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「006」無くなった家

「おー、悠か! 今帰ったぞ」


 げ、父さん!


「こ、こんばんは」


 俺からパッと離れた真央が慌てて頭を下げる。


「おー、真央君か。大きくなったなぁ!」


「お久しぶりです」


 ……もはや先ほどの雰囲気は消えてしまった。


 よかったという気持ちと残念という気持ちが胸の内から湧き上がってきた。


 ……って、残念ってなんだよ。真央と俺は家族みたいなもんだろ。……もしも、家族じゃなくなったら。何か失敗してしまったら……きっと俺と真央の関係は崩れるだろう。 こうして家に来ることもなくなる。それが一番怖い。


 だからこそ、俺はこのままでいい。今の家族は真央だけでいい。


「父さん! 帰ってくるのは明日じゃなかったっけ?」


「その予定だったんだけどな。土地の交渉が上手くいってな」


 不動産で土地の売買について仕事をしている父さんは日本中を駆け回っている。かなりの敏腕らしく仕事が途絶えたことがない。


 見た目はバーコード頭に紺の背広で、まさに典型的な日本のサラリーマンなんだけどなぁ。


「お前に会いたくてな。早めに帰ってきた」


 ……嘘くさい。


 俺と父さんの仲はあまり良くない。家に住まわせてもらっている以上、感謝はするが親愛などは皆無だ。なにせ父さんは自分のためならなんでも利用する男だ。それに愛想をつかして母さんに逃げられたくらいだ。


「それよりだ。悠に話がある」


 父さんがちらりと真央を見る。真央に聞かせたくない会話か。


「じゃあ、私はこれで失礼します。じゃあね。ゆう」


「ああ。悪いな。真央」


「ううん。気にしないで。また明日ね」


 真央が席を立ち、去っていった。椅子に座り直して俺は父さんを見据えた。


「……で、突然帰ってきて、用件は一体なんだよ」


 相変わらずの身勝手ぶりだ。


「その前にお前、真央君と付き合ってるのか?」


 ぶっと思わず吹き出してしまった。


「な、なんだよ急に!」


「大事なことだぞ」


 父さんの真面目な顔からすると冗談というわけではなさそうだ。


「べ、別に付き合ってないけどさ」


「そうか。なら良かった」


「なんだよ。その言い方。真央と付き合っちゃ駄目なのかよ」


「ああ、駄目だ」


 は? 父さんは何言ってんだ?


「誰と付き合おうが俺の勝手だろ!」


 喧嘩腰になってしまう。しかし、それも仕方ないことだ。いくら父さんでも俺の付き合いに口を出す権利はない。


「そんなんだから母さんに逃げられ――」


「お前には許嫁がいるからな」


「はい?」


 目が点になった。


 聞き間違えかな? 許嫁って聞こえたような気が。


「つい先日、父さんの親友と会ってな。向こうには16歳になったばかりの女の子がいるんだよ。その時、昔、互いの子を結婚させる約束したことを思い出したんだ」


「いやいや、何考えてんだよ。そんなの俺関係ないじゃん」


「だが、美味い話だぞ。なにせ向こうは相当の資産家だ。結婚すれば一生遊んで暮らせるぞ。これはお前のためでもあるんだ」


 よく言うよ。そりゃちょっとは俺のことも考えてくれたのかもしれないけど大半は自分のためだ。


 その資産家と親戚になれば土地の仕事が増える。いや、もしかしたら、この話を持ちかけるためにいくつかの土地を紹介したのかもしれない。仕事人間の父さんならそれくらいはする。


「絶対に嫌だ」


「拒否はできんぞ。なぜならお前にはもう住む家がないからな」


「……は?」


「この家を売った」


「え、いや、マジで?」


「マジだ。明日には業者が来てお前の荷物持っていくからな」


「いやいや! ふざけんなよ!」


「わがまま言うな!」


 父さんが一喝するが、こっちこそわがまま言うなと言いたい。


「そういうことだから準備はしておけよ」


 それだけ言うと父さんは部屋から出て行った。


「父さん!」


 最後に俺は叫ぶが、父さんが戻ってくる気配はない。こうなったときの父さんは梃子でも動かない。


「はぁ……、なんだよそれ」


 残された俺は冷めたハンバーグを食べる。


「……まずい」


 上手く出来たはずなのに。父さんと話した今では残飯みたいだ。いつの間にか真央と俺が作った暖かい雰囲気は消え去っていった。


 早く家から出たいと思っていたのにこんな形で家を出ることになるなんて思ってもみなかった。


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