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「035」卵焼きと

――亜里沙視点――


 先輩おっそいなー。げ、もう七時すぎてるじゃん。どうせ真央先輩の料理教室上手くいってないんでしょ。


 またカップ麺かなー。ま、慣れてるからいっか。


 そういや、先輩ってばあたしのこと『家族が恋しいさみしい子』って思ってるっぽい。


 でも、しょーじきさ。あたしは別に家族のことよくわかんないだよね。


 気づいたときからお母さんいなかったし、あの人だって基本いないし。


 だから、家族のぬくもり? とか感じたことないし。


 先輩、色々とお節介してくれるのはちょっと嬉しいんだけどね。


 あたし自身をちゃんと見てくれる人ってそんなにいないし。


 大体はあの人がらみ。


 だから、そういう人を大切にしようって決めてる。


 ついからかっちゃうんだけどね。だって、面白いんだもん。


 そのとき、携帯に悠から電話がかかってきた。


「どうしたんですか? 先輩」


「いや、ちょっと遅くなりそうなんだけど……」


 亜里沙が思った通りの展開に軽く息をつく。


「あー、やっぱり」


「……ぐ」


「先輩、無理しなくていいですよ」


「簡単だと思ったんだけど意外と難しくて」


「簡単だけど難しい……。それってから揚げですか? やばいじゃん! もう料理のプロじゃん!」


「いや、から揚げじゃない……。というか、簡単じゃないだろ、あれ。衣とか油使うの大変そうじゃないか?」


「えー、じゃあ思いつかないし」


 料理をしない亜里沙にとってこの程度の知識しかなかった。食べることにこだわらないから興味もない。


「てか、そんなことより遅くなるならマック行きましょ。マック」


「それは――」


「亜里沙」


 突然、悠の声が真央に変わった。


「ゆうはあなたのために頑張っているの。少し待っていなさい」


 そういうことを言われたら亜里沙としては強く言えない。


「わかりましたー」


 仕方ないことかと思って無理やり納得していると、


「ゆう、卵を割るときはあまり力を入れなくていい。そんなにバラバラだと黄身(きみ)(たまご)(から)が入る」


「こ、こうか?」


「うん、そう。でももうちょっと力抜いてもいい」


「あ、ああ。――あ、上手く割れた!」


「さすがはゆうね。偉い偉い」


「……子供じゃないんだから撫でるなよ」


 なんかちょっとイラっとした。


「先輩ー!」


 わざとらしく大声を出す亜里沙。悠と真央の意識が亜里沙に向いたことを直感で感じた。


「もしも、上手くできたら……『いつもの』してあげますよ!」


「……」


「……」


 悠と真央の沈黙(ちんもく)が続く。


「ゆう、いつものって?」


 ようやく発せられた真央の声は、冷たい刃のような切れ味が含まれていた。


「いや! ちょっと待て! 誤解だって!」


「勘違いって? ちょっと詳しく聞かせて」


 電話の向こうからドタバタと音がする。どうやら悠が真央から逃げ回っているようだ。


「あはははは!」


 それを聞いて亜里沙は満足げに電話を切った。


「やっぱ先輩はからかいがいがあるし!」


 ひとしきり笑い終えると、途端(とたん)に部屋が広く感じた。


 おかしくない? いつもと同じ部屋なのに。


 なんでだろう。


 そうしてとりとめなく考えていると、亜里沙の(まぶた)が次第に重くなる。


 今度……先輩からかって、あそぼ。


 なんか眠くなってきた。


 ………………


 …………


 ……


 やば! ちょっと寝ちゃった! 今、何時だっけ!? げ! 十時過ぎてるじゃん! 先輩、なにやってんの!?


「おーい、晩御飯(ばんごはん)出来たぞー」


 おそっ。


 さては出来なくて結局レンチンになったなぁ? からかってやろ。


 自分の部屋から出た亜里沙はリビングのドアを開ける。


 自信満々(じしんまんまん)な悠が待ち構えていた。


「先輩、いつ帰ってたんですか?」


「ついさっきだよ。一応部屋の外から声かけたんだけどさ」


 全然気づかなかった。


「部屋入ってきて起こしてくれてもよかったのに。そしたら寝顔とか見ホーダイですよ」


「……そういうわけにもいかないだろ」


 ほんとは興味あるくせに。そういう変に真面目なところが面白い。


「料理教室がちょっと長引いてさ。でも、そのお陰でばっちりだ」


「はら、早く座れよ」


 ウエイターみたいに椅子を引いてくれる。


 食卓の上には――。


「え」


 卵焼き。


 オンリー!? マジで?


 しかも、山盛りじゃん!


「これって――」


 亜里沙の言葉が途中で止まった。気づいたからだ。悠の手は絆創膏(ばんそうこう)が貼られており、頬には卵の黄身がついてる。


 そんな姿見ちゃったらなんも言えないじゃん。


「すごいだろ! 弁当に入ってるものと変わりない出来栄えだろ!?」


「先輩、すごいね」


「だろだろ?」


 子供みたいにはしゃぐ悠。かわいーんだけど。


「ほら、食べてくれ! 亜里沙が一番最初だ!」


「い、いただきます」


 卵焼きを一齧(ひとかじ)り。


 まず殻が入ってじょりじょりしてる。


 若干、焦げもある。


 ただそれでも――。


 一瞬、幼い頃の母の姿が亜里沙の脳裏をよぎった。あまりにも幼いため忘れていた記憶。


 あ、そっか。あたしにも家族いたんだ。


「美味しい」


 心がぽかぽかと温かい。


 思いが口から飛び出そうだ。


「だろ!?」


 悠が笑いかける。別にイケメンというわけではない。


 それなのに――。


 恰好良く見えるんだけど!

 やっばー! 先輩! めちゃくちゃキュンじゃん!


「うん、美味しい。これマジで飛ぶじゃん」


「あ、亜里沙」


 なぜか悠が戸惑った顔をしていた。


「なに?」


「いや、その、ほっぺ」


「ほっぺ?」


 なんか濡れてる?


 涙がこぼれ落ちた。あれ? おかしくね? だって、悲しくないんだけど。


 むしろ嬉しい。


 ……あ、そっか。


 嬉しいときの涙ってこういうのか。


 普段ならメイクが落ちるからすぐに涙を拭く。


 でも、今はそんな気になれなかった。


 気まずそうにしている先輩を見て亜里沙は笑った。


 ――亜里沙視点――

「面白い!」



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