「029」決意と
家事を教わるなら真央しかいない。
弁当の中身は卵焼き、から揚げ、きんぴらごぼうなどのオーソドックスなものだが、家庭的な魅力にあふれていた。それに真央はいつも俺の家の掃除や洗濯をしてくれていた。いつも俺の家が綺麗なのは真央の努力があればこそだ。俺に家庭的な喜びを教えてくれた真央ならば、家事の教師に最適だ。
「ゆうの家の家事ならお姉ちゃんがするよ?」
「隣同士ならよかったけど、今は場所が遠いだろ。毎回来てもらうわけにもいかない」
「気にしなくていいのに」
「俺が気になるんだよ」
「ゆう……」
なんで悲しそうな顔するんだよ。
むしろ自立を喜ぶシーンじゃない?
真央がため息を吐く。なんでちょっと嫌そうなんだよ。
「わかった。じゃあ、放課後うちに来て」
「助かる」
さすがは真央だ。
なんだかんだで最後に頼りになるのは真央しかいない。
ホッとしながら俺は教室に戻ろうとするが、
「……ゆう」
真央に呼び止められた。
「どうしたんだよ。早くいかないと遅刻するぞ」
どこか思いつめた眼差しだ。ここまで切羽詰まった真央を見るのは珍しい。
「ゆうは亜里沙のことが、好き、なの?」
「はぁ!?」
びっくりした。まさかそんな風に見られていたなんて。そりゃ許嫁で一つ屋根の下で暮らしているとはいえ――。って、誤解するのは当たり前じゃないかこれ。
「だって、ゆう、私以外の女の子と話すことなんてなかったし……。それにおっぱいばっかり見てるし……」
別におっぱいばっかり見てるつもりは……あるかもしれない。
「あ、あれは亜里沙の全身像を視界に収めるときおっぱい含有量が平均基準値を大きく超えているからであって意図しておっぱいばかりを見てるつもりは」
「ないの?」
あるかも。
「もしも、亜里沙ちゃんのこと好きだったら言なさい。応援――」
「いやいや、ちょっと待てって。確かに亜里沙のことは嫌いじゃない。むしろ、好きだ。でも、男女間の好きじゃない」
「どういうこと?」
「亜里沙の家ってあまり家庭環境が良くないみたいなんだ」
それだけ言うと、真央は何かに気づいたように顔を上げた。
「……俺の家族って父さんと母さんが離婚して家庭崩壊しただろ?」
あのときのことは思い出したくもないくらいだ。
「一人きりだった俺を救ってくれたのは真央や真央のお母さんだ。本当に感謝してる。だから、俺も同じようになりたいんだ」
「そう」
話を聞き終えた真央は呟いた。
「ゆうがそう言うなら信じる。がんばってね」
よかった。やっと笑ってくれた。
話を聞けばきっと俺の味方をしてくれると信じてた。そういうやつなんだ。真央は誰よりも優しい。他人の不幸に同情して本気で泣くことができる稀有な存在だ。
「ああ、ありがと」
そう、今は好きとか嫌いとか言っている場合じゃない。
「おーい、お前ら早く教室に戻れー」
「「す、すみません」」
見回りに来た生徒指導の先生に急かされて俺たちは慌てて教室に戻る。
――亜里沙視点――
「あれー? 真央先輩じゃないですか。ここ一年の廊下ですよ。もしかして、次の時間って移動教室ですか?」
休み時間。偶然亜里沙は真央先輩を見つけた。
「亜里沙」
真央先輩ってば同性から見てもどきっとする仕草で振り向くよね。
髪をかき上げる動作。
クールな横顔。
遠くを見る視線。
人気出るわけだし。
「そう。女子はこの先の家庭科室で調理実習だって」
「だから、先輩いないんですね」
「そう」
あれ、なんかちょーっと気まずい感じじゃね?
「なんかあったんですか?」
「何もないわ」
無表情で否定するがどうにも嘘っぽい。亜里沙は幼い頃から他人の顔色を窺う人間ばかり見てきたお陰で他人の感情の機微には聡い。
「さては……先輩とスケベっちゃいました?」
「……まさか。私は姉としてゆうと接している、つもり」
「ほんとですかぁ? 真央先輩、胸おっきーから先輩に迫ったらイチコロだしぃ」
「それはセクハラじゃない」
「ぐっへっへ。いいじゃないですかぁ」
亜里沙の言い方に真央は肩を竦めた。
「……ほんとに何もなかった」
「ふーん」
明らかになんかあったって言い方じゃん。
「それより、どうかしたの?」
真央は話をはぐらかすように聞いてきた。少しだけ気になったが亜里沙としても本題は真央の隠し事を追求することではない。
「実は真央先輩とラ・インの交換したくて待ってました。……駄目ですか?」
「いいえ、構わないわ」
「やた」
亜里沙が小さくガッツポーズを取った。許可を得てラ・インの連絡先を交換する。
ぴたりと会話が止まる。
それを見計らって真央は顔を上げた。
「……私もひとついい?」
「なんですか?」
「……亜里沙はゆうのことどう思ってるの?」
「ん~、気に入ってはいますよ。てか、気に行ってなければ一緒に住みませんし」
聞きたいのはそういうことじゃないと思うけど。
てか恋とかってなんかよくわかんなくない? 先輩をからかうのはめっちゃ好きだけどそれって恋じゃなくね?
「真央先輩はどうなんですか?」
亜里沙は話題をそらすため、真央先輩に聞いた。
一瞬、真央先輩は考え込むように黙り込む。
「……ゆうは弟だから」
いやいや、それ恋してる人の顔じゃーん!
でも、真央先輩マジかわいー。
ちょっとうらやましい。
――亜里沙視点終了――
―――ラ・イン――
「真央先輩、さっきはありがとー」
「ん。( ¯꒳¯ )b」
「今度二人でどっか出かけませんか?」
「( ¯꒳¯ )b」
「服とか見に行きましょー」
「( ¯꒳¯ )b」
「てか、先輩おそらく格好いい系の服しか持ってないですよね? たまにはいひょーってやつ突いたりしませんか?」
「( ¯꒳¯ )b」
「てかさっきから顔文字ばっかりじゃないですか」
「((-ω-。)(。-ω-))フルフル」
「ってそれも顔文字やないかーい」
――ラ・イン――
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