エピローグ
「ゆう、料理は上手くいった?」
「ほどほどな」
「えー、先輩。ほどほどじゃないっしょ」
朝、俺たちは揃って登校していた。陽ざしは眩しく道の先を照らす。
「めちゃくちゃ上手かったです。あんなに美味しい卵焼きは初めてです」
なんかべた褒めだけどそんなにいい出来だったかなぁ。
俺が食べたときは『まずい』って思ったんだけど。
……レトルトばかり食べてたから亜里沙の味覚はおかしくなってたとか?
「さすがはゆうね」
「いや、真央の教えが良かったからだ」
「ゆう……」
真央は感動したようなじーんとした表情で俺を見つめる。実際真央のお陰なんだけどな。俺だけだったら卵焼きという選択肢すらなかった。
「良い子ね」
真央が優しく頬を撫でる。子供みたいな扱いだが不思議と嫌ではない。
心地よい時間が流れる。
だが、そこに亜里沙が無理やり俺の左腕を掴んで引き寄せた。
「な、なんだよ」
「あたし、卵焼きめっちゃ好きになりました。毎朝作ってくださいね。先輩」
「毎朝は飽きるんじゃないか? ……ま、気に入ったなら作るけどさ」
「なんかプロポーズっぽくないですか? 毎朝、俺に味噌汁作ってくれ的な」
「ば、ふ、普通逆だろ!」
「あははは! 先輩照れてる!」
「亜里沙。あまりゆうをからかわないで」
真央が俺の右腕を掴んでそっと寄り添う。これで両手に花だ。
いつもの亜里沙なら『えー、面白いんだもーん』と小悪魔チックに笑うところだが。
「からってないです」
真顔で言い切った。
「え?」
「亜里沙。それってどういうことなの?」
突然の変貌に俺と真央が困惑した。
「んふふふふ」
手で口元を押さえて笑う亜里沙。な、なんか企んでるような笑い方だな。
「先輩、ちょいちょい」
亜里沙が手招きする。仕方なく亜里沙に顔を寄せると、
「先輩、真央先輩にはできないこと、あたしならしてあげますよ」
亜里沙が耳元で囁いた。
「は?」
「たとえば、こういうのとか」
亜里沙の唇がすっと近づいてきて、
「ふぅ~」
耳に息が吹きかけられた。
背筋がぞくぞくっとした感覚。
「は!? お、おまっ」
驚いて亜里沙の顔を見るとにんまりと笑っていた。
「どうでした? あたしの初キス」
「は、初キス!?」
真央が声を上げる。どうやら真央の位置からは耳に息を吹きかけるところが見えていなかったみたいだ。
「あ、亜里沙。そ、それはちょっとからかいの領分を超えてるんじゃない?」
冷静に言おうとしてるが、真央の頬がぴくぴくしてる。
「えー、そうですかー? こんなのちょっとしたいたずらだしー。くやしかったら真央先輩もやってみればいいですよー」
「い、いや、待て。これは」
亜里沙の罠だ!
「そ、そうね」
や、やめろ! 迫ってくるな!
逃げようとしたが両腕を固定されているため逃げられない。
「だ、大丈夫。いたずらだから」
「お、落ち着けって!」
「ゆう、亜里沙にはキスしても私には出来ないの?」
「そ、そういうことじゃなくて」
「……ゆう」
真央の顔が近づいてきて唇と唇が合わさる瞬間――。
「や、やっぱり駄目っ」
急速に進路を変えた。
「いてぇ!」
「っ!」
そのせいで俺と真央はヘッドバッドしてしまった。
「あはははははっ! 真央先輩、あたし初キスしてませんよ」
「……騙したのね?」
真央がじろりと睨みつける。
「亜里沙。あんまりからかうなよ」
酷い目に合うのは俺なんだから。
「ごめんなさい。先輩。その代わりに今度はちゃんとしてあげますね。今はこれで我慢してください。――ちゅ」
雑な投げキッス。
「な!?」
それでもいたいけな男子を弄ぶのには十分だった。
「先輩、顔真っ赤だし!」
亜里沙が笑いながら俺から離れる。
「亜里沙。ゆうをからかうのはやめなさい」
それを追いかけて真央も離れる。
はぁ、朝から一苦労だ。でも、それも悪くない。俺たちは家族なんだから。
真央は『同学年の幼馴染』で亜里沙は『同居してる許嫁』。……だけどこれって家族っていうのか?
この先どんな関係になっていくのか、まだ神すらもわからない。
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