「033」風呂場と
……余った時間で何かしたいな。
そうだ! 風呂場の掃除をしておくか。
風呂場はマンションとは思えないほど広さだった。ゆうに二人以上は入れるよ。
す、すげー広いな。掃除道具も全部新品だ。……って、待てよ。何で掃除道具まで新品なんだよ。もしかして、誰も掃除してないのか?
よく見れば、風呂の隅には黒カビがはびこっていた。
ってことは排水溝も……。
「先輩ストップ!」
亜里沙が慌てて風呂に入ってきた。いつものルームウェアと違って上にTシャツ、下は短パンだ。モデルとは思えないくらいラフな格好だ。
「ど、どうしたんだよ」
「そ、そこはあたしがやりますし」
「なんで?」
他のところは俺がやったのにどうしてここだけ?
「だ、だって、恥ずかしいし」
「なんだって?」
「い、いいから! 排水溝以外やって!」
「わ、わかった」
追い立てられるように俺は排水溝から遠ざかる。
……女子って難しい。
仕方なく俺は這いつくばって風呂の隅でカビと戦う。
この! 落ちろ! カトンボ!
ロボットアニメのような熱いディスカッションを繰り広げながらカビと戦うが相手もなかなかの強さだ。
人力では無理と判断した俺は立ち上がった。
「えい!」
そこに熱いシャワーが顔にかけられる!
「うわ! ちょ!」
あちちち! 結構熱いんだけど!
「あははは! 先輩! さっきのお返しだし!」
亜里沙は笑いながら更にシャワーを浴びせてくる。
よほどさっきの出来事が悔しかったみたいだ。
「いぇいいぇい、先輩! 悔しいでしょ! あたしに逆らった罰じゃん!」
「わ、悪かった! だから、ちょっと弱めてくれって!」
「嫌!」
「あばばばば!」
く、口にお湯が入ってくる! もはや完全にずぶ濡れ状態だ。
しばらくシャワーをかけられていたが、やがて亜里沙は満足したらしく攻撃の手を止めた。
「あー面白かった」
にこにこと満足顔の亜里沙。対して俺は仏頂面だ。濡れた髪がおでこに張り付いてうざい。
「これに懲りたらあたしに逆らうなんて真似すんなし」
亜里沙がシャワーを置いて俺に背を向ける。
さっきとは真逆の結果だ。だが、この瞬間を待ってたんだぁ!
「だが断る!」
俺はシャワーを奪い取って亜里沙に向ける。
「え」
シャワーが亜里沙の身体にクリーンヒットした。顔に向けないのは武士の情けというやつだ。
「っ! せ、先輩! ずるいし!」
「何がずるいんだよ! そっちだって不意打ちしただろ!」
「レディファーストってやつだし!」
「あれは先制攻撃って意味じゃない!」
「ちょ、ちょっと先輩、服濡れるし!」
「いいじゃんか! 俺だって濡れてるんだぞ!」
って、あれ……?
亜里沙はTシャツだ。ということは濡れてしまうと。
「……あ」
――透けて黒い下着が見えてるんだけど。
「何見てるんですか? せん――」
動きが止まった俺の視線を亜里沙が追って――気づいてしまった。
慌てて亜里沙が自分で腕で胸を隠す。
「……」
「……」
なんともいえない嫌な沈黙。
「これが狙いだったんですか?」
優しい問いかけのように聞こえるが明らかに亜里沙は激高していた。
「ち、違う」
「……何色でした?」
「黒」
即答。しかし、それがまずかった。
「先輩の馬鹿!」
平手打ちの音が風呂場に響いた。
「面白い!」
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