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第二十二話 おうこくきしにゃん せな・れいふぇると



「おお。無事だったのか」


 戦いを終え、工房に入ると店には誰も居なかった。

 通路を渡り、レイウォルド氏と面会した部屋へ向かうと、とっさに武器を構えだす彼らがいた。現れたのが僕だとわかると、安堵した彼らが皆、口々に僕の無事を喜び、何度も肩を叩かれたりと労われたりもしたが、なぜか彼ら全員が酒臭い。


 理由を聞くと、魔道具で奴らの接近を知ったドワーフたちは、慌ててその場にいた客を帰したあと、すぐこの部屋に避難していたらしく、一向に襲撃して来る気配を見せない黒狼族たちを不審に思い、誰が偵察に行くかを、酒の飲み比べ対決で決めようとしたのだが、思いのほか盛り上がってしまい、気付けば大宴会へと発展したらしい。


 その結果、襲撃のことをすっかり忘れていた彼らは、僕がやって来たことでようやく自分たちがなぜ酒を飲んで騒いでいたかを思い出したというのが、彼らの酒臭さの原因だった。いや、ドワーフらしいと言えばらしいんだろうけど、必死に戦っていた僕らって……。


「はい。アルテシアが奴らを倒しましたんで、もう大丈夫ですよ」

「「おお!」」


 歓声と共にアルテシアへの称賛の声があがる。

 小さなぬいぐるみのようなドワーフたちに取り囲まれている彼女の姿は、まるで白雪姫のようで、微笑ましい。もうひとりの功労者であるジーナは、さっきのグロテスク場面でダウンしたのか、外の空気を吸いたいと言ってこちらには来ていない。


「それで、黒狼族たちは?」

「あ、そうだ。ちょっとお願いがあって来たんですよ」


 黒狼族を倒したはいいが、彼らを拘束する道具を持っていなかったため、彼らに尋ねたところ、ロープなどを持っているとのことだったので、それを借りることに。どうせなら手分けした方が早いというレイウォルド氏の提案で、他のドワーフを連れ立って僕らは外へと向かった。

 

「お、お兄さん! 大変大変! とりま来てっ! 秒で来てっ!」

「えっ!」


 彼らと通路を歩いている途中、血相を変えたジーナがこちらに向かって走ってきた。その剣幕に何かが起きたことを直感した僕らは、彼女と共に全員で外へと走り出た。


 外に出ると、状況は変わっておらず、七ひきのオオカミたちは依然として気絶した状態のままだったが、彼女の大事はそれではなかったらしく、別のことだった。


「違う違う、あっち! あの方角から煙が出てんの!」

「えっ! 煙!?」


 僕とアルテシア、それにドワーフたちが一斉にその方角を視線を移す。建物が立ち並ぶその方向には遠くの方から火の手と共に煙が上がっていた。それを火事か何かだと判断した僕は、その方角に何があるのか尋ねると、


「あの方角は警備兵の詰所の方角だな」

「「警備兵の!?」」


 レイウォルド氏の言葉に僕らは声を揃える。

 すっかり失念していたのだ。この襲撃には別働隊が存在していたことを。精鋭としてこの工房には黒狼族の統領を始めとした七人が乗りこんで来ていたのだけれど、アルテシアに腕を飛ばされた黒狼族の四人を救出する連中たちの数は把握していない。一族と言うからにはそれなりの数がいるのだろうし、街の安全を守る警備兵も少なくないはずだ。きっと大勢の混戦が予想され、あの火の手と煙はなによりの証拠とも言える。


「アルテシア!」

「はいっ!」


 警備兵の詰所襲撃は無関係とは言えない。

 僕たちが起こした騒動が、こんな大騒動になってしまったことに罪悪感を感じたこともあってか、この襲撃事件には最後まで付き合う義務がある気がする。それはアルテシアも同じ気持ちのようで、ふたりで顔を見合わせ頷きあった。


「あーアタシパスするね~スキル空っぽだし、行っても役に立たないっしょ」


 ジーナは不参加らしい。

 それも仕方ない。彼女にはさっき散々活躍してもらったんだし、無理強いするつもりもない。僕は彼女にも頷き、ここでの待機を了承する。僕の許可を得たとわかった彼女は、手をひらひらさせながらドワーフたちの下へと向かって行った。

 

「ヨースケさん、行きましょう」

「ああ、わか――」


 うん、知ってた。

 アルテシアは僕を小脇に抱えると、火の手があがる方角の建物へと一気に飛び上がる。すでに今日二回の苦行を経験済みの僕は、慣れたもので三回目は驚きもしなくなっていた。ただひとつ、彼女の脇で上昇による風圧に耐えながら、一瞬だけ頭に浮かんだことは、ジーナと話していた馬車の件、早急に検討しようということだけだった。


 彼女が同行を辞退したのも、きっとこれを恐れてのことだったに違いない。くそぉ、ジーナめ。


 僕は道連れを逃れた相棒の小賢しさを恨みながら、夜の街を飛んで行った。


 

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「よーし、これで最後だ! 皆ご苦労だったな」


 僕たちが着いたときには、すでに火の手は収まり、警備兵たちによる後片付けが始まっていた。街の防壁に隣接する詰所は、壁を背にした形で建っており、そこから侵入されたのが伺えた。なぜかと言えば防壁からいくつもの縄ばしごが垂れ下がっているのを見たからだ。


 警備兵のなかに、ひとりだけ綺麗な甲冑を着た騎士がいた。綺麗な薄紫の髪色をしたショートカット姿で、まさに男装の麗人といった風な女性騎士が、警部兵たちを指揮し、てきぱきと現場の処理をやっているのが見えた。さきほど聞こえた、凛とした女性の声も彼女のようだ。


 彼女の傍には、襲撃に失敗したとみられる黒狼族たちが捕縛されており、その数はざっと五十人くらい。その大半が何かしらケガをしているところをみると、警備兵やあの女性騎士による鎮圧の成果だと察する。彼女は無傷のようだが、警備兵の何人かは、詰所の横に急遽設置された簡易治療所で、手当てを受けている最中だった。他に目を引いたところがあるとすれば、詰所の前の広場に、黒狼族が持ち込んだとみられる大量の武器が山積みにされていることだろう。ジーナがいたら大喜びしそうだなと思うと、フッと笑いが込み上げてきた。


「あ、あの女性(ひと)……」


 僕らの出番はないようだと、アルテシアに伝えようかと思っていたところ、彼女が例の女性騎士に気付いたのか、ふと言葉を漏らした。


「知り会い?」

「あ、えっと、昨日広場で警備兵と一緒に来ていた方で、いろいろとお世話になったんです」


 アルテシアが広場で揉めたのにも関わらず、警備兵に連れて行かれることがなかったのは、あの女性騎士のおかげだったらしい。奴隷として主を守るため、当然のことをしたまでだと、アルテシアを連行しようとする警備兵たちを叱責したのが彼女だそうだ。それを聞いて、僕もあの女性騎士にお礼をしなくてはと思ったとき、


「ちょっと行ってきます。あの方にお礼を言いたいので」

「あ、ちょっと、アルテシア……」


 僕の呼び止めも聞こえなかったのか、彼女は女性騎士の下へ走って行った。まったく。思い立ったら即行動は、相変わらずどの場面でも彼女らしさを失わないな。


 少し呆れながらも、僕はアルテシアが走って行った方向へ、彼女を追いかけることにした。



 僕が近づくと、すでにふたりは会話をしている最中だった。


「あーキミか! 昨日は大変だったね。あのあと主には会えたのかい?」

「はい。先日はありがとうございました。あ、あの……元はと言えばこの襲撃は私のせいで……」


 気さくな女性騎士は、近付いたのがアルテシアだとわかると、笑みを浮かべて応じてくれたようだ。襲撃の責任を感じているアルテシアは、あいさつもそこそこに、その件で彼女に謝罪を始めだした。


「いや、これはキミの責任じゃないさ。そもそもこの襲撃自体、黒狼族に舐められていた警備兵やボクたち王国騎士団の失態でもあるんだから」

「で、でも……」


「アルテシア」


 僕が彼女に後ろから声をかけると、振り向いたアルテシアの顔はホッした表情になった。これ以上は主である自分の出番だと思った僕は、軽く彼女に頷いた。


「あっ、し、紹介します、私の主で――」

「はじめまして。アルテシアの主のヨースケと申します。このたびは――」


「あーあなたが彼女――ひゃうんっ!!」

「「ん?」」


 アルテシアの紹介を受けた僕が、女性騎士のあいさつをしようとしたとき、僕の顔を見た彼女が途中で変な声をあげた。とてもそんな声をあげるような女性には見えなかったので、僕とアルテシアは不思議に思って彼女を凝視してしまった。


「ひゃ、ひゃじめまひて。わわわ、わたしっ、お、おうこくきしにゃんの、せ、せな、れいふぇるとと、も、もうしまひゅ……」

「えっ、あ、どうも……だ、大丈夫ですか?」


「ひゃ……だ、だいじょぶれしゅっ!」


 さきほど受けた印象とは真逆のキャラで自己紹介をする王国騎士団の、セナ・レイフェルトと名乗る彼女は、顔を真っ赤にしたままテンパったようすで、とても大丈夫そうとは思えない。思わずアルテシアと顔を見合わせるが、彼女も困惑していた。まあせっかく知り合いになれたので、握手でもと手を差し出したのだけれど、そこでもセナは異様な慌てぶりと見せた。


「あひゅん! あ、あくしゅでしゅかあああ!?」

「え? あ、いや、ご迷惑なら……」


 彼女が迷惑ならと、僕が手を引っ込めようとすると、ものすごい勢いで手を掴まれた。いや、めちゃめちゃチカラ強くて痛いんですけど。


「あああっ……あ、あたたかい手ぇ……」

「い、痛いですっ! レイフェルトさん」


 セナに手を離してもらい、ようやく落ち着く。

 依然として彼女の目はぐるぐると回っており、どこか体調でも悪いのかと心配になるが、大丈夫の一点張りなのでとりあえずヨシとする。僕は、捕縛された黒狼族の処遇が気になり、世間話のついでにそれとなく聞いてみた。


「こ、黒狼族ですか!? お、お望みなら……私が今すぐ全員の息の根を!!」

「わわわっ! ち、違いますって! レイフェルトさん落ち着いて!」


 剣を引き抜き、斜め上の回答をするセナを慌てて僕らが止めた。本当に大丈夫なのか彼女……。なんとか彼女を再度落ち着かせ、これまでの経緯を説明する。レイウォルド氏の工房で黒狼族の統領を捕まえたことや、種族柄、根に持つタイプらしいので、このあとどうしようかなどの相談もしてみた。そしてそれらを話し終えたころには、ようやく彼女のキャラも元の印象通りの人物に戻っていったようだった。


「そうですか。統領を……では、彼を首謀者として、問題はこの者たちの処遇をどうすべきか……」

「はい。出来れば穏便に済ませたいなと思いまして――」


「ヨ、ヨースケさまが、そ、そうおっしゃるのでしたら!」

「えっ?」


 またも目がぐるぐると回り出したセナが、声をあげて近くの警備兵を呼んだ。あわてて走ってきた警備兵に向かって彼女はこう言った。


「部隊長! 捕縛した黒狼族たちを全員解放したまえ!」

「ええっ!? セ、セナ様、そ、それはいったい……彼らは容疑者なのでは」


 突然、黒狼族の解放を命令され、部隊長と呼ばれた警備兵は困惑し、セナに真意を尋ねる。傍で聞いていた僕らも、彼女の異常な決断に驚く。


「良いんだ! それが難しいのなら、そうだな……よ、よし、恩赦だ! 恩赦ということで全員釈放だ!」

「恩赦!? い、いやセナさま、捕まえてその日に恩赦なんて、前代未聞ですが……それに、何に対しての恩赦でしょうか……」


「良いんだ!! 今日はボクにとって運命の日。この出会いを祝わずにしていられるものか……ああぁ。なんて素晴らしい日なんだ……」

「は、はあ……」


 セナの強引な命令により、捕縛されていた黒狼族、全員が解放された。しぶしぶ彼らを自由にする部隊長始め、他の警備兵たちは、釈然としないようすで彼女の指示通りに動く。いきなり解放された黒狼族たちは、これが自分たちを陥れる罠ではないかと最初疑っていたが、部隊長たちから、まるで犬でも追い払うような対応を受け、ようやく事情を呑み込んだ彼らは、各々、防壁の縄ばしごを登って、街の外へと逃げて行った。そして、そこまでのようすを、僕とアルテシアはただ呆然と眺めるしかなかった。


「ヨースケ様! お、お望みの通り彼らを解放しました!」

「え? あ、そ、そうですね……あ、ありがとうございました。はは」


 とても褒めて欲しそうな感、丸出しのセナに若干引いてしまったが、黒狼族が解放されたのは、結果的に今後の揉めごとを防ぐためにも、最善の選択だったかもしれないと思い直し、素直に彼女に礼を述べた。そのとき彼女の見えない尻尾がバタバタしていたのは、僕の見間違いだったかもしれないが。


「でも、さすがに統領の処遇は、慎重に扱わないといけませんよね」

「はい。端役の処遇はどうとでもなりますが、首謀者に対してはそうは参りません。おい部隊長」


「はっ!」


 工房で気絶しているであろう統領の処遇をセナに委ねるとして、レイウォルド氏たちへの嫌がらせが今後起きないようにするには、どうすればいいんだろうか。そんなことをセナと話しながら頭のなかで考えていると、どこからか馬車がやって来た。さきほど彼女が部隊長に指示して呼び寄せたらしい。


「さっそくですが、その工房にいる黒狼族の統領のところまで、この馬車で向かうとしましょう」

「え? この馬車で? てか、レイフェルトさんも?」


「はいっ!」


 にこりと微笑む、王国女性騎士セナ。

 彼女の参入により、この騒動が良い方向に向かうのかどうかはまだわからないけれど、うしろで僕の服の端をそっと掴む、アルテシアの不安を背中に感じながら、僕はセナに苦笑いをするしかなかった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


 

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