錬金術師と騎士 Episode. 0
◾カレン4歳、パウル7歳の初対面。
「おままごと、しよ」
妖精のように愛らしい幼女はそう言って、パウルを自分の子供部屋に誘った。
女の子らしい遊びに縁のなかったパウルだが、相手をしてもいいかな、と思ってついていく。
「ここ、わたしがせっけいしたの」
表情のうすい子どもは、扉を開けて、振り向いた。
そこは……思ってたのと、だいぶ違った。
サイズは子ども用だが、「おままごとセット」と呼ぶにはかなり本格的なキッチンだ。コンロに保冷庫。流しに料理台。湯をわかすポットまでついている。
……ただ、謎の実験器具らしきものは必要なんだろうか。
カレンは無言で保冷庫から何かを取り出した。それをコンロで炙って、べちゃりと皿にのせ、パウルに差し出す。
「これ、からだにいいんだって……」
「…………っ」
────焦げた何かの目玉だった。パウルは声にならない悲鳴をあげた。
おそるおそる一口食べてみたら、案外おいしかった。でも、それ以上はやっぱり無理だった。
◾カレン7歳。パウル10歳。
「これ、つくったの……」
無表情の少女が差し出したのは、精巧な機械時計だった。
「お前やっぱすごいな……あっ」
パウルはうっかり手を滑らせて、それを床に落としてしまった。バラバラになった時計を見て、少年は青ざめる。はっとカレンを見ると、少女は目に涙を浮かべていた。
「…………パウルひどい。きらい」
初めて見た泣き顔……そして嫌いという言葉に、少年は大いにショックを受けた。
「ごめんな、おれ何でもするよ……!」
「ほんとに?」
必死で謝ると、少女は涙を拭って顔を上げた。どうやら許してくれるらしい。
そして言ったからには、実験台でも何でもやろうと、パウルは覚悟を決めた。
「……………じゃぁ……肩車……」
パウルは、カレンの肩車を三時間してやった。
◾カレン12歳。パウル15歳。
騎士見習いになったパウルは、ある日、落馬して足を骨折した。その夜は熱を出してうなされていたのに……翌日には、きれいに治っていた。
すっきり目が覚めた翌朝。
目に涙をためた少女が、こちらを覗きこんでいた。カレンの泣き顔を見るのはこれで二度目だ。時計を壊して以来だと思う。
「カレン、お前が足を治してくれたのか……?」
「……うん」
「そうか、ありがとな」
「……私、パウルがどんなケガをしても治せるように、いっぱい研究するね。
万一パウルに何かあっても、地獄の底まで追いかけて蘇生させてみせるよ……」
「おれは地獄行き決定かよ」
……結婚後、カレンにこの話をされるまで、パウルはすっかり忘れていた。
そして、拗ねたカレンに耳毛だけ伸びる薬を盛られた。そういえば、前は全身の毛が伸びる薬を盛られた。
いい加減毛から離れてほしい。
おしまい。




