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第二十五話 僕たちの長い夜



「お帰りな――」


 遅くなったが宿に戻った。

 カウンターで僕の姿を見るなり笑顔を見せたパフィーが、出迎えの挨拶をする途中、後ろにいるメンバーを見て固まった。


 うん。気持ちはわかる。

 今朝はふたりだったのが、夜に戻って来たら四人に増えているのだから、驚くのも無理はない。メンバーは僕、アルテシア、新たに奴隷になったジーナ。もうひとり数が間違ってないかと言われるかもしれないけれど、お察しの通り最期のひとりはセナだ。


 黒狼族を全員解放したあと、夜も遅くなったこともあり、レイウォルド氏との話は明日再訪することになった。それじゃあ宿へ戻ろうと僕らが話していると、うしろから熱い視線を送るセナがいた。


 この街に休暇で来ていた彼女は、本来だと昨日帰る予定だったらしい。それが今回の騒動で延期となり、宿泊していた宿も引き払ったあとだったので、昨日はなんと詰所の休憩室で夜を明かしたそうだ。その結果、いち早く黒狼族の暴動に気付き、対処出来たのは皮肉とも言えるけど。


 セナから今夜も泊まる場所が決まっていないと聞いた僕らは、拠点としている【ジェニファー&ローガンの止まり木】で、空いている部屋がないか聞いてみることに。道中いろいろと話をしながら戻って来たというわけだ。


「ヨースケさん。なんか不純です」

「ええっ!? ど、どうしてそうなるの!」


 ジト目のパフィーが僕を非難する。

 あわててここまでの経緯を彼女に説明するが、あまり疑いは晴れなかった。そりゃあ、三人も可愛い女の子を連れだって楽しそうに戻って来たら説得力もないかもしれないけれど、なんか納得がいかない。


「それでさ。人数が増えたんで、部屋を分けたいんだけど」

「「「えーっ!」」」


 パフィーに空室の状況を確認していると、うしろからブーイングが聞こえた。アルテシアとジーナはわかるけど、なんでセナまでが。いや、わかるけどさ……。


 パフィーもそれを察したらしく、ニンマリとしながら部屋台帳をめくる。


「あーちょうど空いてますねえ。ヨースケさんはひとり部屋、おねーちゃんたちにはふたり部屋、あと騎士さまにもひとり部屋が空いてまーす!」

「おー! 良かった。じゃあそれ――」


「「「はんたーい!」」」


 カウンターで呆れる僕とパフィー。

 なんで三人同時に反対するんだよ。

 ちょうどいいじゃないか。何が問題あるんだ? そんな視線を彼女たちに送るが、ジーナはもちろん、アルテシアまでもが僕から目を逸らす。ジーナやセナと仲が悪いのかと思ったら、こういうときだけ団結するんだね、キミたち。


「だーめ! ヨースケさんの(みさお)は私が守るんだから!」

「なんでパフィーまで!? てか操ってっ!!」


 客と宿屋の関係を限界突破しそうな発言をするパフィーに驚くが、先日、僕のお嫁さんに立候補するようなことを言っていたのを思い出す。あれは冗談ではなかったようだ。自分がイケメンだと言われたこともあり、調子に乗っているわけではないけれど、これも自分の顔が原因なんだと思うと、なんか複雑だ。うーん。ノアもなんでそこをサービスしたんだろうか。普通で良かったのに。いや、こんなことを言っていると、いつか天罰がありそうだし自重しよう。


 パフィーの宣言と僕の説得によって、部屋割りは当初の予定どおりとなった。今朝まで泊まっていた部屋はアルテシアたちがそのまま利用し、僕は同じ二階の奥にある一回り小さな部屋に移動する。セナは王国騎士ということもあり、ワンランク上のひとり部屋を用意され、そこに泊まることとなった。


 途中、夕食をとっていなかったことを思い出し、パフィーに頼んで、みんなで軽い食事を済ませると、各々の部屋へと戻る。


「ふう……」


 パフィーに案内された部屋のベッドに腰を下ろす。

 異世界に転生してから初めてのひとり部屋。ベッドもあの部屋とは違い、寝ると自分の肩より少し広いくらいのサイズになっている。備え付けのテーブルにも椅子が一脚のみ。自分だけの空間って感じがする。


 前世の記憶では、確か自分にが弟――いや妹? どっちだったかも忘れそうになっているけれど、同じ部屋だった気がする。窮屈な部屋にふたりで勉強したり漫画読んだり、楽しかったのかもしれないけれど、それさえも忘れている。


 こう考えると、だんだんと僕もこの世界の住人として根付き始めているのかもしれない。もう戻ることのない前世の世界。やがていつかは、そこに居たことさえも忘れるんだろうか。そんな日が来るのを怖いと思う反面、変な未練がなくなって安心する部分もある。それをゆっくりと忘れさせてくれるようにしてくれたノアには、ある意味感謝しないといけないな。


「ヨースケ様、ちょっといいかい」


 ノックの音が聞こえ、セナが声をかけて来た。

 確か彼女の部屋は最上階のはず。なにか用があるのだろうかと思い、部屋の扉を開ける。


「どうしたんですか。レイフェルトさん」

「むぅ……」


 僕がそう返事すると、整った彼女の顔が少しむくれる。その意味がわからず小首をかしげると、彼女がチラチラと僕のほうを見ながらボソりと呟く。


「その、レイフェルトって呼び方……なんかイヤだな」

「え?」


「ボクも、彼女たちみたいに呼び捨てにしてくれたって良いんだよ?」

「いや、でも、彼女たちは一応、僕の奴隷ですし、貴女は王国騎士ですから……」


 流石にアルテシアたちとは違い、彼女は僕の奴隷でもないし、なにより今日会ったばかりのうえ、王国騎士団の騎士だ。失礼があってはイケないと注意を払いながら接してきたつもりだったんだけれど、それが彼女の機嫌を損ねるとは、女の子ってむずかしい……。 


「じゃあ、王国騎士やめる!」

「ええっ、そこまでっ!?」


「だって、ヨースケ様が呼んでくれないもん」

「いや、王国騎士を僕のせいでやめたってなったら、それこそ責任問題ですよお」


「じゃあ、ボクのことセナって呼んで?」

「ええぇ……」

 

 僕を上目づかいで見るセナ。まるで最初の印象と違う彼女の態度にドキドキする。見た目はこんな綺麗でカッコいい女性が、僕の前だとこうも変わるなんて。前世だったら間違いなく好きになっていたかもしれない。


 けれども、この異世界で騎士と言えば、上流階級のはず。ただの奴隷ディーラーである僕と、貴族かもしれない彼女とでは、身分の差があるに違いない。かといって、邪険にするには彼女への借りがあり過ぎる。今回の騒動を収めてくれたことも含めて、僕に奴隷ディーラーへの希望を与えてくれたのはセナなんだ。出来ればきちんとお礼もしたい。


「わ、わかりました。じ、じゃあ……セ、セナ」

「ひゃああんっっ! ヨ、ヨースケしゃまぁ~」


「うわあっ!」


 僕が彼女を呼び捨てにすると、途端にセナの目がハートになり、あのトロトロに溶けそうな仕草に変わったかと思えば、いきなり僕に抱きつこうとしてきた。あわててそれを回避しようとしたけれど、その必要はなかったようだ。


「セナちん、さっき決めたよね? 抜け駆けしないって!」

「「うわっ!」」


 気付けば僕らの真横に少し怒ったジーナがいた。

 その後ろにはまたも剣を抜いて立つアルテシアの姿もあった。あわてて僕とセナは距離を取り、気まずい雰囲気になる。いや、キミたち居たんなら早く助けてよ。


「いや、ボクは黒狼族の件で彼に話が……」

「言い訳無用! さっさと帰った帰った! 騎士さまが市民に夜這いしたなんて知られたらチョー大問題だよ? それってマズくね?」


 ぐっと息を呑むセナ。

 やはり問題アリなんだな。ジーナに論破されたセナは、扉の前で拳を握りしめながら悔しそうな表情で俯いている。やがて諦めたのか、僕のことを名残惜しそうに見ながらも、すごすごと自分の部屋へと戻っていった。


「た、助かったよ、ジーナ」

「もおーお兄さん、不用心すぎっ! ここにはお兄さんを狙う女どもが、いーっぱいいるんだからマジ気をつけなって! てか、ちゃんと鍵閉めときなよ」


 ジーナの正論にぐうの音も出ない。

 こういうときの彼女は、なぜか頼もしい。


 ふと、うしろのアルテシアを見ると、彼女も少し戸惑っているようだ。馬車でセナから僕を守れなかったことを気にしているのだろうか、あまり自分から前に出て発言するようなタイプでもない彼女は、さきほどのジーナたちのやり取りにも参加出来ず、うしろで黙っていた。今も表立って僕を説教するジーナに気後れしているようすだ。


「お兄さん聞いてる?」

「え、あ、いや、ごめん。なんて言ったの?」


「もおマジムカつく! しっかりしろっつーの! ご主人さまっ」


 アルテシアのことが気になり、ついジーナのことを疎かにしたことを反省する。ジーナは呆れながらも僕にこう言った。


「アタシたちも自分の部屋に戻るから、ちゃんと戸締りして寝るんだよ。いい?」


 まるで母親にでも怒られているような気分だ。

 素直にジーナに頷くと、彼女はため息をつきながら、うしろにいたアルテシアに声をかけ、自分たちの部屋へと戻ろうと踵を返した。


「あっ」


 帰り間際、アルテシアが何か言いたげだったけれど、ジーナに引っ張られる形で僕から引き離されていく彼女を、僕は黙って見送るしか出来なかった。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「ん……重い」


 ジーナたちが戻ったあと、僕もすぐに寝た。

 多少ベッドの幅は狭いが、誰の気配も感じずにゆっくり眠むれることへの安心感のせいか、寝床に入った僕はあっという間に睡魔に導かれ、夢の世界へと旅立った。


 しかし、それもほんの束の間。

 熟睡中だった僕は、腹部に妙な圧力を感じ、思わず寝言のような声を出す。


 おかしい。部屋の鍵はちゃんと閉めたはず。

 誰も居ない部屋に、何かの気配を感じた僕は、ゆっくりと閉じていた目を開けた。


「ちぃーっす! ご主人さま。目が覚めちゃった?」

「えっ!? ジ、ジーナ?」


 そこにはいないはずの人物、ジーナがいた。

 状況を呑み込めない僕は、軽くパニックになり、彼女のお腹の上に乗せたまま、ジタバタと動き出す。しかし、彼女はまるでロデオにでも乗っているかのように、うまくバランスを取り、なかなかそこから下りてくれない。


「ちょ、お兄さん動き過ぎぃ~。大事なとこがこすれて……ん。ケッコーヤバみなんだからね」

「いやいやいや! な、何言ってんの!? は、早く下りてよ、ねえ!」


 いきなり意味深な発言をするジーナ。

 即座に動きを止めるヘタレな僕は、彼女に下りてもらうよう懇願するが、ニヤける彼女は調子に乗って僕を誘惑し始める。


「ねえお兄さ~ん。アル姉には負けるけど、アタシだって意外とイケる感じだと思わない? 例えばあ~、こ・こ・と・か」


 そう言って、僕のお腹の上に跨るジーナは腕を前に寄せ、胸の谷間を強調させる。そこまで大きくないとはいえ、目の前でそんなことをされると、無意識に目がそこに行くのは、自然の摂理だと僕は思うの。


「ちょ、何やってんだよジーナ! さっきセナに抜け駆けすんなって、自分で言ってたじゃないか。それにどうやって入ってきたんだよ。キミの言うとおり、鍵はちゃんと閉めたはずだぞ?」

「あの人はカンケ―ないじゃん! アタシはお兄さんの奴隷でしょ? やっぱ奴隷初日って、ご主人さまとのスキンシップが鉄板でしょ? そこはアタシ、きちんと出来る子ちゃんだから、当然ここに忍び込むよね? 上に乗るよね? で、当然するよね?」


 若干のドヤ顔で話すジーナ。

 セナに迫られそうになったときに、助けてくれた彼女のことを、ちょっとは見直したんだけど、台無しだよもう。


「しないって! それよかどうやって入ったのか説明しろよ」

「えーアタシのジョブ盗賊だっつーの! 宿屋の鍵なんてラクショーに決まってんじゃん!」


 そうだった。彼女のジョブは盗賊だ。

 スキルか何かがあるのだろう。それにかかかれば、ただの宿屋の扉くらい簡単なものなんだろうな。あとでどんなスキルを持っているか確認して、ヤバいスキルは使用禁止にさせないとダメだな。


「じゃあお互い気分も盛り上がったことだし、まずは定番のお~ちゅううう~」

「ば、ばか!」


 僕のお腹に乗っかったまま、唇を突き出すジーナ。

 両手は彼女の手によって封じられ、あと数センチで唇が重なろうとしたとき、僕らの前にギラリと光る剣が現れた。


「ア、アルテシア!」

「むうっ!」


 助かった。アルテシアがすんでのところで止めに入ってくれた。剣を収める彼女がわなわなと震えている。見つかってしまったジーナの方は、ペロりと舌を出して肩をすくめている。そんな彼女をアルテシアがジロりと睨む。


「わ、私がお手洗いに行っている隙に……」

「あれ~? 見つかっちゃったーみたいな? おっかしいなあ。バレないと思ったのにぃ~」


「これのことですか」


 アルテシアが手に持っている物を見せた。

 宿から支給された大きな布を人型に巻き、どこから持ってきたのか、ロープでぐるぐる巻きにされた身代わり人形が、ドンと現れた。ベ、ベタ過ぎる……。


「抜け駆けしないって約束でしたよね。ジーナ」

「えーだって、アル姉はもうしちゃったんでしょ? じゃあ順番的に次はアタシじゃん?」


「「し、してない(ません)っ!!」」


 ハ、ハモった。き、気まずい。

 僕は当然として、アルテシアも少し顔が赤い。

 ジーナの大胆な発言に翻弄される僕ら。

 そんな彼女は、僕らの焦りようを見てニヤつく。


「あれあれえ? お兄さんたち、もしかして――」


 それを言い切る前に、首根っこを掴まれ、部屋の外へと放り出されるジーナ。アルテシアのスキルの無駄遣いがすごい。扉を乱暴に閉めるとアルテシアが言った。


「こ、今夜は私がずっとここを見張っていますから、ジーナはひとりで寝て下さいっ!」

「えー! ごめんアル姉~ひとりってチョー寂しいじゃん。謝るから入れてよー」


 扉の向こうからジーナがアルテシアに謝罪をするが、開ける気はないみたい。ジーナは何度か扉を叩いたり、ガチャガチャとノブを回したりと試みたようだが、仁王立ちしたアルテシアは頑として扉を守っている。やがて突入を諦めたジーナは、部屋の外の廊下をパタパタと足音を立てて去っていった。


 シンとなった部屋に、僕たちの息遣いだけが聞こえる。


「ア、アルテシア。な、なにもそこまでして――」

「ごめんなさい」


「え?」


 背中を向けたまま僕に謝るアルテシア。

 扉の前に立つ彼女はそこから動かず、その表情は伺えない。僕はベッドから腰をあげ、不安のあまり彼女の顔を見ようと傍に近寄る。


「アルテシア」


 その肩に触れた途端、彼女がピクリと反応する。

 思わず手を離してしまう。けれど、アルテシアは名前を呼んでもこちらを振り向いてくれない。これ以上無理強いするのも気が引けた僕は、そのまま彼女の背中越しに言葉をかける。


「今日、どうかした――」

「あのとき、私は動けませんでした」


 彼女の言葉に被りそうになり口をつぐむ。

 扉を見つめたまま、彼女は言葉を続ける。


「私がいち早くお守りしないとイケなかったのに、あの剣先を突き付けられた瞬間、死を感じてしまいました」


 馬車でのことを言っているらしい。

 たしかにセナの剣はアルテシアの動きを封じた。僕だけが見えていないのかと思っていたけれど、あの剣の軌道は彼女にも見えていなかったようだ。王国騎士とは、あれほどまでに圧倒的なチカラを持つのだろうか。レベル32の彼女を圧倒するセナ。黒狼族の統領といい、この世界にはまだまだ上位の存在がいることを思い知るきっかけになった。


「気に病むことなんてないよ、現にこうやって生きているんだし、セナも本気でやったわけじゃ……」

「違うんです!」


 暗い部屋にアルテシアの声が響く。

 かすかに震える肩。どうしていいかわからず、僕は黙ったまま棒立ちとなった。


「騎士は、主のためなら死をもいとわない覚悟を、常に持っています……いや、持っていたはずなんです。なのに、私は……あのとき死を受け入れたくなかった……死ぬことを恐れたんですっ!」

「アルテシア……」


「私は……騎士失格ですっ!」


 アルテシアは悔しげに叫ぶ。

 無意識にその名を呼ぶと、彼女が振り向く。

 自分を責める彼女の瞳はすでに潤んでいた。

 僕と目が合うと、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 ハッとなった僕は、思わず彼女の肩に手を置いた。

 

 それが合図となったのか。アルテシアの目から大粒の涙があふれだす。


「ア、アルテシア」

「私……わかったんです……なんで、死ぬのが怖くなったのか。あのとき……死よりもツラいことが私にはあるんだって、あなたと離れることが、一番……私にはツラいことなんだってっ」


 目の前の愛おしい相手は、そう言って僕の胸に顔をうずめる。震える身体を優しく支えると、小さく鼻をすする彼女は、優しくされるいわれがないという抵抗なのか、頭を左右に振る。


「アルテシア」


 もう一度彼女の名前を呼ぶ。

 無念と後悔と失意に苛まれる彼女を、

 僕なりの言葉で救ってあげたかった。

 赤い目で僕を見上げるアルテシア。


「それのどこが悪いの?」

「え……」


 僕の言葉に困惑するアルテシア。

 つい先刻、自分が言ったことを、こいつは理解していないのかとでも言いたげな顔だ。僕は優しく彼女に微笑む。


「騎士の矜持も大事だよ? だけど、主のために死ぬって、それホントに主のためになってるのかな」

「そ、それは……」


 涙も止まった彼女が言い淀む。

 

「僕は……嫌だ」

「ヨースケさん……」


「僕は誰にも死んでほしくない。だから助けたんだ。キミもジーナも。なのにキミは僕のためなら死ぬって言う。そんなのツラいし、矛盾してる」

「で、でも私は騎士で……」


 僕は戸惑う彼女の手を握る。

 アルテシアは小さく驚き、僕を見つめる。


「アルテシアにはずっと僕の隣で笑っていてほしいんだ」

「――!」


「僕はいつか強くなる。キミが安心して傍にいてくれるように」

「ヨ……」


「絶対誓う! 奴隷ディーラーとしても、ひとりの男としても!」

「ヨース……」


「だから――!!」

「ヨースケさんっ!!」


 アルテシアの声が部屋に響き渡る。

 僕はハッとして、自分がいつも以上に熱くなっていたことに気付き、赤面する。やってしまった。なんか、心と言葉が高ぶってしまって、最後には勢いであんなことを言いそうになってしまった。彼女を見ると、僕が無意識に強く握り過ぎてしまったのか、自分の手をさすっている。


「わわっ! つ、ついチカラが入っちゃった……ごめん。痛かった?」

「い、いえ違うんです。そ、その……びっくりしてしまって」


 アルテシアと目が合い、恥ずかしさもあってか、僕は背中を向ける。


「と、とにかく僕はそういう考えだから、キ、キミも苦労すると思うけど――」


 アルテシアが僕の背中に寄り添うのを感じた。

 ぎゅっと背中の生地を掴む彼女。

 

「ア、アルテシア?」

「わかりました。あなたのために私は死にません。ずっとお傍で生き続けることを誓います」


 ささやくように聞こえるアルテシアの声。

 誓いの言葉を告げる彼女は今、どんな顔をしているのだろうか。振り返る僕から逃げるように離れる彼女。その顔は暗がりで俯いているために、はっきりとはわからない。


「で、でも……」

「でも?」


 ポツリと呟くアルテシアの声に耳を澄ます。


「あ、あまりお強くなられると困ります……その……私があなたを守る役目がなくなるので……」


 そう恥ずかしそうに話すアルテシアに、僕は思わず吹き出してしまう。


「なっ、なんで笑うんですかぁ」

「いや、ごめん。ふっ、あはは――」


 暗がりのなか、彼女が赤い顔をして僕を責める。

 笑いが止まらない僕を、拗ねた顔で睨む彼女。

 またひとつアルテシアを知れた、僕たちの長い夜が、笑い声と共に過ぎていった。


 

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


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