閑話 女神たちのテルメ その二 【祝5,000PV感謝】
「「せ、世界神さま……」」
いやいや、もうあかん。
一番恐れとった人が来てもたやん。
テルメの扉がガラガラ~ピシャって音立てて閉まった途端、女神全員が一斉に注目しよった。そこには女神のなかの女神。背中から七色の後光射しとる世界神さまが、これまためっちゃナイスバディ―な身体を周囲に魅せつけながら、ワシらの方へと向かって来よる姿が。
その威厳に満ちた風格に、さすがのヘラたちも緊張しとる。さっきまでワシのこと散々いじくっとった連中が、まるで借りてきたネコみたいや。ひひひ。ええ気味や。
って、あかん! そんなこと言うとる場合やない。
ワシは一刻も早くここから逃げんとあかんねん。
世界神さまに一番知られとうない秘密が出来てもたし、ヘラやホロがおる今、ワシの揚げ足を取る奴らばっかのなかでは、流石のワシも隠し通せん。
て、考えとる間に世界神さまが湯船まで来てもたし……。
「ノア」
「はっ、はいぃ!!」
世界神さまがいきなりワシの名前を呼んだから、めっちゃビビった。思わずうわずって返事してもたけど、ヤバかったか?
「私の背中を流してくれないか」
「へ?」
なんや、もったいぶって言うから、バレたかと思ったやんけ。そんな間抜けな返事してもたワシの横から、他の女神たちが一斉に騒ぎ出した。
「せ、世界神さまっ! お、お背中なら自分が!」
「いいえ! 私が!」
「私が先よっ!」
お前ら、どこの社長と平社員やねん。ただ単に世界神さまの背中流すためだけに、神威まで使うて争うとかやり過ぎやろ! あーあ。今ので周辺の岩山がいくらか消し飛んでもたやんけ。あ、ちなみに神威ってのは女神の必殺技みたいなもんで、使い方間違うたら、星のひとつやふたつ消えるくらいのヤバい代物や。
それに出世欲丸出しってか、湯船からいきなり飛び出すから、別の意味でいろんなもん丸出しやし。スッポンポンで取っ組み合う女神とか、その辺のエロキャットファイトと大して変わらんやんけ。
お! ヘラとホロがめずらしくバトっとる。
さっきまでワシのことをいじるのに抜群の連携プレー見せとったふたりが、今はヘラの釣り天井固めで喘いでるホロっちゅー構図になっとるし。いや、それよかホロにヘラ。お前らがこっちに足向けて技かけとるせいで、おっぱいやらアレがバッチリ見えてもて、ワシめちゃ気まずいんやけど……。
うわっ! 前回、名前紹介してなかった連中の電撃がこっちまで飛んできよった!
「ごるあ!! ハラにヒレにハレ! ワシに電撃当たるやろがっ! ええ加減にせいや!」
思わず怒鳴ってもたし。
こいつら三女神は今、ヘラに卍固め喰らっとるホロとは姉妹関係で、上からハラ、ホロ、ヒレ、ハレの順の四姉妹。しょっちゅうケンカしとるくせに、テルメには必ず全員で参加する、ようわからん姉妹たちや。てか、次女のホロに負けず劣らず、こいつらも結構ええ身体しとるし、やっぱ女神はみんな映える奴らばっかやわ。
そうこうしとる間に、世界神さまが洗い場の方へ行ってしもうた。ワシを始め、他の5人の女神たちも、あわてて彼女の後を追った。
「し、失礼します」
結局ワシら全員で世界神さまの背中を流すことになってもうた。いや、こんな人数要らんやろ。どこから仕入れたんかわからんけど、あのガキの住んでた日本てところで作られたという、ヒノキ製の椅子に座ってる、世界神さまの背中を担当することになったワシ。
いや、世界神さまっ、あんたの背中の後光が眩しくて何も見えんしっ!!
「きゃっ!」
ほとんど見えん状態で、世界神さまの背中やと思って、泡立てた手ぬぐいを持っていったら、隣で彼女の腕を胸に挟んで洗ってたホロのおっぱいに、ムニュりと当たってしもうた。てか、お前その洗い方エロ過ぎやろ! どこぞのいかがわしいお店ちゃうねんぞ!
ワシが触ってもたせいか、ホロの目付きがなんかいやらしい。やめーや! 変なスイッチ入るのん! あわてて世界神さまの背中洗いに集中するワシ。キラキラと光る藤色の長いまとめ髪。首すじのうなじやまとめ髪からの後れ毛。陶器のように白く、シミひとつない完璧な背中に思わず見惚れてしまう。どれもこれも文句のつけようがない色気に、均整の取れたプロポーションは、黄金比とも言える精度で再現された美の象徴。さすが神の頂点、世界神まで上りつめただけのことはあるボディや。思わずいろんなとこ見てまうワシ。
……。
……。
……。
よ、よっしゃ、今日はこれぐらいにしといたるわ……。
ワシら女神は汚れるちゅー概念がないから、ホンマは身体を洗う必要もないねんけど、テルメにハマった連中らは、これも一興とばかりに洗体までこだわっとるみたいや。それに関する道具まで一級品のものを集めて、いちいち名前まで書いて大事そうに使うとる。今ワシが手に持っとる手ぬぐいも、日本の今治ってところから、わざわざ世界神さまが手に入れたやつらしくて、端っこのほうに油性マジックで【せかいしん】って書いてあった。
なにかと日本ていう世界からの文化が、この神の世界にも浸透しとるせいか、ワシが間違うて漆黒の闇を日本の上空に出してしもうたのも、常日頃から日本にお忍びで出かけとる世界神さまの通ったゲートに、たまたまワシの漆黒の闇が繋がってしもたのが直接の原因やったはず――ってホレ見てみ! やっぱ世界神さまのせいやでこれ! みんな、ワシのミスやと思うとるやろけど、違うんねんて!
「はっ、はっ、せ、世界神さま。ど、どこかお痒いところは……」
顔の赤いヘラが、よそ行きの声色で世界神さまに尋ねた。黙って正面を見とった世界神さまが、チラリと目の前にいる彼女を見る。ヘラは世界神さまの身体を自慢のおっぱいで直洗いしとるせいか、ほのかに息が荒い。ってか、なんやねんこの状況……。
「うむ。胸の先端が少し痒いな。ノア、悪いが掻いてくれないか」
「ええっ!?」
いや、なんでワシやねんて!
目の前に喜んで掻いてくれるヘラがおるし、ワシはあんたの背中担当やんけ! とは言えず、少し躊躇するワシ。しかも胸の先端て、乳首やないかいっ!! 今気づいたわっ!
「どうしたノア。前に来るがいい」
「いや、えっと……」
世界神さまがワシを急かすねんけど、周りの5女神の視線が怖いねんて。こいつら今にも神威使いそうなヤバい目で睨んできよるし……。かといって、ワシも世界神さまに言われた以上、従わんとまた降格されるかもしれんから、覚悟決めて前に行ったったわ。
ワシの真正面に座る世界神さま。
いや、色気ありすぎて女のワシでもクラクラするわ。妙にプルンとした唇とか、男神やったら貪りつきとうなるんちゃうかこれ。藤色の長いまつ毛の奥の深淵がじぃーっとワシを見とるから、なんか腹の下が熱うなるし……。いやいやいや! ワシはソッチ系やないで!?
気合い入れて、世界神さまのおっぱいに手を伸ばすワシ。ちょい震える指先が、ちょこんと先っちょに触れた途端、
「――あっ」
「あっ、す、すんませんっ!!」
ひいいいい!!! あかんて世界神さま! そんなエロい声出さんといてーや。あと一瞬、背中の後光が百合の花一面に変わったのはワシの見間違いか? ってほら、他の奴らまでほんのり上気しだしたやん! ワシは思わす手を引っ込めたあと、世界神さまに一礼だけしてその場から逃げ出した。
即座に後ろから甘美な声が聞こえだす模様。
あいつら全員、スイッチが入ってしもうたみたいや。
なんせ、男神がいなくなってから、ずいぶんと年月も経ったし、元々、美意識の高い綺麗な女神ばっかの世界やと、自然とそういう仲になる奴らが増えてしまうんやて。ワシは正真正銘ドノーマルやからありえへんのやけど、実は世界神さまがソッチ系のガチ勢なこともあって、ほとんどの女神は、世界神さまの虜になってもうた。たまに彼女を批判してるヘラやホロたちも、結局のところ世界神さま大好きっ子っちゅーわけや。いや、どうなんよ、この世界の神々って。
とりあえず、秘密がバレずに済んだことに安心したワシは、嬌声の響き渡る洗い場をあとにし、湯船へと飛び込んだ。
てか、これまだ続くんか?
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