですが、家族と旅の途中に、国境警備兵に掴まってしまって、何も訳を話してもらえず、いつの間にか奴隷オークションに……」

「キミもか……くっ! 国境警備兵たちは、いったい何をやっているんだ!」


 少女も亜人たちと同じで冤罪だった。

 いや、冤罪どころか、不法逮捕? 何の罪もない彼らは、亜人の国を襲った国と、この王国の国境警備兵たちによって鎮圧され、捕虜と同様――いや、それ以下の扱いを受けているのだ。そう考えると、ここで僕とアレックスが出会い、無実の罪によって奴隷になった彼らを解放出来たのは、偶然とはいえ、運命だったのだろうか。


 アレックスが僕をじっと見つめているのに気付く。


「ヨースケくん。とりあえず彼らの解放が先だ。といっても、彼らは元から犯罪奴隷でもなんでもない、ただの被害者だったんだ。だから早急に彼らの首輪を外すべきだと僕は思う」

「はい。同感です」


 アレックスの指示通り、彼らの首輪を外す。

 スキル【奴隷解除】によって、それぞれの首から奴隷の絆が光と共に消え去り、安堵のため息がその場を覆いつくす。自分の首元を押さえながら、喜びに満ち溢れる彼らの表情を見て、僕もなんだか心がほっこりしてしまう。


「さあ、キミたちは晴れて無罪放免となった。しかし事実上、キミたちが故郷に帰るという選択は無理のようだ。それで提案だが、僕の下に来るのであれば、すでにそれなりの準備はしてある。それが嫌な場合、この街や他の場所での生活になるが、それも全力で援助するから安心してくれ。どちらを選ぶかは、キミたちの自由だ」


 アレックスの言葉に少し考え込む彼ら。

 彼らの国は、すでに謎の軍隊によって滅ぼされた可能性があり、そう簡単には戻ることが出来ない。奴隷となり、あてのない隣国での絶望でしかない生活が一変し、再び自由という立場になったことで、別の選択肢が生まれてしまった。それらのすべてをアレックスが補助してくれるとはいえ、それが未来永劫続くとは、さすがに彼らも考えてはいないだろう。実際、アレックスなら出来るかもしれないのだけれど、そこはわからない。自立か保護か、どちらかの選択に迫られる元奴隷たち。


「わ、私たちは貴族さまと一緒にいたいです。ここの人たち怖いし……」


 兎人族の女性ふたりが、遠慮がちに述べる。

 すでにふたりの身体は、アレックスが持たせたブランケットで覆われており、目のやり場に困るような姿ではない。そういった気遣いの出来る彼に信頼を寄せたのだろう、彼の保護下にいることを選択したようだ。


「ワシは鍛冶師の仕事を再開したい。この街でどこか良いところを知らんか?」


 ドワーフは、自分の仕事を優先するようだ。

 それを聞いて、僕らは真っ先に彼を思い出す。


「それならアタシたちが知ってる、街一番の鍛冶師のとこに、あとで連れてってあげるよ!」

「おおそうか。そいつは助かるよ」


 僕よりも早く、彼と昔なじみのジーナがドワーフに声をかけた。さきほど大変世話になったレイウォルド氏なら、快く受け入れてくれるはず。これでドワーフの行先も決まった。


「あっ! じゃ、じゃあ、あたしも、この街で仕事探そっかな。前は道具屋やってたし、どこか伝手があれば良いんだけど……あの、主さま。どこか知りませんか?」


 エルフのメイウィンが焦ったように話す。

 僕たち――というか、僕だけをじっと見つめて尋ねる彼女。えーっと、これって……。


『エルフのお姉さん、お兄さんと離れたくないんでしょ? わっかりやすいわ~』

『う、うるさいっ!』


 僕に耳打ちするジーナを黙らせる。

 すでに奴隷から解放されたのに、僕を主呼ばわりする上、少し潤んだ瞳で見つめられると、さすがの僕でもわかる。うーん。もう彼女は奴隷じゃないし、ひとりで街に住むって言ってるんだから、ジーナが予想するようなことはないと思いたい。


「あ、あの。それなら今回、私たちの依頼者の方が、この街で手広く商売をなさってるというので、お聞きしてみましょうか」


 僕とジーナのやり取りを知らないアルテシアが、メイウィンに仕事の口利きを自ら申し出る。間違いなくローザのことを言っているのだろうけど、あの老婆がそう簡単に、仕事をあっせんしてくれるのだろうか。少し不安になるが、仕方がない。


「それなら僕も知っている人なんで、良かったら――」

「ホントですか!? やったあ! 主さま、大好きっ!!」


「うわあ!」


 アルテシアに口添えしたつもりが、逆にメイウィンの気持ちに火をつけてしまった。いきなり抱き着かれて戸惑う僕に、ムッとしたふたりが迫って来た。


「ヨースケさん! それはちょっと不純ですっ!」

「お兄さん! アタシという女がいるってのに、それって、マジケンカ売ってない!?」


「な、何言ってんだよ! この流れじゃ、どうしようもないじゃんか!」


 僕が必死に弁解するも、聞き入れないふたり。

 ほとほと困り果てる僕に、助け船が現れた。


「商売をしたいなら、僕がその資金を出そう。安心しなさいメイウィン」

「えっ! 貴族さまにそんなことまでしていただけるのですか」


 アレックスの申し出に、戸惑うメイウィン。

 良かった。これで僕が責められることもなくなると、そう思っていたが、


「まあでも、街にそういったまとめ役がいるなら、彼にお願いするべきだね。頼んだよヨースケくん」

「えっ!? あ、はい……」


 そうは上手くいかないようだ。

 満面の笑みで僕の胸元に寄り添うメイウィン。その両脇をアルテシアとジーナというレギュラー陣に、がっちりと腕を抑えられている僕。


 アレックスの笑みが、この状況をまったく理解してくれていないことを物語っているのが、少し恨めしい。


 僕らがそんな平和なやり取りをしていると、まだ身の振り先が決まっていない人族の少女がまた、遠慮がちに手を挙げた。


「――! おお、キミか。キミはこのあと、どうしたいのかい?」


 アレックスが優しく彼女に問いかける。

 少し躊躇しつつ、アレックスの目をじっと見上げる少女が、口を開く。


「私、一緒に掴まったあとに離れ離れになった、両親と姉を探したいんです」

「ご両親と姉上か……」


 アレックスが思案するポーズを取る。

 そして僕らの方を見た彼が、なぜかニコリと笑顔を見せる。うーん。何か厄介ごとの予感……。


「ヨースケくん。キミたちは冒険者ギルドに登録しているかい?」

「えっ、あ、はい。先日登録したばかりですが……まさか」


 さらにイケメンのアレックスが微笑む。

 これはもう確定しかないじゃないか……。


「そのまさかだよ。あとでギルドにキミ指名でクエストを出すから、よろしく頼んだよ」

「そのクエストって、その、やっぱり……」


「ああ。彼女のご両親、そして姉上を探し出してほしい」


 また依頼が増えてしまった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


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