「008」過去と
「やめてよぉ」
幼い頃、私はよくいじめられていた。
私は不器用で……ドジだったから。
「ドジー! おまえのせいで負けたんだからな!」
「そうだ! そうだ!」
勝負に負けたらいつも私のせい。
「こらー! やめろー!」
でも、そんなとき、必ず彼が助けてくれた。
喧嘩が得意じゃないからいつも負けてばかり。
それがたまらなく嫌だった。
今の弱い自分が嫌いで彼に相応しくないと思い、私は自分を鍛えた。
不器用なりに頑張った。
そんなとき、ゆうのおじさんとおばさんが離婚した。
それから、ゆうは家族に執着し始めた。
私も立派な姉としてふるまった。
最初はそれでもよかった。
でも、最近は胸がもやもやする。
この気持ちはなんだろう。
ピンポーン。
玄関チャイムの音で俺は目を覚ました。
……えっと、今何時だ?
カーテンの隙間から差し込む日差しに目を細めながらスマホを見る。
時刻は七時二十三分。
こんな朝早くに誰だ?
起き上がり、俺は玄関に向かう。その間もチャイムは鳴り続けていた。
「はいはーい」
玄関のドアを開けると、作業着のおっさんズがいた。
「どうも。引っ越し業者の者ですが、荷物運んでもいいですか?」
「え、は?」
寝起きだから頭が回転しない。
「……ああ、家を売ったってマジだったのか」
冗談じゃないだろうと思ってたけど早朝からやるとは思わなかった。行動早すぎだろ。
呆然とした俺におっさんがおずおずと声をかけてきた。
「あ、あの荷物運んでもいいですか?」
「……キャンセルとかできませんか?」
「その、契約者が違うので……」
ただ住んでいる俺よりも家の権利者である父さんのほうが上ということか。
「……わかりました」
さすがに引っ越し業者に怒るのは筋違いだ。
しぶしぶ俺は家を明け渡した。