「030」シーソーゲームと
授業が終わり放課後が来た。今日はバイトも休みだから……そうだ。真央に頼みがあったんだ。
立ち上がりかけたそのとき、
「ゆう、今日は暇ね? なら、うちに来なさい」
真央がやってきた。幼馴染ならではの唐突な誘い。第三者が聞いた変な誤解されそうだな。
「糞野郎が」
……早速、早雲や男子たちが変な誤解してるよ。というか、人を殺す目じゃんそれ。クラスメイトに向ける視線じゃないからな。
「料理教室の件だろう? わかってる。自炊しなきゃいけないもんな!」
「そう」
わざとらしく説明口調で言ったお陰で早雲や男子たちは穏やかな顔になった。そのまま興味を失ったみたいに教室から去っていく。なんてわかりやすいやつらだ。
「材料とか買いに行かなくていいのか?」
「今日は練習だから特に必要ない」
「わかった。でも――」
言いかけた時、教室のドアががらりと開いた。
「先輩ー?」
亜里沙が無遠慮に教室に入ってきた。
「えっと、どこかなっと。あ、いたいた! 先輩、来ましたよ」
「あれ? なんか約束してたか?」
「そんなことないですけど、どうせ同じ家に帰るんだから一緒に帰りませんか?」
「え」
今の誰かに聞かれなかったか?
辺りを見渡すが、既にクラスメイトたちは帰ってしまっていた。ほっと胸を撫で下すと、亜里沙がずいっと顔を近づけてきた。
「まさか、嫌とかじゃないですよね? だって、この前と違って帰る方向一緒なんですから」
「い、いや、それは」
確かに。俺と亜里沙は同じ家に住んでいるという共通点が生まれた。いずれ疎遠になるという未来は既に不確定なものだ。
だとしたら断るほうが不自然じゃないか? というか、こんな可愛い子と一緒に帰れるなんて本当ならめっちゃ嬉しいところなんだけど――。
「なんなら、手を繋いで帰ってもいいですよ」
そっと耳元で囁く亜里沙。ちょ、耳がぞわぞわってした!
「ほら、手を繋ぎたくないですか? せ~んぱい」
女子と手を繋いで帰る。
確かに理想的だ。
でも――、
「駄目よ。ゆうは私と帰るから」
真央が俺と亜里沙の間に割り込んできた。
「あ、真央先輩。おいっす」
俺の隣に真央がいるんだから絶対気づいてたくせに今、気づきましたみたいなわざとらしい挨拶だ。
「ゆう、私だって手を繋いであげる。お姉ちゃんとして当然だから」
「えー、それだけですかー? あたしと同じことで先輩満足しますかねー?」
亜里沙は完全に面白がっている。デビルウィング見えてますよ。
普段の冷静な真央ならそんな挑発は乗らないのだが。
「なら、私はゆうと両手を繋いで帰るわ」
「いや、それは無理があるだろ!」
俺が絡むとポンコツ化してしまう。
「えー、それダンスみたいじゃないてですか? そんなんで帰れますか?」
「私とゆうならダンスしながら帰れる」
無理だろ。
「なら、試しにやってみてください」
「いいわ。ゆう、立ちなさい」
「えぇ……」
「早く。お姉ちゃんの言うことを聞きなさい」
「わかったよ」
「立ったらこっち向いて」
真央の指示に従うと159センチの真央は背伸びをして顔を近づけた。キスしそうな距離に鼓動が止まらなくなる。
「こ、これでいいのか?」
……てか、胸が当たってるんだよ! 特に真央の胸は普通の女子より大きいからここまで密着してしまうと否が応でも意識してしまう。
一瞬誘ってんのか? という考えが頭をよぎる。
い、いや、真央はそういうつもりじゃない。
姉と弟の延長戦で考えているのだろう。
「ゆう、身長伸びたね」
「……そりゃ成長期だからな」
「そう、少し前は同じくらいだったのに」
ほんのわずかな郷愁を滲ませた声。真央の言う通り、中学の頃まではほぼ一緒か真央のほうが背が高いくらいだった。
「真央だって大きくなったよ」
「どこが? 背は何も変わってないけど」
胸!(大文字)
いや、マジで大きくなりすぎだろ。今でもずっと真央の胸が押し付けられているけど圧力がものすごい。
「……態度とか」
「姉だからね」
形の整った大きい胸を張る真央。いや、もうやめて。これ以上押し付けないで。姉として見れなくなるから。
だが、なんとか上手く誤魔化せたようだ。
「先輩のドスケベ丸」
……亜里沙以外は。
「? 亜里沙。ゆうはスケベじゃない」
「いや、めっちゃスケベってますって。だって」
「手を繋げばいいんだよな!?」
亜里沙の言葉を遮るように慌てて俺は真央と両手を繋ぐ。まるでダンスでもするかのような格好になってしまった。
……真央の手ってちっちゃくて柔らかいな。
改めて真央を異性として意識してしまう。
「ゆう、息が荒い」
「真央だって」
てか、お互い顔が真っ赤になってる!
「……」
「……」
ち、沈黙が重い。
まずい。想像以上に俺たちは異性として互いを認識している。
おそらくトリガーは『背丈を比べることで男女の差を明確にしてしまった』せいだ。このせいで俺たちは男と女であると意識してしまった。
「先輩たち、いつまでそーしてるんですか?」
つまらなそうな亜里沙の声で互いにはっとなった。
「そ、そうね。ゆう。じゃあ、息を合わせて右足から一緒に動きなさい」
「あ、ああ」
互いに向き合う。真央の顔が近い。睫毛、長いな。
なんか真央のやつ、俺の顔見てぽーっとした顔してない?
「ゆう、昔に比べると格好良くなってる(小文字)」
「じゃあ、行くぞ。せーのっ」
合図で俺は右足を動かすが何故か真央は一拍置いてから動いた。そのせいで目測を誤った真央の右足は俺の右足に着地する。
「っ!」
いってぇぇ!
一瞬、こけそうになるがぎりぎりでもちこたえた。
あ、危なかった。
「なんで俺の足踏むんだよ!」
「踏んでないわ」
「豪快な嘘つくな!」
俺と真央が睨みあっているのを見て、亜里沙が腹を抱えながら笑っていた。
「あははは! やっぱり駄目だったじゃないですか!」
悔しそうに真央がそっぽを向く。
「じゃ、先輩、あたしと帰りましょう?」
真央を押しのけて亜里沙が手を握ってくる。
「ねぇ、せ・ん・ぱ・い」
やめて。上目遣いで迫ってこないで。若干前かがみだから胸の谷間が見えるんだよ!
「ゆう、私と帰りなさい」
対して真央は視線を合わせないまま頬を染めてぎゅっと手を握ってくる。とてつもなく可愛らしい。
こっちもこっちで捨てがたい!
「亜里沙。今日は私が先よ」
「でもー、真央先輩の家って先輩の家の近くなら別方向でしょ。だったら一緒に帰れなくね?」
確かに。亜里沙の言う通り、今までだったら家が一緒の亜里沙と帰るのが自然だろう。でも、今回ばかりは別だ。
「ゆうは私の家に用事があるから」
「用事って?」
「ゆうは料理を習うの」
「……あー、先輩ってばこの前、料理失敗したの気にしてんだ」
「まぁ、な」
ぽりぽりと頬を掻く。心の内を言い当てられたから少し恥ずかしい。
「ふーん、そっかそっか。先輩ってば健気ー」
「そういうわけだから亜里沙は遠慮しなさい」
「嫌ですー。それはそれですー。てか、うちに帰った後で真央先輩のところにいけばいいでじゃないですか」
俺を挟んで睨み合わないで……。
「なら、じゃんけんで決めましょうか」
「ですねー」
「ちなみに俺が勝った場合は?」
「先輩に参加権はありません」
「ゆうに参加権はありません」
ステレオで言うなよ。俺の処遇を決めるのに俺が参加できないなんて横暴じゃない?
「「じゃんけんぽん」」
真央がグーで。
亜里沙はパーだった。
「あたしの勝ちですね」
亜里沙がにやりと笑った。
「……そう」
真央は平然としていたがこめかみがピクピク動いている。相当頭にきてるな。
「じゃ、先輩。いきましょー」
わざとらしく亜里沙が俺の腕を掴んでくる。真央を挑発するのはやめてほしい。ほら、こっち見てるじゃん。
「お、おい。離れろって」
「やーだですー」
女子特有の柔らかい感触に一瞬で鼓動が高鳴る。
「ゆう、鼻の下伸びてる」
真央のジト目がすごい。
あっちを立てればこっちが立たず。
……これからずっとこういうシーソーゲームが続くの? マジで?
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