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第百三話  イグザール  ― 戦士と少女編 3 ―



「もう良いだろう」


 追手のベイリッツとカーラを退け、俺たちは国境を離れた山間のなかを走り続けていた。エイミーの馬車使いスキル【激走】を酷使したせいか、馬はすでにダウン寸前だ。それを解除し通常に戻すと、とたんに周りを流れる景色がゆっくりに感じられた。馬の状態もあるので、今夜はこの辺りで野営となる。


 山間と言っても、まだこの辺りは安全だ。

 魔物も出ないうえに、野盗も少ない。かつて冒険者だった頃だと、少々物足りない場所ではあるが、女ふたりを連れての旅には丁度良い。


 野営となれば見張りが必要だ。

 お嬢様であるソフィーは無理。となると、残りはひとり。馬車使いのエイミーなら経験はあるだろう。少しキツイが、ふたりで交代すれば一晩くらいなら問題ない。翌日にまた奴らが追って来なければの話だが。


 国境警備兵にとって、不正出国者(イグザール)を逃すことは重大な落ち度となる。俺は一度もないが、以前、他の部隊でそういったトラブルが起きた結果、部隊全員が奴隷落ちした。


 それほどのレベルである不正出国者の発生は、警備兵たちが一番恐れている問題のひとつであり、国の威信をかけた大捜索が行われる。今も奴らは必死に俺たちを探しているはずだ。


 念のため、あいつらから逃げるときに南へと進路を取った。南にあるのは例のベナトゥレス王国か、そのさらに南にあるガレリオン帝国。きっと奴らはそのどちらかに当たりを付けて、追手を差し向けているはずだ。


 この地域には元冒険者である俺でしか知りえない、抜け道というモノがいくつかあり、エイミーにはそこを通って予定通りアフェトンへの街道に戻ってもらった。


 だが油断は出来ない。

 勘のいい奴ならそこも可能性として捜索するはずだ。俺ならきっとそうする。もし俺の居ないあの部隊でそれが出来るとしたら、奴しかいない。隊長であるバストゥーザだ。


 昔聞いた話では、奴も冒険者だったことがあるらしい。俺の冒険者時代では一度も会うことはなかったが、なぜか向こうは俺のことを知っていた。最初は気安く話しかけてきたバストゥーザも、そのとき俺が奴を知らないと言ってからは態度が急変し、奴隷に堕ちるまではなにかと衝突することがあった。


 もしバストゥーザが冒険者時代、真面目で優秀な奴だったとしたら、当然この抜け道の存在も知っているはず。明日にならないとわからないが、来なければ所詮二流だったということだ。


「こんなに早くから野営ですか」


 俺が物思いに耽りつつ野営の準備をしていると、うしろから不服そうなソフィーの声がした。もう少し進めないのかという意味だろう。だが、俺の次に交代するエイミーは、すでに荷馬車のなかで仮眠を取っている。見張りに参加しない奴に言われる筋合いはないが、段取りを知らないお姫様には、きちんとした説明が必要だろう。


「見張りがふたりなんでな。交代時間を考えると、エイミーには今から寝てもらった方が良いと判断した」


 特に嫌味や皮肉を言ったつもりはなかった。

 だが、その言葉にムッときたのか、うしろにいたはずのソフィーが俺の前に現れた。


「貴族育ちの世間知らずでは、見張りも出来ないとおっしゃるのですね」

「……やはり貴族だったか」


 立ち振る舞いや物腰から、そうではないかと思っていた。だとしたらあのブルトンとかいう犬侯爵は、どこかの国の貴族を埒したというのか。道楽で人族を奴隷にしているのかと思っていたが、貴族となると話は別だ。彼女たち家族の拉致事件は、俺たちの手に負えない国家的な陰謀の可能性も考えないといけない。


 先行きが不安視されるなか、なおも俺に盾突くように話しかけるソフィー。貴族と聞いてからその会話の半分以上は耳に入っていない。


「聞いているのですか!」

「……ああ、すまない。何の話だったか」


 それが間違いだった。

 余計なことを言ってしまったと思ったが、話を聞いていないことを屈辱と受け取ったソフィーは、それ以上語ることなく、さっさと荷馬車へと戻ってしまった。勢いでなったとはいえ、主である彼女を怒らせる従者とは恰好の悪いモノだと気付く。ああいったときは聞いたふりをするべきだったようだ。


 娘ほど年の離れた少女の癇癪など初めての経験だ。

 どうにか機嫌を直してもらうべく、準備していた食事を作り始めることにする。腹が膨れればソフィーも機嫌を直すだろう。そんな安易な考えのまま、水を入れた鍋を火にかけると、やがて夜はやってきた。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「……美味しいです」


 納得がいかない顔のソフィー。

 俺の作った飯を最初は怒りもあって手をつけなかったが、空腹には勝てず最後は陥落した。ただ木をくり抜いただけの器から、彼女が木製のさじですくったのは、冒険者時代、妻のソニアの得意料理だったモノだ。米という穀物と干し肉を煮込んだだけの質素な肉がゆだが、味付けに使う香辛料の配分が妻ソニア直伝のかくし味だった。そのどれもがペイルバインの一式横丁に寄った際に見つけたもので、懐かしくもありこっそり購入した。


 とりあえずうまいと言ってくれたのなら良い。

 考案者であるソニアもあの世で喜んでいるだろう。出来ることなら彼女の本物を食わせたかったが。食が進むソフィーのようすを、焚火を挟んで眺めながら、そんなことを考える。


「これ。どなたかに習ったものですか」

「ん……ああ。妻にな」


「ー―!」


 何度目かのさじを口に運んだソフィーが、何気に尋ねたので正直に答える。妻と言う響きに驚いたのか、口に入れたモノが喉に詰まり、咳き込む彼女。黙って水の入った入れ物を渡すと、無言で一気に飲み干した。


「あの迷宮であなたが……」


 そう言えば奴らの話を彼女たちも聞いていた。

 おしゃべりなベイリッツのガキが、根も葉もないデマを流していたのを、そのまま受け取ったらしい。別にソフィーにどんな風に思われたとしても俺には関係ないが、ずっと人殺しの汚名を着たままだと今後に差し支える。


「迷宮で死んだのは本当だ。アスラマサクスの【火竜の洞窟】で俺の居たパーティが、妻もろとも全滅しただけだ。俺を残してな」

「アスラマサクス……あなた、私の国の火竜伝説の……」


「……お前はあの国の貴族だったのか」


 偶然か皮肉か。ソフィーはあの国の貴族だった。

 俺が二度と関わらないと心に誓った国、アスラマサクス。仲間も名誉もすべて失ったあのときの俺に、火竜の国は冷たかった。心無い中傷、責任の押し付け、蔑んだ貴族たちの眼差し。あの国に良い思い出などひとつもない。


「私が生まれた頃の話です。父から聞きました。北の英雄たちが火竜に挑んだ話を。王国の公式文ではあまり良いことが書かれていませんでしたが、国民の一部はあの話の真実を知っています」

「真実などない! あれがすべてだ。俺たちは無様に全滅した……ただそれだけだ」


 つい声を荒げてしまった。

 同情など要らない。今さらそんな優しさなど、空しくなるだけだ。ましてやあの国の貴族に言われたら余計に腹立たしくもなる。いくら当時はまだ生まれていない小娘だったとしてもだ。


「すまない。言い過ぎた」


 これ以上惨めになるのはごめんだ。

 大人として綺麗に引き下がるのも従者の務めだろう。俺はソフィーに詫びると、鉄の錫杖(しゃくじょう)を手にし、その場で立ち上がった。


「どこへ行かれるのですか」

「周辺を見回って来るだけだ。もしエイミーが起きたら飯を食わせてやれ」


 俺はその場から逃げた。

 あてもなく森をさまよい、小さな魔物がいたらそれを殺す。ほとんど八つ当たりに近い。あんな小娘の言葉に動揺するなど、俺らしくもない。今まで散々虐げられてきた周りの言葉よりも、なぜかソフィーのひと言ひと言が俺を苛立たせる。昔、部隊の連中から未熟な子供の言動が気に入らない親がいると聞いたが、もしやそんな気質が俺にもあったのか。


 ひとしきり周辺を見回り、気が済んだところで野営地に戻ろうとしたとき、今いる山間の少し丘になったところから見下ろした闇のなかに、いくつかの小さな明かりがあることに気付いた。


「まさか――」


 そのまさかだ。

 俺が二流だと思っていた連中は、夜の間も捜索を続け、執念でここを探り当てようとしていた。気に入らないが、俺のいた部隊の隊長は冒険者としては一流だったらしい。


 まだ距離はある。

 だが、ここから野営地に戻り、逃げる準備をしたら、ちょうど奴らに追いつかれる形になってしまう。このままもつれ合って逃げても、アフェトンの国境で挟み撃ちにされる可能性がある。ここはふたりを先に逃がし、俺が奴らを食い止めるしかない。


 そうと決まれば時間が惜しい。

 俺は身体強化のスキルを使い、全力で野営地へと走る。森を抜ける途中、何匹かの魔物がいたが、今の俺にそいつらを構う余裕などない。そのまま地面を蹴り、空へ飛ぶと、一気に野営地へと降りた。


「きゃっ!!」


 突然、空から現れた俺に驚くソフィー。

 まだエイミーは起きていないようだ。肉がゆはまだ鍋に残っているが、火を見つけられるとマズいので急いで蹴り飛ばして鎮火させた。


「な、なにを……!!」

「敵だ。二分で準備しろ!」


 俺を非難するソフィーに敵が来たことを告げる。

 時間がないのをわからさせるため、制限時間も決めた。残念だが野営地にあるモノは捨ておくしかない。あわてて荷馬車へと向かうソフィーに続き、俺も未だ熟睡中のエイミーを起こしに行く。


「エイミー敵だ! 起きろ!」

「ひゃうん!! へっ!? て、敵れふかあ!?」


 荷馬車のなかで自前の寝袋に入り、仮眠を取っていたエイミーの尻を軽く蹴り、強引に起こす。普段から野営時の危機に対しての心構えのある彼女は、一瞬寝ぼけたことを言ったが、すぐに飛び起きると、荷馬車から離していた馬の連結を始める。


「敵ってあの警備隊ですか!?」

「ああ。野営もさせてくれないようだ」


 荷馬車を馬に繋げたエイミーが俺に尋ねる。

 そんな彼女に軽口を吐きつつ、俺は荷馬車に積める荷物を餞別する。


「そ、そんな……な、なぜ荷物を地面に投げるのですか!」


 次々に外へ放り出される荷物を見て、ソフィーが悲鳴をあげる。その大半は一式横丁で無駄遣いをした彼女の荷物で、両親と再会したときのために着る大量の服だとか土産だとか、あとは食材や道具など、そういった余計なモノばかりだ。


「野営が中断されて馬があまり休めていない。これから全力で逃げるんだ。出来るだけ荷物を減らすのは当然だろう。最低限のモノだけ残す」


 さすがに今の状況を理解したのか、それ以上俺に詰め寄ることはなくなったソフィー。これからもっと過酷な状況になるのだが、果たして貴族である彼女は耐えられるだろうか。


「な、なんか良い匂いがします! はっ! こ、これはもしや、私の夕飯になるモノだったのでは!? くっ……うおぉぉぉ!! 警備兵めえぇぇぇ……!!」


 転がった肉がゆの鍋に気付いたエイミーが吼える。

 食の恨みは恐ろしいので、きっとその怒りを全力で逃走へと向けてくれるだろう。あらかた餞別を終えたころに、遠くから声が聞こえだした。


「あの声は!」

「心配するな。まだ遠い」


「こちらも準備出来ました! 逃げましょう!」


 不安な声をあげるソフィーを落ち着かせ、エイミーの合図で俺たちは荷馬車に乗り込む。馬の状態が気になるが、今はそんな猶予はない。プロであるエイミーを信じるだけだ。


「出ます!!」


 ぼうっとしたまま立っているソフィーの頭を押さえつけながら、荷台で低く構え、急速な発車に備える。エイミーのスキル【激走】の影響か、ドンという音と共に、野営地から急発車する荷馬車は、その勢いのせいで幌の骨組みが少し歪んでしまった。


 瞬く間に夜の森を抜け、再び街道に出た俺たち。

 運悪く、そこで別働隊に出くわしてしまう。向こうはいきなり出て来た不審な荷馬車に驚き、馬が暴れるなど、少々混乱気味だ。やるなら今か。


「エイミー。俺はここで奴らを食い止める。お前たちは目的地にそのまま進んでくれ」

「了解です! アハトさんご武運を!」


「えっ!? ちょ、ちょっとそんな急――」


 エイミーにソフィーを託し、俺は荷台から飛んだ。

 肩越しに主の声が聞こえたが、それも荷馬車の加速と共に掻き消える。


 敵は騎乗した兵が五名。

 槍兵、盾兵、弓兵、僧兵、そして魔導兵。これはバルトランザ王国の基本編成だ。王国の始祖が冒険者ということもあり、大軍なら別々に分かれている兵科も、こうして一小隊になるとこの組み合わせになる。これは騎士も国境警備兵も変わらない。まあ隊長の主義でいくつかパターンはあるが、そうたいして激変するほどでもない。


 そして俺がまず狙うは僧兵。

 厄介な回復を使われると、殲滅に時間がかかる。僧兵は陣形の都合上、後衛に位置するが、俺の武器は鉄の錫杖なのでなんとか届く――というか投げた。


「がはっ!!」


 投げた錫杖が奴の喉元に当たった。

 これで回復魔法を唱えることは出来ない。攻撃を受けた衝撃で僧兵は落馬し、無残にも暴れていた馬に踏み殺される。俺のせいではない。奴の運が悪かっただけだ。


 まずはひとり。

 俺は乗り手を失った馬に飛び乗り、馬体の揺れに耐えながらも馬の挙動を制する。


 いきなり背後を取られてギョッとする残りの兵に構わず、俺は五星剣の一本を呼び出し、続いて魔導兵を狙う。僧兵とセットで後衛を守る魔導兵は、あわてて魔法を唱えようとするが、俺の剣の方が早い。五星剣を突き立て、奴の心臓を狙う。


「させるか!!」

「――!」


 間一髪というべきか、俺と魔導兵の間に盾士が割り込んだ。五星剣は盾によって阻まれ、一度体勢を整える。だがその暇も与えてもらえないのか、側面から槍兵の突き放つ槍が俺を狙う。


 すかさずその槍を避け、もう一本呼び出した魔剣を槍兵へと飛ばす。バターを切るかのように魔剣は槍兵の上半身を切り裂き、馬上に大量の血が降り注いだ。


 順番は変わったが、俺は攻撃を止めない。

 ようやく魔法を唱え終えた、魔導士の放つ火球が俺を襲うが、そんなものはダンジョンに巣食うドラゴンの炎に比べると【発火石】で少し火傷を負うようなものだ。


「ば、馬鹿な!!」


 俺が火球を手の甲で殴り消したのが信じられない魔導兵。レベル差があればこれくらいなんのことはない。驚愕の表情を浮かべる奴には悪いが、そのままの表情で死んでもらう。


 さきほど槍兵を切り裂いた魔剣が次に狙うのは当然、魔導兵だ。俺の意志が魔剣に反映され、予定通りその表情を保ったまま、奴の首が宙を飛んだ。


「クソっ! クソオオオ!!」


 気の短い盾兵は長生き出来ない。

 これは冒険者時代にソニアに聞いた言葉だ。


 耐えることを信条とする盾士が動揺していては、守れるものも守れない。背後で守っていたはずの魔導兵が死に、自分の実力に絶望しているのは構わないが、そんな隙を見せれば戦場では確実に死ぬ。


「がはあっ!!」


 盾兵の喉から剣が現れた。

 当然、俺の魔剣だ。


 別の魔剣を奴の丁度中心に出現させ、内部から攻撃させた。次元を超える魔剣ならではの攻撃方法だろう。だが歴戦の戦士には効かないかもしれない。彼らは自身の体にめぐる魔力の流れにも敏感だ。それに些細な揺れが生じれば、すぐにでもその場から移動してしまう。たぶんあのアルテシアという女性騎士にも効かないだろう。


 盾兵はその辺が未熟だったということだ。

 俺の魔剣は奴の喉から飛び出すと同時に、次元の向こうへと帰っていく。


「ひいぃぃぃっっ!!」


 最後に生き残った弓兵が馬上で怯えている。

 それもそうだろう。一瞬にして自分の仲間が全滅したんだ。俺もその経験があるから、こいつの気持ちはわかる。混戦状態ではむやみに弓が打てない。そこはきちんと訓練通りに守っているんだろうが、何も出来ずに死ぬのは無念でしかない。


「一本だけ打たせてやろう。俺に弓を引け」

「ひいっ!!」


 ダメだ。怯えて話が通じない。

 俺は最後に弓兵の意地を通させたかった。仲間が殺され、自分自身だけになったとき、俺はあの火竜に何も出来なかった。必死でソニアを担ぎ、他の仲間の死体は置き去りにし、逃げるだけで精いっぱいだった。今でも後悔している。たとえ死んでもいい。奴に一矢報いたかったと。


 俺の意図が読めなかった若い弓兵。

 空しさだけが残り、俺の魔剣は弓兵の最後のチャンスさえも切り裂いた。


 足止めは完了した。

 だが追手はまだいる。


 今も遠くから聞こえるのは、あのおしゃべりなガキの声だろう。おおかた隊長のバストゥーザから貧乏くじを引かされたと思って、この地域を捜索しに来たに違いない。怒声をあげる奴の声がそう語っている。


 辺りには顔も知らない同僚だった兵の死体が横たわり、乗り手を失った馬たちが右往左往している。運よく逃げる足が出来た。こいつらをエイミーに渡せば、少しはあの馬の負担が減るだろう。


 手綱をまとめ、俺は逃走を再開する。

 【激走】で疲れ果てた馬に、これ以上距離を稼ぐことは出来ない。せいぜい山あいを越えたところでへばっているに違いない。このまま走り続ければ、朝までにはソフィーたちに追いつくはずだ。


 落とした錫杖を背に差し馬を駆る。

 不正出国者のうえ、同僚たちを殺し、未だ逃走を続ける現状。もうあの国に戻ることは出来ない。だが後悔はない。俺はやるべきことをやっただけだ。主を守ると言う大義名分もある。


 イグザールと言う言葉は、その昔、世渡りびとが持ち込んだ言葉だという。亡命者、追放者。いろいろと意味はあるが、すでに消えてしまった意味の言葉もあったらしい。



【放浪者】



 俺はとうとう世界の放浪者となってしまった。

 イグザールという放浪者に。


 どこにも属さない、孤立無援の状態。

 ただ、この短い時間のなかで、あの少女を守り、生き伸びる。


 俺の人生がまたひとつ面白くなっていく。

 あの退屈だった十五年の歳月が崩れ去り、また冒険者時代の熱が俺のなかに宿ったような感覚。


 「ソニアよ! そこで見ているか。俺は今、自分の人生を生き直しているんだ!」


 満天の星空に浮かぶ、消えることのない五星に向かって、俺は手を伸ばし、叫んでいた。


 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。



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