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万慧の錬金術師と、黒鋼の騎士  作者: es


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14. 変化

 翌日。

 探索機の情報をもとに、さっそく迷宮攻略作戦を練ることになった。カレンが声をかけて集まったメンバーが、会議室で一堂に会する。

 カレンは、少数精鋭で攻めた方がいい、と主張した。よって、作戦の任務に当たるのは以下の面子となった。


 メンバーの中で、もっとも重要な役割を担うのは、パウル。彼が《ティネル》に敵認定されないことは、新たに捕獲した個体で検証済みだ。さらに、飛行などの特殊能力を有しているため、彼が主に"女王"への攻撃を行う。


 そしてもう一人の前衛、騎士エイデン。彼の実力は、騎士団でも一、二を争う。常に冷静で、なおかつ非常に胆が座っており、今回の作戦遂行にあたっては、小回りのきく様々な役目をこなす。


 そして、レファとカレンの二人。レファは大規模な魔導で《ティネル》の"卵"を焼き払う。カレンは錬金術の道具を装備して、パウルを援護する。




 ────迷宮攻略にあたって、カレンはある条件を出した。


「……パーティは四人までだからね」

「なんで四人なんだよ?」


 パウルが首を傾げる。すると錬金術師は、ポケットから、液体を封入したガラス菅のようなものを取り出して掲げた。


「じゃーん。これは何でしょう」

「よくわからんが、赤くて不気味な液体だな……」

「元はパウルの血液だけどね」

「それを早く言え! てか、いつ採取したんだよ!?」


 キレるパウルに、けれどカレンは悪びれない。やる気のないいつもの調子で、ガラス管をひらひらさせた。


「少し前に血を取ったでしょ……あれですぅ」

「何かに使うとか聞いてねえぞ!」

「言ってないしねぇ」


 無表情のまま、べーっと舌をだして幼馴染を挑発するカレンを、レファが「やめなさい」と目で制し、ぷんすか怒っている青年を「まあまあ」と宥める。

 この二人、仲が良すぎて喧嘩ばかりしている。微笑ましいとは思うけれど、こんな時までやりあうのはやめてほしい。


 ……レファは、以前の"彼"を知っている。穏やかで優しげだった"彼"と、同じ魂を持つ者が、目の前にいる。けれど、たとえ魂が同じでも、生まれ変わると性格はかなり違ってしまうらしい。

 だからだろうか。"イゼル"はまだ目覚めない。


 魔導師はやれやれとため息をつきながら、錬金術師が持っている赤い液体について尋ねた。


「……で、それは何?」

「これはね、《ティネル》に襲われなくなる薬。いわば血清……!」


 よくぞ聞いてくれました、とばかりに水色の瞳を輝かせて、錬金術師は赤い液体の説明をする。


「パーティを四人だけにしたのは、パウルを除いて、三人分しか血清が作れなかったから。量産する時間がなかったんだ……もたもたしてたら、"女王"の雛が目覚めちゃうかもしれないし。

 それと、この血清の効果は二時間。それまでに"女王"を破壊して、迷宮から脱出しなきゃだめ」


 錬金術師の説明に、ダークエルフの魔導師は頷いた。


「……足手まといを大量に連れていっても困ったことになるし、いいんじゃないかな」

「了解した」


 レファが淡々と辛辣なことを言い、エイデンは短く了承する。


「おれの血でできたものを他人に注射するなんて、ぞっとしねえな……」

「いちいちうるさい。私の発明にケチつけるな……」


 ぼやくパウルにカレンは眉を寄せた。だがそれ以上はつっこまず、


「そういうことだから、この四人で頑張ろー。えいえいおー」


 山登りにでも行くような気楽さで、錬金術師はやる気なく鼓舞する。そんな彼女を、幼馴染の青年は少し複雑な表情で眺めていた。



 ◇◇◇



 実は、パウルにはカレンに伝えてない不安があった。────自分は本物の《ティネル》になりつつあるのではないか。そんな予感だ。


 その理由の一つは、身体が様々な変化を来たしはじめたことだった。


 たとえば睡眠。

 《ティネル》は基本的に眠らない。取りこんだ魔力が切れるまで、ひたすら活動を続ける。

 今のパウルもまた、睡眠をほとんど必要としなくなっていた。一晩中起きても、それが何日続いても、ちっとも眠くならない。


 それから《ティネル》の機能を稼働させるために必要な、膨大な魔力。今はカレンが補給してくれているが……万一枯渇した時はどうなるのだろう。

 もしも魔力を求めて誰かを襲いたくなったら。そうなった時、その衝動を自力で止められるのだろうか。

 あるいは、《ティネル》の核が完全になじんだが最後、彼自身もバケモノの群れの一部になってしまわないか……


 以前、頭に流れてこんできた迷宮の映像も、パウルの心に影を落としている。あれは、《ティネル》になりかけた自分が、"女王"の存在に呼応したのではないか、と。




 ……カレンの受け売りだが、多くの生き物は、「神経」を介して、脳から体の各部に命令を出しているという。目などの感覚器から得た情報も、「神経」を通して脳に伝わる、らしい。


 あの時────迷宮の映像を見る直前の、一瞬の幻覚を思い出す。


 暗闇のなか、半透明の《ティネル》を線で結んだ回路のようなもの。あれが、"女王"と個々の《ティネル》を繋ぐ「神経」だとしたら。

 パウルの想像が正しければ、彼自身がすでに、網に絡め取られている可能性が有りはしないだろうか。




 自分が異形になったこと。さらなる変容を遂げたこと。それらが、彼に言いようのない不安を呼び起こす。不安は常につきまとい、考えればきりがない。


 ……だが、パウルは軽く頭を振った。

 考えて答えが出ないなら、目の前のやるべきことに集中すべきだ。

 少なくとも、"女王"と《ティネル》を倒さない限り、帝国は滅亡し、彼の"人"としての先は望めないのだから。



 ◇◇◇



 そして数日後。すべての準備が整った。

 皇帝から勅命を賜った四人が、帝国を救うため、地下迷宮への潜入を開始した。

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